38-5 挨拶。
翌日。
ルークは仕事が無く、暇つぶしを何をしようか考えていた時だった。
ドアがノックされ、マークが対応する。
「ルーク様、ミルドベルゼ伯爵がいらっしゃったとのことです。
いかが致しましょうか。」
レイヴンがやってきたようだ。
「わかりました。
応接室に通して上げてください。
それと、ミレーナを呼んでもらえますか?」
「承知しました。」
ルークは、席を立つと、応接室へと向かうのだった。
応接室でのんびり待っていると、まずは、ミレーナがやってきた。
「兄さんが来るの?
どうして、私を呼んだの?」
「えっと、たまには兄妹の顔合わせしないといけないと思いません?」
「合わせなくてもいいと思うんだけど・・・」
何となく、ミレーナは嫌そうな表情をしていた。
ミレーナは元々レイヴンに苦手意識がある。
だが、本当に久しぶりなので、会わせることにしたのだ。
ということで、ミレーナには隣に座ってもらうことにした。
その時、ドアがノックされ、レイヴンとサーシャが同時に入ってきた。
二人は、ルークを確認すると、頭を下げる。
ルークは立ち上がると、ソファへと案内する。
ルークが座ると、二人もソファに座る。
サーシャのお腹がほんの少し大きくなっていた。
「お久しぶり・・・でもないですね、ミルドベルゼ伯爵。」
「そうですな、フェイブレイン公爵。」
レイヴンはにやりと笑みを浮かべる。
「では、堅苦しい挨拶はやめて、いつもの口調に戻しましょうか。」
「助かるよ、ルーク。」
レイヴンはそう言うと、ミレーナを見る。
「すっかり花嫁らしくなったな、ミレーナ。」
「ん。
そうでもないわよ、兄さん。」
ミレーナは反論する。
「さて、今日はどういった用件で来たのでしょうか。」
「あぁ、実は、都市アーデアに着任したので、そのご挨拶にね。
しかし、こんなに近いとは思わなかったよ。
馬車で、一日ちょっととは驚いたものだ。」
都市アーデアは、隣の都市である。
都市ミルディアから、最も近い都市でもあるのだ。
「都市の運営はどうですか?」
ルークの言葉に、レイヴンは苦笑を浮かべる。
「いや、思った以上に大変だよ。
子爵時代がちょっとうらやましく感じたよ。
ルークも良くこなしているものだなと感心したよ。」
「そうですか。
今の僕は、毎日、暇なんですけど。
政務官が優秀なので、僕に仕事が回ってこないくらいなんですよ。」
「そうなのか?
じゃ、うちも政務官を増やすとしよう。
忙し過ぎてな。
そもそもやることが多くてな。
慣れるまで、時間がかかりそうだ。」
「大丈夫です、そのうち慣れますよ。
僕も、ルクサスメリルを治めていた時は、そこそこ忙しかったですから。」
「そうか。
それよりも、ミレーナは花嫁修業、ちゃんとしているのか?
ルークの視点からも聞きたいところだが。」
いきなり話を振られ、ミレーナは驚く。
「ちゃ、ちゃんとやってるわよ。
お茶はルーク様においしいって言ってもらえるまで成長したんだから。
ケーキも今はきちんと作れるようになったんだし。」
「なるほどな。
知らないうちに育っているのであれば問題ないな。
来年結婚だろ?
私としては、そちらが楽しみだよ。」
「なんで兄さんが楽しみなのよ?」
ミレーナがふてくされるのだ。
「そりゃ、前代未聞の結婚式になるだろうからな。
ルークは花嫁4人と同時に結婚するのだろ?
今までにない出来事だからな。
楽しみでしょうがないのさ。」
確かに、4人同時に結婚するなど、今のところ無いのだ。
ルークは4人と結婚することを約束している。
だから、来年には必ずそれを実行することになるのだ。
ルークとしては、何がおかしいのか、よくわかっていなかった。
レイヴンとしては、その前代未聞の出来事の中に、ミレーナがいることが愉快だったのだ。
まさか、自分の妹が、前代未聞の結婚式に参加するとは思わなかったからだ。
だから、楽しみでしょうがなかったのだ。
その辺は、ミレーナにとっては気に食わないのだが。
「結婚式と言えば、クリシュナ殿下の結婚式もありましたね。
そろそろですが、招待状はもらいましたか?」
ルークの質問に、レイヴンは首を横に振る。
「いや、まだもらっていないな。
その内届くだろうな。
ルークは、参加するのだろう?」
「そうですね、僕とアリシアは参加する予定です。
アリシアは行きたいと言ってましたからね。
ミレーナも行きたいですか?」
「うーん、私は皇太子殿下のこと、何も知らないからな。
行かないと思うわ。」
「そうですか、了解しました。
レイヴンとサーシャさんも参加予定ですか?」
「当日は、私のみ参加だな。
サーシャが身重になったからな。
それに、秋になれば出産だから、念のためにな。」
サーシャは妊娠中なのだ。
去年の話では、秋出産と言っていたので、大事を取るに越したことはない。
「本当は参加したかったのですけどね。
お腹の子のこともありますし、大事を取って、留守番をしますわ。」
サーシャはちょっと残念そうな表情をする。
確かに、貴族は馬車移動となるため、身重の体には良くないだろう。
「じゃ、レイヴンにも招待状が届いたら、一緒に行きますか?」
「いいのか?」
「構いませんよ。
王都まで馬車でも半月はかかりますからね。
一人で行くより、知った人間と行く方が、気が楽になると思いますし。」
「確かにな。
では、その時は頼むよ、ルーク。」
「はい、もちろんです。」
これで、レイヴンと一緒に移動することが決定した。
「ねぇ、ルーク様、ミシェリを呼んでもいい?」
突然、ミレーナがそう言ったので、ルークは許可することにした。
サーシャがいるからだろう。
会わせてあげても問題ないかな。
「呼んであげるといい。
サーシャも、ミシェリに会いたがっていたしな。」
レイヴンも賛成のようだ。
「わかりました。
ミレーナ、呼んできてもらえますか?」
「うん、ちょっと行ってくるね。」
ミレーナはドアを開けて、ミシェリを呼びに行く。
「ミレーナは、問題ないか?
あいつはややこしいところもあるからな。」
「今のところ、問題ないですよ。
四人の花嫁の中では、姉のような存在になっていますよ。」
それを聞いて、レイヴンは安心する。
「そうか、ならいい。
嫁に出す前に心配していたのだが、問題ないのであれば、安心だ。」
レイヴンはなんだかんだ言っても、ミレーナのことが心配だったのだ。
サーシャはあまり心配そうな表情はしていなかった。
こちらは、大丈夫だろうと思っているようだ。
その時、ドアが開き、ミシェリとミレーナが入ってきた。
ミシェリは、ペコリと頭を下げると、サーシャの隣に座った。
そして、サーシャのお腹をさすったのだ。
「姉様、もうすぐ生まれそうなの?」
「そうね、秋になれば生まれるわよ。」
サーシャはニコニコしながら答えた。
「レイヴンの子供も楽しみですね。
生まれたら、遊びに行きますね。」
ルークはそう言うと、レイヴンは笑う。
「そうだな。
その時は、ついでに内政についてでも相談するとしよう。」
冗談を交えながら、そう言うのであった。
こうして雑談が進み、二人は、城に一泊して帰るのだった。
翌日以降、西方側と南方側から貴族たちが挨拶にやってくるようになった。
主にルークが対応したのだが、レイヴンほど親しくはない。
できるだけ仲良くなれるよう、話をするのだった。
仲良くなることこそ、互いに協力を得られる関係を作るためだ。
結果、仲良くなれたと思う、ルークであった。