4-11 視察という名の刺客。
早速、ルークは着替えることになった。
当面は、この屋敷の部屋を借りて過ごすことになる。
食事もつくということで、いいことずくめだった。
ルークは、メイドに連れられて、とある部屋に入る。
そこで、メイドに服を脱がされ、着替えさせられるという地獄にあった。
決して天国ではない。
メイドは女性なのだ。
その女性に裸を見られた上で着替えをさせられるのだ。
恥ずかしいことこの上なかった。
着替え終わった時点で、ルークは恥ずかし過ぎて死にたくなっていた。
だが、レイヴンの護衛である以上、普段着で行動するわけにはいかない。
ルークは今や、黒いスーツのような服を纏っていた。
それに、剣を佩くのだ。
若干似合わないのだが、そこは致し方ない。
ちなみに、着替えの仕方は教えてもらったので、今度からは自分で着替えられる。
「よく似合っているじゃないか、ルーク。」
レイヴンはルークの姿を見て、にやにやしていた。
ミレーナも同様である。
さすが兄妹だ、似たもの同士だ、とルークは思った。
「さて、早速で悪いが、昼過ぎから視察がある。
ミルドベルゼ子爵家が管理している騎士団の視察だ。
護衛の任、頼むぞ、ルーク。」
「はい、了解しました。」
昼。
ルークは、レイヴンに従い、騎士団の視察に赴いていた。
ちなみに、レイヴンにはルークの他に2名の護衛がいた。
ルークのことを新たな護衛と紹介してもらい、2人にも認識してもらうのだった。
これで、レイヴンには、3名の護衛が付いたことになる。
簡単に攻めるのは難しい状況だった。
「レイヴン様、ようこそいらっしゃいました。
こちらへどうぞ。」
一人の痩せた騎士が、レイヴンに道案内を行う。
騎士訓練場では、多くの騎士や訓練生が訓練を行っていた。
ちなみに、昼前に聞いた話によると、この騎士団の直接の上司は、皇帝になるという。
つまり、皇帝管轄の騎士団ということになる。
それを、ミルドベルゼ子爵家が借りており、管理も任せられているのだという。
これは、皇帝の信用なくば叶わない事例である。
子爵と爵位は低いものの、皇帝の信頼が高いということを意味していた。
レイヴンは、病気勝ちの父親に代わり、定期的に騎士団の視察を行っていた。
レイヴンの様子を見る限り、騎士団の状況に満足しているようだ。
ルークは、周囲警戒を常に行っていた。
剣に手をかけているわけではないが、いつ敵が襲ってくるかわからないからだ。
「では、これより、模擬試合を行います。
レイヴン様も、お近くで御覧ください。」
「あぁ、そうさせてもらおう。」
ルークはレイヴンの後ろに控える。
すると、真剣を持った2人の騎士がレイヴンに挨拶をする。
どうやら、真剣で試合を行うようだ。
その時、レイヴンの表情が動いた。
「おい、真剣で勝負するとは聞いていないが?」
「はい、本日は、レイヴン様に直に真剣による勝負を見て頂きたいと思いまして、
趣向を凝らした次第です。」
その言葉に、ルークは嘘の匂いを感じたのだ。
御前試合とはいえ、真剣で、しかもこんな近くで行うものなのか?
これは、何かキナ臭い匂いがしたのだ。
レイヴンは気にしていないのか、試合に見入る。
騎士同士、白熱した試合を展開していた。
2人とも、かなりの手練れのようだ、なかなか決着がつかない。
ところが、1人が大きくよろけたところを、相手が大きく剣で弾いて見せたのだ。
途端、よろけていた騎士がこちらに向かって倒れそうになったのだ。
いや、違う!
倒れそうになったフリをして、レイヴンを斬り捨てにかかってきたのだ!!
護衛2人は、動こうとしたが遅い!
騎士の剣が、レイヴンに襲い掛かる!
その時、ギキィーンという剣戟の音が、レイヴンの目の前で発生したのだ。
ルークが剣で受け止めて見せたのだ。
ルークは相手が剣を構えた瞬間に動いていた。
素早く剣を抜き取り、レイヴンの目の前に現れていたのだ。
そして、見事に剣を防いでみせたのだ。
「ちっ!?」
相手はレイヴンを斬り損ねたことに驚き、慌てて後ろに下がる。
そして、剣を構え直したのだ。
ルークは、その騎士から殺気を感じていた。
明らかに、レイヴンを狙っていたのだ。
ルークもまた剣を構え直し、相手を睨み付ける。
ちなみに、相手をしていた騎士は、何が起きたのかわからないのか、ぼーっと突っ立ていた。
「でぇやあああぁぁぁっ!!」
怒号をあげながら、騎士が上段からルークに斬りかかる!
だが、ルークは、横に回避して見せると、敵の両肘を同時に斬り捨ててみせたのだ。
騎士の両肘から先が吹き飛ぶ。
血しぶきが舞い、地は鮮血で濡れていく。
「ぐぅあああぁぁぁっ!!!」
騎士は、叫びながら地面にひざまずく。
こうして、レイヴンは危機を回避したのだ。
「誰の差し金だ、答えろ。」
ルークは騎士の喉元に剣の刃を突き付けて、問う。
騎士は肘から血を流しながらも、意識はあった。
「言う、言うから、命は助けてくれ!!
俺はカリオテ様に頼まれてレイヴン様を暗殺しようとしたんだ!
だから、助けてくれ!!」
カリオテとは、ミルドベルゼ子爵の名前である。
「父上が何故!?
それは事実なのだろうな?」
レイヴンは疑いの目で騎士を睨み付ける。
「はい、事実です。
だから助けてください!!」
騎士は必死だ。
だが、レイヴンは納得いかない表情だ。
彼を信頼している父親が、レイヴンを殺せと刺客を向けるだろうか?
何かがおかしいとルークは感じ取っていた。
それともう一つ。
レイヴンの案内を行っていた痩せた騎士の表情が、さきほどからおかしいのだ。
明らかに笑っていたのだ。
この非常時に、笑っていられるのか?
くそ、こいつらは何か隠している。
そして、疑心暗鬼にさせるつもりの可能性が高かった。
真実を知る方法があれば・・・
ルークはそこで悟った。
創ればいいじゃないか、と。
ルークは胸に手を当て、創造を試みる。
真実を見破る力を。
途端、騎士の頭の中が見えたような気がしたのだ。
「レイヴン様、この騎士は嘘をついています。」
その途端、騎士の表情が曇る。
「ほう?
どういうことだ、ルーク?」
「はい、この騎士は、嘘をつくように命令されていたんです。
つまり、レイヴン様の父上の命令と見せかけて、
疑心暗鬼にするのが目的だったんです。
その証拠に、彼は誰の命令で、この暗殺劇を行ったのか、
知っているんですから。」
ルークの言葉に、騎士はがくがく震えている。
「誰の命令なんだ?」
レイヴンは短く問う。
「はい、ブレオン様の命令です。」
その言葉に、痩せた騎士は焦った表情を浮かべている。
「そして、そこにいる騎士もグルです。
なぜなら、彼がこの騎士に暗殺を指示したからです。
彼は、この騎士の上司だったから、命令に逆らえなかったんです。」
ルークは、痩せた騎士を睨み付ける。
「ば、馬鹿な!?
私は何も知らない、何も!」
痩せた騎士は慌て出す。
その間、レイヴンの護衛が、痩せた騎士を取り押さえる。
「いえ、あなたは騎士団長への昇格と引き替えに、
レイヴン様の暗殺を請け負ったんです。
焚き付けたのは、ブレオン様です。
僕の前では、嘘はつけませんよ?」
痩せた騎士の表情は真っ青だ。
「ルーク、もしや、魔法で真実を見抜いたのか?」
その問いに、ルークは即答する。
「はい、“思考読破”という魔法なのですが、相手の思考を読み取れます。」
「そうか、初めて聞いた魔法だ。
ならば、ルークの前では、嘘は吐けぬな。」
そう言って、レイヴンは笑みを浮かべる。
「騎士たち、この二人を捕らえて尋問にかけよ。
処断はのちほど私が下す。」
レイヴンの命令に、刺客だった騎士2名は捕らえられるのだった。




