49-5 ミレーナの憂鬱。
翌日。
朝食時、ミレーナは、ルークをちらちらと見ていた。
だが、ルークは気付く雰囲気がない。
食事に集中しているようだった。
そして思わず、ため息を漏らしてしまう。
その時、ルークがこちらを見た。
「どうしました、ミレーナ?
ため息なんてついて?」
「えっ!?
あ、ご、ごめんなさい。
何でもないです。」
ミレーナは恥ずかしくなった。
ミレーナはごまかすように、食事に集中するのだった。
ミレーナは部屋に戻ると、暖炉の前でのんびり過ごす。
体を温めながら、のんびりしていた。
その時、ぼんやりと考え事をしていた。
私は、本当にルーク様に恋しているのか、と。
最近は、ルーク様の顔を見ても、顔が熱くなることはなくなった。
むしろ、ルーク様と出会った頃と同じくらい、じっくり見ることができるようになったのだ。
慣れてしまったのだろうか?
となると、以前のように、恋をしていないのだろうか?
自分でわからなくなっていたのだ。
どうしよう、このままでいいのだろうか?
ミレーナは悩んだ。
誰に相談すればいいのだろうか?
考える。
そして、思いつく。
ミレーナは、席を立つと、部屋を出て行くのだった。
訪れたのは、メイリアの部屋だった。
「失礼します。
あの、お母様、ご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。」
メイリアは、ソファに座り、何かを編んでいた。
毛糸の球が転がっていた。
「あの、何をされていたんですか?」
「えぇ、昔ね、毛糸でマフラーを編んだことがあったの。
それを思い出して、編んでみているの。
でも、思いのほか、うまくいかないものね。」
メイリアはそう言うものの、毛糸を編み続けていた。
棒状の針を二本、うまく使いながら、編んでいく。
少し、形ができていた。
「・・・あの、お母様、その、相談があって。」
「なんですか?
相談事なら、なんでも言ってくださいね。」
メイリアはにこやかに答える。
「・・・あの、その・・・」
ミレーナは迷いつつも、話す覚悟を決めた。
「・・・私は、ルーク様に本当に恋しているのかなって、考える時があるんです。
その、今日もそうなんですが、ルーク様の顔を見ても、普通に見えてしまって。
その、以前の自分と違うというか。
あー、何ていったらいいんだろう・・・」
ミレーナはうまく説明できない自分を恥じた。
「そうですね。
相手に近づくと、恋をしているのか、疑問に思うこともある。
それは、何となく、わかります。」
「そうなんですか?」
ミレーナの問いに、メイリアはうなずく。
「あんまり近くにいると、それが当たり前になってしまいますからね。
だから、恋をしていることも忘れてしまうんです。
きっと、そういうことだと思いますよ。」
「じゃ、私は、恋をしていることを忘れてしまったのでしょうか?」
メイリアは、一旦呼吸を整えて、話し始める。
「でもね、本当に忘れているわけではないの。
何かがきっかけで思い出すものなのよ。
例えば、相手に触れた時、抱き締めた時。
そんな些細なことで、相手に対する気持ちを鮮明に思い出すのよ。」
メイリアは、優しく言った。
「そうなんでしょうか?
その、手を握ったり、抱き締めたりすれば、思い出すのでしょうか?」
「えぇ、きっと思い出すわよ。
私は、この人に恋をしているんだって。」
メイリアの言葉に、ミレーナはうなずく。
「今度試してごらんなさいな。
きっと、思い出しますよ。
そして、ルーク様なら、そんなあなたを優しく抱きとめてくださいますよ。」
ミレーナは、メイリアの言葉を信じてみることにした。
「はい、その、試してみたいと思います。
自分に、自信がありませんが・・・
その、確認したいと思います。」
「はい。
頑張ってね、ミレーナ。」
メイリアは笑顔でうなずくのだった。
夜。
ルークは執務室で、のんびりと日誌を書いていた。
そして、書き終えたので、棚に日誌を戻す。
「さて、そろそろ遅いし、眠ろうかな?」
そう思った矢先だった。
ドアがノックされる。
この時間、マークはいない。
マークは休んでいる時間なのだ。
外に、執事がいたはずだが?
ルークは扉を開こうとした時、ドアが勝手に開いた。
ドアを開いたのは、ミレーナだった。
「あの、ミレーナ様!?」
執事は驚いていた。
「どうかしましたか、ミレーナ?」
何かあったのだろうか、ルークは緊張した。
その時、ミレーナは何も言わずに、ルークを抱きしめたのだ!
「ミレーナ?」
突然のことだったので、ルークは驚いた。
「ごめん、このままで。」
ミレーナはそれだけ言うと、ルークを抱きしめたまま、動かなかった。
ミレーナは、ルークを抱きしめた瞬間、体が熱くなるのを感じた。
そして、ドキドキが収まらなくなったのだ。
そう、恋を意識した瞬間に起きた現象が、今まさに起きていたのだ。
そして、ミレーナは確認した。
私は、ルーク様に恋をしているのだと。
抱き締めた瞬間、確認できたのだ。
ルークが優しく抱き締めてくれた瞬間、更にその思いが強くなった。
頬が熱くなるのを感じた。
間違いない、私は恋をしている。
ミレーナは、そう感じ取っていた。
「ミレーナ、大丈夫ですよ。」
ルークは、ミレーナの頭を優しくなでる。
その行為も、ミレーナにはとても嬉しかった。
しばらくこうしていたい。
ミレーナは、しばらく、ルークを抱きしめたまま動かなかった。
そして、満足すると、ゆっくりと離れる。
その時は、すでに全身が熱くなっているのを感じていた。
「落ち着きましたか?」
「・・・はい、ありがとうございます、ルーク様。」
「いえ、また何かあれば、抱き締めますよ。
だから、遠慮なく言ってくださいね。」
ルークの優しさに、ミレーナは感謝するのだった。
こうして、ミレーナは恋を再認識することができた。
これは、彼女にとって、大発見であった。
そして、ルーク様に恋をしていいんだと、思うのだった。