39-5 結婚式前夜。③
「明日だが、ルークたちは、目立たないように行動する予定なのか?」
「そうですね、特に僕は目立つと収拾がつきませんから。
出来れば控えめに動きたいですね。」
クリシュナの質問に、ルークは苦笑しながら答える。
「ルーク様は、そんなに目立つのですか?」
「仮にも、ルーニアの英雄だからな。
しかも、彼はまだ17歳だ。
目立つどころではない。」
「そうだったのですね。
私とあまり変わらない年齢だったのですね。」
トリニアは驚く。
ちなみに、トリニアは16歳で、ルークより一つ下である。
「そして、アリシアもいるからな。
更に目立つことになる。」
「あはは、私も目立つよね・・・」
アリシアは諦めているようだ。
アリシアは皇女であるから目立つのだ。
こればかりはしょうがない。
一応、ルークの婚約者なので、声をかけられるとは思わないが。
「となると、離れた席で結婚式や披露宴は見守る感じか。
まぁ、しょうがないな。」
クリシュナは諦めたのか、大きく息を吐く。
「すいません、もう少し知名度が低かったらよかったんですけどね。」
「いや、それは今更だからな。
逆に、君の知名度が低かったら、魔法騎士になんてなれないさ。」
「それもそうですね。」
ルークは苦笑を浮かべる。
「まぁ、陛下もいることだし、知らぬ人間ばかりでもない。
ルーク、貴族には気を付けろよ。
君は、特に目立つ存在だからな。
変に絡まれないように。」
「その辺は、ミルドベルゼ伯爵と相談済みです。
きっと、クロムワルツ公爵も助けてくれますよ。」
ルークの言葉に、クリシュナはうなずく。
「なるほど、あの二人は知恵者だからな。
ならば、心配無用か。」
クリシュナは少し安心した表情を浮かべる。
「それよりも、お兄様も、これで落ち着くといいわね。
今まで、政務で忙しかっただろうし。」
アリシアの言葉に、クリシュナはそうでもないという表情を浮かべる。
「いや、そうでもないぞ、アリシア。
今後、更に忙しくなる可能性がある。
おまえはまだ知らないだろうが、二年後の春には、
私は皇帝になることが決まっている。」
「へっ!?
お父様は、皇帝やめちゃうの!?」
アリシアは驚く。
「ああ、辞めるとはっきり言った。
残念ながら嘘ではない。
嘘だと思うなら、ルークにも聞くといい。」
「そうなの、ルーク様?」
「えぇ、はっきりとおっしゃってましたよ。」
「そうなんだ・・・
でも、なんで?」
アリシアは信じられない思いだった。
彼女にとっては、父親は絶対の存在だったのだ。
だから、あっさりと皇帝を辞めるとは思わなかったのだ。
「加齢による疲れが原因だそうだ。
確かに、最近疲れ気味ではあったがな。
今現在は、皇帝の仕事を私が担うようになっている。
だから、陛下はあまり仕事はしていないのだが、それでも疲れが抜けぬらしい。
もしかしたら、即位式が早まることも考えられる状況だ。」
どうやら、皇帝陛下の容体はあまり良くないようだ。
ただ、病気というわけではないのだ。
体力の衰えは年齢的に仕方がなかった。
既に60を迎えているのだから。
「そうなんだ・・・
私、明日、お父様に聞いてみる。」
アリシアはそう告げるのだった。
「さて、夜も更けてきた。
そろそろ解散としよう。
明日は結婚式もある。
楽しんでくれ。」
クリシュナが話を締めた。
「はい、そうします。」
ルークとアリシアは立ち上がり、応接室を後にするのだった。
馬車に乗ると、外は完全に真っ暗だった。
「お父様、大丈夫かな・・・」
アリシアはそんなことをつぶやくのだった。
二人は、そのままホテルに戻り、一泊するのであった。