39-5 結婚式前夜。②
夜になった。
ルークは、アリシアと共に馬車に乗り込み、王城に向かう。
王城に到着すると、馬車を降りて、受付へと向かう。
受付担当者が立ち上がり、敬礼を行う。
ルークは敬礼を返して、言葉を述べる。
「フェイブレイン公爵とアリシア様です。
今夜、クリシュナ殿下とお会いする約束があるのですが・・・」
そこまで言いかけた時、突然、声をかけられる。
「ルーク様、遅くなってしまい、申し訳ありません。」
声をかけたのは、レヴィだった。
「レヴィさん、こんばんは。」
「はい、こんばんは、ルーク様。
応接室に、ご案内します。」
ルークとアリシアは、レヴィに従い、応接室へと移動するのだった。
応接室に到着すると、誰もいなかった。
「少々お待ちください。
今、呼んでまいります。」
レヴィは席を外す。
ルークとアリシアは、揃ってソファに座って待つことにした。
「お兄様がいないなんて、珍しいわね。
いつも動きが早いのに。」
「そうですね。
それにしても、レヴィさんはいつもの格好でしたし、
あの話はどうなったのかな?」
「あぁ、例の話?」
例の話というのは、クリシュナの側室の件だ。
「えぇ、そうです。
でも、まだ先の話になるのかな・・・?」
「お兄様のことだから、先延ばしはないと思うけど。
女性関係だからなぁ、どうだろ。」
アリシアにも予想がつかないようだ。
「まぁ、知らないうちにってこともありますから。
そこは干渉しないようにしましょう。」
「そうね。
黙って見守ることにしましょう。」
ルークとアリシアはお互いにうなずくのだった。
待つことしばし、ドアが開き、クリシュナと見知らぬ女性が入ってきた。
レヴィはいなかった。
ルークとアリシアは立ち上がると、頭を下げる。
クリシュナと女性が座ると、ルークたちも座る。
「遅れて済まない。
彼女と長々と話をしていてな。
あぁ、彼女を紹介しよう。
明日より妻となるトリニア=ラインディルアだ。」
トリニアは、深く頭を下げると、ルークとアリシアを見る。
そして、口を開く。
「初めまして、ラインクルド王国の王女、トリニアと申します。
よろしくお願いします。」
「トリニア、紹介しよう、彼がルーク=フェイブレインだ。
ラインクルド王国を救った英雄だ。
そして、その隣が、私の妹のアリシアだ。
ちなみに二人は、婚約していて、同居している。」
トリニアは、ルークをじっと見つめた後、口を開く。
「エリーシャ姉様よりお聞きしております。
ラインクルド王国をお救いくださり、誠にありがとうございます。
こうしてお会いできるとは、光栄ですわ。」
「えっと、エリーシャ様の妹君なのでしょうか?」
ルークは、ちょっと驚きつつ、質問する。
「はい、腹違いの妹になります。」
なるほど、側室が生んだ妹のようだ。
「そうでしたか。
エリーシャ様はお元気ですか?」
「はい、毎日元気に過ごしておりますよ。
たまに、倒れることもありますけど、基本元気です。」
たまに倒れるって、大丈夫なのだろうか?
「そうですか、よかった。」
ルークはちょっとエリーシャのことが心配になるのだった。
「それよりも、お兄様もようやく結婚か。
今の気分はどう?」
アリシアの質問に、クリシュナが苦笑する。
「何とも言えんよ。
気分もよくわからない。
しかし、彼女の決意が変わらなくてな。
ちょっと困っているんだ。」
「どう困っているの?」
「いや、それは、彼女に聞いてくれ。」
クリシュナは、トリニアを見やる。
「トリニア様、決意って何ですか?」
アリシアは早速質問する。
「はい、私は、ルーニア皇国の未来のために、
クリシュナ様のお子様を生むことです。
それも、できるだけたくさん生みたいと考えてます。」
これには、ルークは閉口する。
クリシュナは、頭を抱えていた。
アリシアはどう答えていいのか、困った。
「あの、何か間違ったことを言ったでしょうか?」
トリニアが三人に質問する。
「いえ、その、間違ってはいないと思いますが、
トリニア様は、大胆な発言をされるのですね。」
ルークは困りつつも、発言した。
「そうなのでしょうか?
王女に生まれたからには、これくらいは当たり前と思っていたのですが。
それに、クリシュナ様とであれば、たくさんお子様を作れると思いますので。」
うーん、そうなのだろうか?
トリニアは何も疑問に思わず発言しているようだ。
天然というわけではないようだ。
しっかりと発言している時点で、その考えが揺るがないものであったからだ。
「殿下、頑張ってくださいというのは変ですが、頑張ってください。」
ルークは変なことを言っているなと思いつつ、発言する。
「どう頑張ったらいいか、困っているとこだよ。」
クリシュナは苦悩しているようだ。
「お兄様、変わった花嫁を迎えることになったのね・・・」
アリシアの言葉に、クリシュナは苦笑を浮かべる。
「ともかく、子作りの話は、もういいんだ、トリニア。
それは、おいおい相談するとしよう。
さて、話を一旦戻そう。
今日は、ルークたちが来た理由を聞こう。」
クリシュナは、無理やり話を戻すことにした。
「実は、プレゼントを持ってきました。
こちらをどうぞ。
トリニア様の分もあります。
気に入って頂けるといいのですが。」
ルークは、二人に箱を差し出す。
クリシュナは、箱を開け、早速ルークに質問する。
「これは、ただのネックレスと、腕輪ではないな?
ルーク、君のことだ、何を仕込んだんだ?」
さすがはクリシュナである。
すぐに見抜いて見せた。
「さすがは殿下。
見抜かれるとはお見事です。
実は、この二つの品には、魔法が封じられています。
ネックレスには、攻撃を受けた際、結界が発動する仕組みになっています。
腕輪には、回復呪文が仕込んであります。
怪我を負った場合、発動する仕組みです。
最大3回発動可能です。」
「ほう・・・これは、いいな。
さすが、考えることが違うな。
他の貴族の贈り物とは異なり、実用性が髙い物だな。
これは使わさせてもらうぞ。」
クリシュナは嬉しそうだった。
「トリニア様には、簡素ですが、ネックレスになります。
派手なものではないので、よいかと思い選びました。」
トリニアはネックレスを見て、何とも言えない表情を浮かべる。
失敗だったかな?
すると、箱を閉じて、ルークを見た。
「ルーク様、お願いがあります。
私にも、クリシュナ様と同じ物を頂けないでしょうか?」
「えっ?」
これには、ルークとクリシュナが驚く。
「あの、殿下に送ったものは、男性物ですよ。」
ルークはそう説明するも、トリニアが述べる。
「私も王族です。
いつ命を狙われるかわかりません。
ですから、常に防御できる対策は立てておきたいと考えております。
そういうことですので、殿下と同じものを頂けないでしょうか?」
クリシュナは、その発言に関心した。
ちゃんと自分の身のことも考えていたのだ。
「ルーク、可能か?」
クリシュナは短く問う。
「はい、可能ですが、少々お時間をもらってもいいですか?」
「あぁ、構わない。」
ルークは、クリシュナよりネックレスと腕輪を受け取ると、箱にしまう。
そして、箱ごとコピーを行うと、もう一つ同じ箱が出現したのだ!!
「「「!!!??」」」
これには、全員驚く。
ルークは、コピーした箱を残して、コピー元の箱をクリシュナに返す。
そして、コピーした箱の中に入っている、ネックレスを手にする。
魔法石に触れ、魔法を唱え、封じる。
次に、腕輪を手にし、同じことを繰り返す。
これで完了だった。
「できました。
これでよろしいでしょうか?」
ルークは、魔法を封じたネックレスと腕輪を箱の中にしまい、トリニアに渡す。
「ありがとうございます、ルーク様。
しかし、一体今のは?」
「箱ごと、魔法でコピーしたんですよ。
秘密の魔法ですので、詳細は教えませんけどね。」
「君は、本当に何でもできるのだな。」
クリシュナは、ちょっと呆れ気味だった。
「そうでもないですよ。
でも、こういったことができる程度です。
完全ではないですけどね。」
そう、ルークは、『創造系魔法』で物質のコピーを行ったのだ。
ただし、コピーできるのは、物質のみだ。
封じられた魔法までは、コピーできないのだ。
だから、再度封じる必要があるのだ。
完全コピーは、ルークにはできないのだ。
「その、こちらのネックレスはお返ししたほうがよろしいでしょうか?」
トリニアは、恐る恐る質問する。
「いえ、お気に入られたなら、お使いください。
その、お子様に渡してもかまいませんよ。」
「はい、ありがとうございます。
大事にしますね。」
トリニアは嬉しそうだった。
こうして、プレゼントの贈呈は完了するのだった。