37-6 引越し。②
ルークは執務室に戻ると、片付けを始める。
大きめの袋に、魔術書なんかを突っ込んでいく。
かなり数があるので、あとで、荷馬車まで運んでもらおう。
運びやすいように、袋ごとに分けておく。
これで良し。
あとは、服だが、大した数は無い。
袋に詰めてお終いといったところだろう。
最終日にメイドに命じてやってもらうことにしよう。
ということで、ルークの引っ越し準備はすぐに終わるのだった。
夜も深くなり、眠ろうかと寝室へ移動しようしたところ、二人のメイドに捕まった。
マーシャとルーティアだった。
「ルーク様、姉様がルーク様についていくって事実なのですか?」
「私もその辺のこと、お聞きしたいです。」
二人に同時に言われ、ルークは驚く。
「とりあえず、どこか入って話しません?」
ということで、応接室に急遽入った。
二人はルークの対面に座ると、ルークを睨んできた。
「先ほどの件は、事実ですよ。
メルディナ殿が希望しました。
それが何か?」
「私たちも、一緒についていきたいです!」
「私たちも姉様についていきたいです!」
「えっと、そういうことであれば、問題ないですよ。
ちゃんとルドルフに、伝えてくださいね。
それと、引っ越し準備も忘れずにね。」
「「はい、ありがとうございます!!」」
同時に、挨拶する二人。
ルークは驚くものの、二人は本当に姉が好きなのだと思うのだった。
それから三日経った。
城内は、片付けで忙しく動いているわけでもなかった。
どうやらみんな、荷物が少ないようだ。
ソファやテーブルにベッドといった大きなものは、一切持ち出す予定はない。
持っていくのは、身の回りの服や本、それから貴重品くらいだった。
それ以外は、基本置いていく。
ルークは宝物庫の中身を全て売り払った。
魔法具以外は役に立たないと判断したからだ。
それから、メイリアに紹介された、魔法具置き場の部屋は、全て片付けて持ち出すことにした。
こちらは、既に執事やメイドによって、片付けが遂行されていた。
外には、荷馬車が二台用意され、二台ともに荷物が乗せられていた。
後は、運び出すのみである。
花嫁たちも準備完了だし、引き継ぎを残すのみとなった。
今日あたりに、マクドフェルド侯爵が来る予定なのだが、なかなか来なかった。
忙しいのだろうか。
ルークは、魔法具を一つ作っていた。
例の“大規模展開術式・瞬間移動”を封じた、宝珠だった。
一回しか使えないが、マクドフェルド侯爵にとっては、ありがたい品となるはずだ。
そんな時だった。
ドアがノックされ、ルドルフが対応する。
「ルーク様、マクドフェルド侯爵がいらっしゃいました。
いかが致しましょうか?」
ようやく来たようだ。
「応接室に通してください。
僕も行きます。」
ルークは立ち上がると、応接室へと向かうのだった。
ルークが応接室で待つことしばし、ドアがノックされ開く。
マクドフェルド侯爵は、頭を下げ、中に入ってきた。
「よくぞいらっしゃいました。
さぁ、どうぞ。」
「失礼致します。」
マクドフェルド侯爵は、ルークの対面に座る。
「では、引き継ぎの件ですが、まずは、政務官を呼びますね。」
ということで、ルークは、ガイマンを呼び出した。
ガイマンはルークの隣に座った。
「彼の名はガイマンです。
このルクサスメリルの政務官の長を務めています。」
「ガイマンと申します。
よろしくお願いします。」
「ラーカス=マクドフェルドです。
こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人は互いに頭を下げる。
「実は、ガイマン殿に進めさせている事業があります。
一つ目は、街道の整備です。」
「街道と言いますと、あの敷石を敷いている件ですな。
今は、都市メリアードに向けて敷いているものですな。」
「そうです。
これを今度は、王都に向けても敷設する予定だったんです。
なお、必要なお金は僕のほうで用意しました。
後は、計画を実行するのみなのですが。」
ガイマンが言葉を引き継ぐ。
「計画には、十年近くかかる見込みが出てまいりました。
そこで、ルーク様の二つ目の計画であった、宿場町の設営を行っております。
その宿場町に沿って、街道を整備する予定です。
宿場町は、順調に進んでおります。
あと、2年ほどで全て完成する見込みです。」
マクドフェルド侯爵は、ほうと関心する。
「となると、宿場町があれば、街道も必要ということになりますな?」
「はい、そうです。
街道があれば、人の流れがより多くなるはずです。
そうなれば、都市ルクサスメリルに訪れる人の数も増えることになるはずです。
そこで、三つ目の計画である、特産品の作成です。
こちらも、現在進行中です。」
「なるほど。
名産品があれば、人が寄ってくる。
確かに、今まで考えもしなかったことを、ルーク様は考えられたのですな。
さすがでございます。」
「これらの事業を引き継いで頂きたいというのが、僕の希望です。
今のところ大きな問題もなく進んでいます。
いかがでしょうか?」
マクドフェルド侯爵は即決だった。
「無論、私にお任せください。
必ずや遂行して、成功させましょう。
何かあれば、ルーク様に相談致します。」
「分かりました。
では、ガイマン殿、引き続きこの計画を進めてください。」
「承知しましたぞ。」
それから、細々とした引継ぎを行い、終わりとなった。
「マクドフェルド侯爵、これを渡しておきます。
引っ越しの際、お使いください。」
ルークは、宝珠を渡す。
「これは・・・?」
マクドフェルド侯爵は宝珠を受け取り、質問する。
「“大規模展開術式・瞬間移動”を封じた宝珠です。
荷物を運ぶのも手間でしょう。
これを使って、一括で運んでください。」
「なんと!?
これはありがとうございます。
是非とも使わせて頂きますとも。」
マクドフェルド侯爵は、懐に宝珠をしまう。
「では、四日後に再度参ります。
失礼致しました。」
マクドフェルド侯爵は立ち上がると、応接室を退出していった。
引継ぎ作業は、終わった。
残りは、引っ越しのみだった。