39-5 結婚式前夜。①
連絡が来たのは、結婚式前日の昼前だった。
「夜に来てほしい・・・か。」
護衛は特にいらないとして、アリシアと二人で王城に向かうことになる。
馬車で行くか。
ルークはメイドに、馬車の手配を頼むと、アリシアを呼び出す。
ちょうど昼前なので、メイドに昼食も持ってきてもらうよう、依頼する。
昼食を摂りながら、今日の夜の予定を話すことにした。
「今日の夜に、来てほしいとクリシュナ殿下から言伝があったので、
行くことにします。
一応馬車に乗っていくから、護衛は付けないけど、大丈夫ですよね?」
「うん、ルーク様がいるから、大丈夫だよ!」
アリシアは嬉しそうだ。
「ちなみに、何を渡す予定なの?」
アリシアは質問する。
「えっと、これですよ。」
ルークは箱二つを見せた。
「こちらの箱は、殿下に渡すものです。
僕が身に着けているネックレスと腕輪と同じものです。
魔法を仕込んだので、危機管理に強い殿下なら気に入ってくれると思います。
それとこちらの小さな箱は、奥様に贈るものです。
シンプルなものですが、ネックレスです。」
「へぇ、ルーク様にしては、気が利いているのね。
ちなみに、全部ルークが選んだの?」
「いえ、奥様のネックレスは、宝飾品店の店員さんに相談して選びました。
僕は宝石関係は詳しくないので、アドバイスしてもらいました。
普通にシンプルなものが好まれるということで、選んだんですが。
気に入ってもらえればいいんですけどね。」
「見てもいい?」
「えぇ、どうぞ。」
ルークは小箱をアリシアに渡す。
アリシアは小箱を開くと、ちょっと驚く。
それは、小さな宝石が一つついた非常にシンプルなネックレスだったのだ。
しかも、あまり目立たないようなものなのだ。
控えめなネックレスというべきだろうか。
「うん、いいと思うよ。
私も、これなら喜ぶと思うよ。」
「それなら助かりますね。
選んだ甲斐があるというものです。」
アリシアはネックレスの入った小箱をルークに返す。
ルークは箱を受け取る。
「それにしても、お兄様もようやく結婚か。
奥さんと仲良くやってくれるといいけど。」
「そうですね。
そういえば、レヴィさんの件はどうなったんだろ?」
「えっ?
何でレヴィの名前が出てくるの?」
「えっと・・・」
ルークは言うべきかどうか迷った。
だが、黙っていてもしょうがないと思い、話すことにした。
「えっと、レヴィさんを側室に迎えるような話もあったんですよ。」
「へぇ~、そうなんだ。
お兄様、やるじゃない。」
「ちなみに、今夜はその話は内緒ですからね。
一応、関係ありませんし。」
「確かに。
奥さん、嫉妬するかもね。」
「でも、王族って、側室って当たり前ですよね?」
「うん、私の母上も、側室だもん。」
「結婚式とかしないのでしょうか?」
「しないはずだよ。」
ルーニア皇国では、正室とは結婚式を行うが、側室とは行わないのが通例だった。
よって、いつの間にか側室が増えているなんてことは、ざらなのだ。
特に、王族は側室の数が多いのだが、現皇帝陛下は少ないほうだった。
正室1人に、側室が4人なのだ。
通例であれば、10人くらいいるそうだ。
そのうち、クリシュナも多数の側室を抱える可能性もあるのだが、それはさておき。
「ともかく、今夜これらを渡すことになります。
アリシアも、お祝いしてあげてくださいね。」
「うん、任せて!
それにしても、奥さんが気になるわ。
どんな人が来るのかしら。
お兄様は気難しい性格だからな、性格が合うといいんだけど。」
アリシアは奥さんの性格を気にしているようだ。
「うーん、そうですね。
でも、礼儀正しい方であれば、大丈夫だと思いますよ。
特に貴族の方であれば、そんなに難しい話ではないと思いますが。」
ルークは、そう分析していた。
いかにクリシュナとて、礼儀正しい女性ならば、無下に扱ったりしないだろう。
「ま、会ってのお楽しみってことにしておきましょ。」
アリシアは、会うのが楽しみのようだ。
ルークとしては、クリシュナが安心できる女性が妻であることを望むのであった。