49-7 お風呂体験。②
一方女性陣は、三階のお風呂に入っていた。
「ふう、これはとてもいいですね。
体がぽかぽかして、とても温まります。」
サーシャは、とても気持ちよさそうに、浴槽に浸かっていた。
「いいでしょ?
赤ちゃんも喜んでいるし。」
ミレーナは赤ん坊の面倒を見ていた。
泣き出すかと思ったが、泣かなかったのだ。
それどころか、喜んでいた。
赤ちゃんは、風呂桶に入れていた。
無論、溺れないよう、お湯の量は浅くしてある。
そして、軽くかけ湯してあげていたのだ。
「姉様、私、毎日入っているんですよ。
最近、ずっと寒いじゃないですか。
そんな時は、お風呂ですよ!」
「えぇ、いいわね、これ。
是非、お城にも欲しいですわ。」
「ルーク様にお願いするといいですよ!」
ミシェリが提案する。
「その前に、旦那様が提案すると思いますけどね。」
サーシャは、笑顔でそう述べる。
事実、その通りになりつつある。
「そうね、兄さんなら、こんないい物、無視するわけないわね。」
ミレーナも、そう述べる。
兄妹なのだ、なんとなくわかるのである。
「ちなみに、垢がすんごい落ちますよ。
水とは段違いです。
体がピカピカになりますよ。」
「あら、本当に?
美容にもいいのね、お風呂って。」
「はい、いいことづくめです!」
サーシャとミシェリの楽しそうな会話が続く。
「これなら、お父様にもお勧めしたいですね。
お父様も、きっと喜ぶわ。」
サーシャの言葉に、ミシェリもうなずく。
「そうですね。
お父様もお忙しい方ですから、お風呂でゆっくりして欲しいですね。
今度会った時、提案してみますね。」
「えぇ、お願いね。
きっと喜ぶわ。」
ちなみに、サーシャとミシェリのお父様とは、ご存知、クロムワルツ公爵のことである。
確かに、忙しい方だから、喜ぶに違いない。
三人と赤ちゃんはお風呂を楽しむのだった。
一方、お風呂を楽しんだルークとレイヴンは、ルークの執務室に移動していた。
そこで、グリディアを呼び出して、お風呂設置にかかる費用や、工事内容の確認を行う。
レイヴンはやる気のようだ。
グリディアも、強く勧めていた。
ルークはそんな二人の会話の補佐に徹していた。
そして、レイヴンがお風呂設置を決めたのは、この時だった。
帰ったら即実行すると言ったぐらいなので、間違いはない。
一方、女性陣は、お風呂を上がった後、アリシアとリリアーナ、メイリアも交えて、のんびりと過ごすことになった。
集合場所は、ミレーナの部屋である。
アリシアとリリアーナは、赤ちゃんに注目していた。
「あ、あの、赤ちゃん、抱いてもいいですか?」
アリシアが、早く触りたいのであろう、挙手したのだ。
「はい、どうぞ。」
サーシャよりアリシアへ赤ん坊が渡される。
「か、かわいい・・・」
アリシアは感動していた。
当初、赤ちゃんは大人しかったのだが、アリシアが抱いてちょっと経ってから、泣き出したのだ。
「あ、えっ、あ、あれ!?」
アリシアはあやすものの、なかなか泣き止まない。
「えーん、助けてぇ~!」
アリシアは、すぐにギブアップした。
その時、メイリアが助け船を出した。
メイリアが、赤ん坊を抱っこしあやすと、不思議と泣き止んだのだ。
「男の子ね。
かわいいわ。
この子はね、ちゃんと抱っこしないと、居心地が悪いみたいよ。
だから、しっかり抱っこしてね。」
これには、サーシャが驚く。
「あの、メイリア様は、わかるのですか?」
「えぇ、これでも、男の子を二人育てているんですよ。」
メイリアは笑みを浮かべる。
「あの、お母様、私も抱っこしていいですか?」
リリアーナがせがんできたのだ。
「はい、優しくね。」
メイリアは、赤ん坊をリリアーナに渡す。
リリアーナはさきほどの言葉通り、しっかりと抱っこする。
すると、赤ん坊は泣かなかったのだ。
「赤ちゃんって、かわいいんですね。」
リリアーナはニコニコしていた。
赤ん坊も嬉しそうだ、ご機嫌だった。
「そっか、男の子は、しっかり抱っこか・・・」
アリシアはぶつぶつ呟きながら覚えていた。
「それにしても、赤ちゃんって、かわいいですね。
私も欲しいです!」
ミシェリがそんなことを言い出す。
「そうね、来年、ルーク様と結婚すれば、もらえるかもよ。
まぁ、ルーク様次第だけどね。」
サーシャはそんなことを言い出す。
それに同意なのか、メイリアもうなずく。
「ルーク様次第なんですか?」
ミシェリはわかっていなかった。
ミシェリ以外の三人はわかっていた。
だから顔を赤くしていたのだ。
そんな感じで、赤ちゃんを交えた雑談は、夕食前まで続くのだった。
夕食の時間となった。
全員、食堂に集合していた。
もちろん、レイヴンとサーシャも集合していたのだ。
赤ちゃんは、乳母に預けられたため、この場にはいない。
ルークは座席に座る。
すると、料理が運び込まれる。
テーブルの上に全ての食事が乗ると、ルークが声をかける。
「それでは頂きましょう。」
皆が食事に手を付け始める。
食事は、いつもの食事だ。
レイヴン夫妻が来るからといって、特別な料理を用意する訳ではない。
食事が進むと、会話が発生し始める。
「サーシャ、お風呂の件、設置する予定だから、楽しみにしていてくれ。」
レイヴンがサーシャに声をかける。
「あら、そうなんですか?
それはとても楽しみですわ。」
サーシャはニコニコ笑顔だ。
「良かったですね、サーシャ姉様。」
ミシェリも大喜びだ。
「兄さんもお風呂を気に入ったのね。
どうだった?」
ミレーナの質問に、レイヴンが答える。
「あれは、いいものだった。
体が芯から温まる。
それに、気持ちが良かった。
ああいういい物は、設置しても問題ないだろう。」
「そっか。
じゃ、お風呂が出来上がったら、ゆっくり浸かってね。」
「ああ、そうするとも。
しかし、南の大陸の文化とは凄いものだな。
他にもおもしろい文化はあるのか?」
レイヴンはルークに質問する。
「うーん、そうですね。
実を言いますと、それほどのんびりしていたわけではないので、
あれこれ見てこれなかったんですよ。
今度、エリス様に聞いてみますね。」
「エリス様とは何者だ?」
「平たく言うと、南の大陸の支配者です。
しかも、“大魔王”を名乗っている方です。」
「“大魔王”だと!?
“魔王”は聞いたことがあるが、悪意の存在ではないのか?」
「その真逆ですね。
どちらかというと、人間の味方ですよ。
本人も人間ですし。」
「ほう、そうか。
是非、お会いしたい方だな。」
レイヴンは関心を抱く。
「実は、僕の結婚式の時に来るって言ってましたので、
その時に会えると思いますよ。
ただしですが、僕より遥かに強い方なので、失礼のないように。」
「ん!?
君よりも強いのか!?
・・・それが事実なら、凄いことだな。
上には上がいるということか。」
レイヴンは驚きを隠せなかった。
「まぁ、そんなとこですね。
ですが、普段は全く強さを見せないので、
普通の人間と変わりないんですよね。
ある意味、不思議な方でした。」
これは、ルークの素直な感想である。
国家元首なのに、全然強さを感じなかったのだ。
不思議以外の表現はなかった。
それからは、お風呂の話題を中心に雑談が続いていく。
そして、夕食が終わり、各自、部屋でのんびり過ごすのだった。
レイヴン一家は、客室でミレーナとミシェリのお茶会の接待を受け、のんびり過ごすのだった。
こうして、夜が更けていくのだった。