50-4 クロムワルツ公爵への挨拶。②
「そう言えば、お風呂なるものが流行しておると聞きましたぞ。
浴槽にお湯を入れて、体を清めるとか。
これは、ルーク考案のものなのですかな?」
クロムワルツ公爵は、お風呂の話題を持ち出す。
「いえ、僕考案ではないですよ。
実は、南の大陸のお風呂を模倣したものなんですよ。」
「ほぉほぉ、なるほどなるほど。
南の大陸に行ったことは聞きましたぞ。
偉く大変な役割を、皇帝陛下も仰せつかるものですな。」
「まぁ、船に乗って南の大陸に渡りましたからね。
片道1カ月の旅程でした。
今思えば、よくこなせたと思いますよ。」
「なんと、片道1カ月ですか!?
それはまた大変ですな。」
「でも、そのおかげで友好条約が結べましたからね。
これで、皇帝陛下の狙い通り、果物が定期的に入手できるそうです。」
「ほぉ、果物ですか。
となると、陛下の狙いは、果物の栽培ですな?」
本当に鋭い方である。
「さすが、公爵ですね。
その通りです。
今のところ、オレンジなる果実しか見ていませんが。
他にも、色々な果物が、輸入されるかもしれません。」
「あの、オレンジってどんなものなんですか?」
ミシェリが質問してきた。
「そうですね。
オレンジ色の・・・って、説明が難しいですね。
実際に見てもらいましょうか。」
そう言うと、ルークは手のひらに、オレンジを出現させたのだ。
これには、公爵がびっくりする。
「わあ、これがオレンジですか?」
ミシェリが目を輝かせる。
「なんと!?
ルークは、魔法で創り出せるのですか!?」
公爵はびっくりしていた。
「まぁ、この程度であれば、魔法で創れます。
ミシェリ、公爵、お一つずつ、どうぞ。」
ルークはもう一つオレンジを出現させ、二人に渡す。
二人は早速、よく見たり、匂いを嗅いだりする。
「ふむ、変わった匂いですな。
いや、これは良い匂いですな。」
「うん、これは、いい匂い。
おいしいのかな?」
二人には好評のようだ。
「では、皮をむいてみてください。
ミシェリ、できるかい?」
ミシェリは、早速、皮むきを開始する。
すると、あっさりと皮がむけたことに驚く。
「なんと、こんなに簡単にむけるものなのですな。
どれ、私もやってみましょう。」
公爵も試してみる。
すると、あっさりと皮がむけたのだ。
「オレンジは、皮の中にある実を食べることができます。
一つ一つ、綺麗に取れるようになっていますので、
取って食べてみてください。」
「どう取るんですか?」
ミシェリから質問が飛んでくる。
「ちょっとお借りしてもいいですか?」
ルークは、実と実をうまくはがすように、手で切り分ける。
すると、実のかたまりが半分になったのだ。
「あ、なるほど。
この白いのがくっついているんですね。
これを切り分けて行けば・・・」
ミシェリは、気が付いたようだ。
そして、ルークと同じように、実を分けていく。
無論、公爵も見よう見まねで、実を分けていく。
そして、ようやく分け終わった後、口に運ぶ。
「むっ!?
これは、甘酸っぱい!!
不思議な食感だ!」
公爵が早速感想を漏らす。
「甘酸っぱいです!
何ですか、この味!?」
ミシェリは、変わった味に、興奮していた。
「面白い味ですよね?
これが南の大陸のオレンジというものです。
甘みと酸っぱさが合わさった、変わった食べ物だそうですよ。」
「ふむ、このようなものが南の大陸にあるのか。
いや、これは、皇帝陛下も欲しがるはずだ。
このような味の食べ物は、ありえないですからな。」
「でも、とても美味しいですよ。
輸入されるようになれば、いつでも食べられるようになるのかな?」
ミシェリは、まだ食べたいようだ。
「輸入されれば、食卓に乗るようになると思いますよ。
ただ、輸入量がどの程度になるのか、それ次第ですね。
それと船での輸送ですから、最初は不安定かもしれませんね。」
「確かに、安定した輸送が築けない限りは、仕方ないかもしれませんな。
しかし、かような珍味、是非とも輸入して、
我が国で生産してほしいものですな。」
「まぁ、それでも、数十年はかかるでしょうね。
クリシュナ殿下がどこまで力を入れるかがカギですね。」
その時、ミシェリが更なるリクエストをしだしたのだ。
「ねえ、ルーク様。
梨と林檎も出してもらえませんか?
お父様に食べてもらいたいです!」
「はい?
・・・しょうがないですね。
公爵、ナイフと複数枚の皿、
そして小さなフォーク2つを用意してもらえますか?」
これには、クロムワルツ公爵が疑問符を浮かべる。
「ふむ、それは構いませんが、何をするのですかな?」
公爵は、執事に、早速準備を依頼する。
ルークは両手の中に、梨と林檎を出現させたのだ。
「こ、これは!?
これもまさか、果物ですかな?」
「そうだよ、お父様!
触ってみて!」
ミシェリがそう言ったので、ルークはテーブルの上に、梨と林檎を置く。
早速、公爵は梨に触れてみる。
「ふむ、丸いものなのだな。
匂いは・・・
ほんの少し甘い香りがするな。
こちらはどうであろう?」
次に林檎を手に取る。
「こちらも丸いものなのだな。
匂いは、特にしないのだな。
いやはや、これらは一体どうされたのだ?」
「この二つの果物は、エルフ族に分けてもらった物なんです。
頂いた物は全て食べてしまいましたが。
これは、その情報を元に、魔法で創り出したものです。
ですから、形や味に遜色はないですよ。」
「エルフ族ですと!?
ルークは、いつの間に、エルフ族と交流を!?」
公爵は驚いていた。
「つい最近、エルフ族を助ける機会がありまして。
その時、果物を分けてもらったんですよ。
ちなみにですが、春には苗木を分けてもらう予定です。」
「ほぉほぉ、なるほど。
となると、梨や林檎といった果物も育てられるのですな?
しかし、エルフ族は果物を食べる種族。
この二つとは限らないのでは?」
「それに関しては、まだ聞いていないので何とも。
ただ、多くの果物を育てているとは聞いていますので、
今度尋ねてみる予定です。」
「なるほど。
いや、これは、凄い事ですぞ!
これらの苗木を育て、もし育成に成功すれば、
我が国は果物生産国になりますぞ。
皇帝陛下がお喜びになるでしょうな。」
公爵は興奮していた。
「はい、恐らくは。
これと、南の大陸のオレンジが育成できれば、間違いなく、
庶民にも果物が食べられることでしょう。
他国にも輸出できるようになるでしょう。」
「いや、楽しみが増えますな。」
公爵は上機嫌だ。
その時、ドアがノックされ、ルークの依頼した品が届く。
ルークは早速、梨とナイフを手に取る。
皮をむき、四等分に切って、種を取り去り、八等分に切る。
そして、皿に乗せて、テーブルの真ん中に置く。
「まずは、梨です。
試食してみてください。」
公爵は小さいフォークを手に取ると、梨を刺して、口元に運ぶ。
そして、噛んで、しっかりと味わう。
「むぅ、これは甘い!
いや、自然な甘さだ。」
感動していた。
その間、ミシェリもちゃっかり食べていた。
ルークは、次に林檎をむき始める。
そして八等分まで済ませると、テーブルに置いた。
「今度は、林檎です。」
「では、頂きます。」
公爵はフォークを刺して、口に運ぶ。
「ふむ、こちらは梨よりも甘味が強くないのだな。
だが、いい甘味だ。
それに、このしゃりしゃり感がたまらん。」
お気に召したようだ。
無論、ミシェリもつまんでいた。
「いや、これは、貴族もだが、庶民にも受ける味だ。
これはいいものだ。
是非とも、育成に頑張って頂きたい!」
クロムワルツ公爵は力強く言った。
「そうですね。
寒さに強い品種と聞いていますので、この地でも育つと予想しています。
だから、きっと、うまくいくと僕は思っていますよ。」
ルークは笑みを浮かべ言った。
「そうですよ。
こんなにおいしいもの、きっとうまくいきますよ。」
ミシェリは根拠なく言う。
それから、公爵とミシェリによる、梨と林檎の取り合いに発展したのだが、ルークは黙って見守るのであった。