37-3 魔剣の譲渡。
翌日。
ルークはすることがなかった。
つまり、暇なのである。
ちなみに、壊した城門は修理済みである。
死体の片付けは、既に兵士たちに手配済みである。
また、血で汚れた場所は、メイドたちが掃除していた。
内政の方も、つつがなく進んでいる。
現状、ルークに認可を頂く内容は一切無かったのだ。
よって、ルークは暇なのである。
広い執務室でお茶を飲んで、のんびりしていることぐらいしかできなかったのだ。
ここの領主に決まれば、何かしら仕事はあるのだろうが、まだ都市ルクサスメリルの領主なのだ。
ここの領主でない以上、下手なことはできないのだ。
騎士団を2つにまとめたくらいのことしかやっていないのだ。
そこで、先日拾った魔剣を手にしていた。
今回は鞘付きである。
早速魔剣を抜いてみる。
強力な魔力は持っていないものの、なかなかいい剣であった。
玉座を守っていた魔法騎士は、全く使いこなしているようには見えなかった。
ある意味、勿体ない話であるのだが。
早速、“情報収集”にて調べてみる。
この剣も名無しだった。
そして、魔導士と鍛冶師によって創られたものであることがわかった。
何故、名が無いのだろうか?
とりあえず、『魔剣進化』にて、意思を与えることにした。
『ワタシハ・・・ダレダ・・・』
属性は、レーヴァテインと同じく、火系統だった。
名前も、火系統にちなんだ名前がいいだろうな。
さて、何て名付けようか?
「よし、おまえの名前は、『デュランダル』だ。」
『デュランダル・・・?』
瞬間、剣が輝き出す。
すると、真紅の紋様が入った非常に綺麗な剣へと変わったのだ。
『我が名はデュランダル。
主に仕えるものです。』
「今後とも、よろしくね。」
ルークはそう告げると、デュランダルを鞘に戻す。
強い魔剣がまた手に入ったのだった。
問題は、誰に渡そうかということであったが、一人心当たりがあった。
使いこなせそうな人物が。
ただ、ここにはいないので、どうすべきか。
暇だしな、ちょっとだけ抜け出すか。
と考えた後、すぐに実行に移す。
「マーク、ちょっと出かけてきます。
一時間程度で戻りますので、あとをお願いしますね。」
「承知しました。
どちらまで?」
「クーラクの騎士団に行ってきます。
ここより遥かに遠い場所ですよ。」
そう告げると、ルークはさっさと外に出ていくのであった。
ルークは城外門を抜けると、“瞬間移動”にてクーラク騎士団の隊舎前に移動していた。
偶然にも、その場に騎士が一人、びっくりした状態で立っていたのだ。
「ちょうどいいですね。
カシス副隊長はどちらにいますか?」
「カシス副隊長でしたら、訓練場にいるはずですが・・・」
ルークは、“情報収集”を使い、訓練場全体を検索する。
すると、カシスの姿が目に入る。
「ありがとう。
ちょっと行ってくるね。」
「は、はぁ。」
騎士は、驚いたまま、ルークの背中を見送るのであった。
ルークはカシスが見え始めると、声をかけた。
すると、カシスはすぐに気が付いた。
「ルーク・・・様?」
いつもの口調に戻りそうになり、慌てて様付けをしていた。
「お久しぶりです。
ちょっと時間いいでしょうか?」
「どういったご用件なのでしょうか?」
「これを渡すためにきました。」
ルークは、鞘に入った剣を見せる。
「これは・・・?」
「魔法剣ですよ。」
「魔法剣・・・!!?」
カシスは驚く。
カシスら騎士も、魔剣は滅多に拝めることがないのだ。
それをルークがたやすくもってきたのだから、驚くのも当然だった。
「使いこなせそうなのが、カシスさんしか思いつかなかったので、
これを渡そうと思いました。
ということで、受け取ってください。」
「いいのですか?
これを受け取っても?」
「いいですよ。
使いこなせる人が少ないので。」
ルークは、剣をカシスに渡す。
カシスは、早速、剣を引き抜いてみる。
真紅の紋様が入った非常に綺麗な剣を見て、カシスは感嘆する。
「これは、非常に綺麗な剣ですな・・・」
『お褒め頂き、ありがとうございます。』
「へっ!?」
思わず、カシスは周囲を見るも、いるのはルークのみだった。
「その剣は、意思を持っているんですよ。
だから、その声は、カシスさんにしか聞こえていません。」
ルークはそう言いつつ、デュランダルに“思念連結”を繋ぐ。
「デュランダル、本日より、カシスさんがあなたの主人となります。
いいですね?」
『承知しました。
カシス殿、マスターとして私を使いこなしてください。』
「ああ、わかった。
是非とも、使いこなしてみせよう。」
カシスは剣に向かって、うなずいていた。
「さて、この剣の名前は、デュランダルと言います。
覚えておいてくださいね。」
「デュランダルか。
わかった。
大事に扱おう。」
カシスは、剣を鞘にしまう。
「ちなみにですが、カシスさんは魔力を持たないので、
ある程度までしか扱えないと思います。
デュランダルは、それ相応の魔力を所持していますので、
それを使いこなしてください。
例えば・・・」
ルークは、レーヴァテインを引き抜き、魔力を少し流す。
途端、魔剣が炎に包まれたのだ。
「なんと!!?
そんなことが、この剣にもできるのか??」
「えぇ、可能ですよ。
炎の剣となって、敵を薙ぎ倒すことも可能です。
それだけの威力がありますからね。
後は、困ったことがあれば、僕に聞いてくださいね。」
「とは言うが、ルーク様は、領主だろう?
そう簡単に聞きに行ける立場でもないぞ。」
「ウォーザード伯爵を介してくれれば、簡単かと。
あとで、伯爵にも言っておきますので。」
「それならば、なんとかなるな。」
「じゃ、そういうことで!」
ルークは、剣を収めると、“瞬間移動”を使い、去っていくのだった。
「すぐに去らなくてもいいだろうに・・・」
カシスはそう言いつつ、空を眺めるのだった。
こうして、デュランダルはカシスに託されるのであった。