50-3 皇帝陛下への挨拶。②
「ところで、お風呂なるものが都市ミルディアで噂になっているが、何なのだ?」
皇帝陛下はお風呂について質問してきた。
「それは私も聞きたいと思っていたことでした。
ルーク、君は、何をしたのだ?」
クリシュナも興味があるようだ。
「お風呂というのは、体を清める場所のことでございます。
通常、水で体を清めていると思うのですが、それをお湯、
つまり水を温めたもので、体を清めているんですよ。」
「ふむ、水を温めたものか。
なるほどな。
では、浴槽とは一体何なのだ?」
どうやら、皇帝陛下は細かいところまで知っているようだ。
「浴槽とは、お湯を溜める入れ物のことです。
実は、そこで魔法の処理を施していまして。
溜めた水を“呪紋”を使って、お湯に変換しているのですよ。」
「“呪紋”だと!?
そんな技術もあるのか!?」
クリシュナは驚く。
「ふむ、となると、その技術、この辺のものではないな。
さては、南の大陸のものだな?」
皇帝陛下は見事にいい当てた。
「さすが、陛下。
その通りです。
このお風呂という文化は、南の大陸のものです。
僕はお風呂に入り、どうしてもこの文化を取り入れたいと思いまして、
エリス様に仕組みを聞いて取り入れたのです。
まずは、僕の城に導入しました。
すると、城内の皆さんから好評をいただきましてね。
そこで、大衆浴場を作りました。
一般平民にも使えるように、開設したのです。
すると、かなりの人気があって、ちょっと大変なことになっています。」
ルークは笑いながら答えた。
事実、大衆浴場は毎日満員状態だったのだ。
しかも、かなり儲かっていた。
これは驚きの事実であった。
「なるほど。
して、効果や効能はあるのか?」
「はい、もちろんです。
聞いたところでは、病気治癒や、疲労にも効くそうです。
身近の話ですと、腰痛にもかなり効果がありますよ。」
「それだけじゃないんです!
お父様、美容にも効果があるんですよ。
それに、体がぽかぽか温まるんですよ。
冬の寒さなんて、お風呂で解決できちゃうんですよ!」
ルークの次に、アリシアが熱を込めて話す。
「ほぉ、病気や疲労にも効くのか。
しかも腰痛まで。
美容にまで効果があるとは意外だな。」
皇帝陛下は笑みを浮かべる。
「ルークよ、その文化、この国に広めることは可能か?
特に“呪紋”とやらが難しくなければ、誰にでもできそうなものか?」
「はい、できると思います。
“呪紋”は難しくはありませんので、魔導士であれば理解できると思います。
それと、宝珠を使います。
水を運ぶのは手間ですからね。
水を創り出す魔法を封じた宝珠を用意するんです。
これは、僕にしか創れませんが、大量に用意できますよ。」
「なるほどな。
クリシュナよ、お風呂という文化、この国に取り入れようではないか。
各貴族たちにも指示を出すのだ。」
「承知しました。
ルーク、今度、仔細を伺うため政務官を派遣する。
頼んだぞ。」
「お任せください。
うちの政務官が全て把握していますので、説明は問題ありませんよ。」
ルークの言葉に、クリシュナがうなずく。
これにて、お風呂の文化が、ルーニア皇国内に広まるきっかけが開始されるのだった。
「どうせなら、お兄様もお風呂に入るべきなのよ。
結婚式前に早く来て、お風呂に入ってみたらどう?
それに、トリニア様とレヴィにも、お風呂に入ってほしいし。
気持ちいいよぉ~。」
アリシアが、三人に、お風呂を勧めてきた。
「アリシアのことだ、この勧め方をするということは、かなり気に入ったな?」
クリシュナは、図星をついた。
「えへへ、かなり気に入ってるよ。
是非、入りに来てよ!
それより、王城に早く設置しなよ。
きっと、お父様も気にいるってば。」
皇帝陛下は笑みを浮かべる。
「アリシアがここまで勧めるのも珍しいものだな。
お風呂とやら、楽しみだな。」
「ルーク、“思念連結”で、見せてもらえないか?
お風呂とは、どういったものか?」
「いいですよ。
では、うちの城のお風呂の映像を見せますね。」
ルークが、アリシア以外に“思念連結”を繋ぐ。
すると、全員の脳内に、都市ミルディアの城にあるお風呂の情景が映し出されるのだ。
これには、皆、驚きの表情を浮かべる。
「ほぉ、これがお風呂か。
なるほど、これは今の時期によさそうだな。」
皇帝陛下は関心を示す。
「なるほど、かなり広く場所をとるのだな。
そうか、これが浴槽か。
2~3人は入れるな。
ふむ、これはよさそうだな。」
クリシュナも興味を抱いたようだ。
トリニアとレヴィも驚きつつ、アリシアの言葉を思い出していた。
「でしょでしょ?
映像だけじゃ、わかんないと思うから、うちに来て!
特に、女性陣が一番感想を述べられるはずだよ。」
「ふむ、そうか。
では、レヴィを・・・
いや、今はダメか。
安静にしないとな。」
その言葉に、アリシアが噛みつく。
「ん?
なんでレヴィが安静にしないといけないの?」
「あ、いや、実はな。
トリニアとレヴィが妊娠したんだ。
だから、安静にするよう、お願いしたんだ。」
これには、ルークとアリシアが驚く。
「懐妊されたのですね。
おめでとうございます。
今度、何かお祝いの品を・・・」
クリシュナは急ぎ、ルークの言葉を遮るのだ。
「いや、ちょっと待て、ルーク。
祝いの品はいらない。
実はな、クロムワルツ公爵をはじめ、
王都周辺の貴族から祝いの品を大量に頂いたのだ。
置き場所に困っているくらいなのだ。
だから、今はお断りしないといけない状況でな。」
クリシュナにとっては、嬉しい悲鳴のようだ。
「確かにな。
特に、クロムワルツ公爵が広めたのだろう。
あやつ、情報が早いからのう。
困ったものだ。」
皇帝陛下はため息を吐いた。
さすがは、クロムワルツ公爵だ。
情報通であり、行動も早い。
相変わらず、侮れない方だ。
「わかりました。
では、お言葉のみで。
クリシュナ殿下、トリニア様、レヴィさん、おめでとうございます。」
ルークとアリシアが頭を下げる。
「ありがとうございます、ルーク様、アリシア様。」
トリニアは笑みを浮かべる。
「その、私のようなものにまで、ありがとうございます。」
レヴィは遠慮がちだ。
「今度、二人には、お風呂案内するからね。
必ず来てね。」
アリシアは、そう付け加えるのだった。