37-4 皇帝陛下からの褒美。①
ルークは特にすることもなく、あっさりと1カ月が経った。
今頃、クリシュナ率いる南方侵攻軍は王都に到着していることだろう。
いや、途中で解散しながら、王都に向かったかな?
それはどちらでもいい。
ルークは、本当にやることがなかった。
内政は順調である。
警備も問題ない。
今のところ、都市ミルディアにおける問題は一切無かった。
よって、やることがなかったのだ。
兵士たちも、都市外で展開中だが、やることが無い状態だった。
訓練を行っている部隊があったが、ルークがいちいち見に行く必要もない。
そろそろ、キャンプ生活も飽きてくるんじゃないかなと思っていた。
ルークは、お城の中でのんびり過ごしていたので、関係ないのだが。
そんなある日のことだった。
「ルーク様、聞こえますか?」
「レヴィさん、お久しぶりです。」
レヴィからの“思念連結”であった。
「大変申し訳ないのですが、今からマクドフェルド伯爵を伴って、
王都に来ていただけますか?」
「今からですか?
構いませんが、王城に向かえばいいのですね?」
「はい、陛下がお待ちです。」
突然の呼び出しのようだ。
ちなみに、マクドフェルド伯爵も王城内にいた。
恐らく、仕事がないので、のんびりしているはずだ。
「了解しました。
ただちに向かいます。」
ルークは、剣を手に取ると、動き出す。
「では、お待ちしております。」
レヴィとの“思念連結”が切れた。
「マーク、マクドフェルド伯爵を呼び出してもらってもいいですか?」
「承知しました。」
マークは、外で控えているメイドに命令を行う。
すると、数分後、マクドフェルド伯爵はやってきた。
「どうされましたか、ルーク様?」
「皇帝陛下から急な呼び出しがありました。
僕と一緒に、王都に向かいます。
よろしいでしょうか?」
「はい、承知しました。
参りましょう。」
マクドフェルド伯爵は、軽装ではあったが、礼装にも見える服装だった。
これなら、問題はあるまい。
「マーク、僕たちはこれから王都ルーニアに行ってきます。
留守を任せますね。」
「承知致しました。」
ルークは、マクドフェルド伯爵を伴って、王城を出ていくのだった。
ルークとマクドフェルド伯爵は王都ルーニアに到着すると、すぐに王城を目指す。
「我らを呼び出すということは、領地替えなのでしょうか?」
「うーん、可能性としてはありそうですね。
僕としては、領地替えは困るのですが・・・」
ルークは困った表情で答えるのだ。
「何か、問題でも?」
「今、行っている政策が、ダメになってしまう可能性があるからです。
せっかくの良策なので、中途半端にしたくないところだったのですが。」
「なるほど。
もし私が引き継ぐことになりましたら、私が遂行してみせますとも。」
「そうだとありがたいのですが。
まずは、皇帝陛下のお話しを聞かないと、何もわかりませんし。」
「そうですな。
私も西側に配置されることになるやもしれませんしな。」
マクドフェルド伯爵家も元々は、西の守りの要として活躍している貴族だ。
ルークと共に、西側に領地替えされる可能性があったのだ。
二人は王城に到着し、受付へ行くと、レヴィが待っていたのだ。
「お待ちしておりました。
応接室へご案内します。」
レヴィは笑顔でそう言うのであった。
応接室に到着すると、皇帝陛下は既にいた。
それに、何故かクロムワルツ侯爵、ミルドベルゼ子爵もいたのだ。
それといつものように、クリシュナもいたのだ。
「陛下、ルーク様とマクドフェルド伯爵を連れてまいりました。」
ルークとマクドフェルド伯爵は敬礼を行う。
皇帝陛下も敬礼を返す。
そして、二人は、クロムワルツ侯爵の隣に座る。
レヴィは、クリシュナの背後に控える。
「まずは、ルーク、マクドフェルド伯爵、大儀であった。
今回、北方侵攻軍としての働き、見事であった。」
「「ははっ!」」
二人は、頭を下げる。
「特にルークよ、貴殿の魔法により、南方侵攻軍も大きく助かったと
報告を受けておる。
相変わらず、見事であった。
さて、まずは、詳細を聞かせてもらうぞ。
記録係を呼んでまいれ。」
執事がすぐに動き、記録係はすぐにやってきた。
どうやら、南方侵攻軍の話は既に終わっているようだった。
侯爵と、レイヴンは聞く体制になっていたからだ。
ちなみに、戦争の記録は必ず取る決まりがある。
その当事者が呼び出されるのは当然のことであった。
「では、説明しますね。
ゆっくり話しますので、記録をお願いします。」
ルークがそう述べると、記録係はこくりとうなずく。
「我らは、都市メリアードで合流した後、まずは、
一つ目の都市を目指して進みました。
すると、敵1万の兵力が都市外に展開しておりました。
そこで、僕が“軍団魔法”を使い、敵軍を壊滅に追い込みました。
この軍は、東側四都市の軍勢をかき集めたものであったため、
この時点で、都市の守りは約100名たらずと減っておりました。
よって、都市攻略は非常に簡単なものでした。」
「ちなみに、都市攻略は、ルーク様が中心となって実行されました。
ルーク様の手にかかれば、半日程度で済みました。
我らは、半日休息をとった後、翌日には進軍に取り掛かれたのです。」
マクドフェルド伯爵はきっちり補足することを忘れない。
「そんなわけで、僕たちの軍は、四都市を次々と攻略しました。
ここまでは予定通りの日数で進めておりました。
王都に近づいた時点で、3万の軍勢が待ち構えていました。
僕は、また“軍団魔法”を使い、敵軍を壊滅に追い込みました。
この時点で、王都には、ほぼ軍勢が残っていない状況でした。
そこで、僕とマクドフェルド伯爵は軍1000名を率いて、
王城を包囲したのです。」
「私は、包囲に加わったため、王城の外で待つことになりました。
突入部隊として、ルーク様、騎士3名の計4名で乗り込むことになりました。
中には、謎の魔法騎士がいるとのことなので、ルーク様が決めたメンバーのみで
侵入することになったのです。」
「僕を含めた4名は、王城内部に突入しました。
すると、玉座の間に、魔法騎士と王ラウガⅣ世がいたのです。
魔法騎士は7名おりましたが、実力的には、近衛師団の騎士並みでした。
僕ら4人は、7人を斬り捨て、ラウガⅣ世を捕らえた次第です。」
「その後は、ルーク様の命令により、王都に残った貴族たちを捕らえました。
それと、王都内部の警備を行いました。
特に反乱の兆候もなく、静かなものでした。」
ルークとマクドフェルド伯爵が交互に話しをしたため、わかりやすかったのか、皆うなずいていた。
「今回も、ルークの活躍が目立ったというところだな。」
クリシュナは、笑みを浮かべながら、そう告げた。
「左様ですな。
ルーク様が一番の活躍をされておりますな。」
クロムワルツ侯爵も同じことを告げる。
皇帝陛下は笑いつつ言う。
「いつもながら、見事であった。
敵軍を壊滅させるのみならず、無駄なく、
敵都市を攻略するとはあっぱれである。
さすがは、魔法騎士よ。」
ルークとしては、マクドフェルド伯爵と協力して戦ったつもりなので、一人で活躍したつもりは一切無かった。
だが、当のマクドフェルド伯爵も、ルークのおかげという態度を崩さなかったのだ。
「記録係殿、きちんとルーク様の活躍を書かれましたかな?」
マクドフェルド伯爵は記録係に確認しているくらいなのだ。
こうして、戦争の報告は一旦、終了するのだった。