36-4 南方侵攻軍と合流。②
夜。
ルークはクリシュナに呼び出され、クリシュナがいる執務室へと赴いたのだ。
その部屋はかなり広かった。
どうやら、王の執務室のようだ。
今は、クリシュナの臨時の仕事部屋だった。
「来たか。」
部屋には、クリシュナ、レヴィ、クロムワルツ侯爵がいた。
ルークがソファに座ると、話が始まる。
「今回はご苦労だった。
これで、ミーディアス王国のほとんどを掌中に収めることができた。
ルークのおかげでもある。
感謝するよ。」
クリシュナの言葉には労いの意味合いもあった。
「いえ、僕は魔法による手助けをした程度であって、ほとんどは、
殿下やクロムワルツ侯爵のおかげではないでしょうか?」
ルークは謙遜する。
「その魔法が、敵軍を殲滅するのに役立ったのさ。
こればかりは、ルークに感謝だな。」
「左様。
しかし、あれほどの威力を誇るとは、考えてもおりませんでしたぞ。」
クロムワルツ侯爵はルークの魔法の素晴らしさを褒めていた。
「いえ、役に立ったのであれば、幸いです。
さて、王は今後どうされるのでしょうか?」
ルークが言っているのは、降伏宣言をさせた後の処置のことだった。
他の貴族たちは、裁判にかけることなく、全員国外追放が決まっていた。
だが、王と王族だけは、拘束のみしか決まっていない。
「決まっていることは、王族は全て王都ルーニアまで護送することだな。
その後、絞首刑による処刑であろうな。」
クリシュナは、予想しながら答える。
一応、王都ルーニアへの護送は決まっていることだった。
そこから先は、誰も知らないのだ。
皇帝陛下が決めることだからだった。
「了解しました。
王都に戻れば、領地決めも行われるのですな。」
「あぁ、それは間違いなく行われるだろうな。
ルーク、君はおそらく、ここを任せられると思うぞ。」
「はい!!?」
ルークは驚いた。
「代々、フェイブレイン公爵は、『西の砦』と呼ばれるくらい、
西側を守ってきたのだ。
それを他の貴族が奪うことはないだろうな。
となるとだ、君がここを任される可能性が髙い。」
クロムワルツ侯爵もクリシュナの言葉に、うなずく。
「それにだ、今回、君は東側の制圧に活躍している。
マクドフェルド伯爵も含め、君たちは昇進することになるだろうな。
・・・いや、ルークは最高位にいたのだな。
昇進はなくとも、多くの領地を与えられることだろうな。」
「そうですかね・・・?」
ルークは、領地加増を喜ぶことはなかった。
元より、そういった欲望がないのだ。
だから、都市ルクサスメリルより移転すると聞いた時点で、ちょっと困ったのだ。
今進めている政策が無駄になってしまう可能性があったからだ。
もし、移転が決まったら、ちゃんと引継ぎしなくてはならなくなる。
後任が引継ぎの内容に賛成してくれる貴族であれば良いのだが。
「それにだ、クロムワルツ侯爵にも褒美を与えねばなるまい。
今回は、軍師の如く、アドバイスしてもらえたし、
前線でも活躍してくれたのだ。
父上には、正直に報告するよ。」
「それはありがとうございます。」
クロムワルツ侯爵は礼を述べる。
「そういうことであれば、殿下も何か褒美を頂かないと
割に合わないのではないのですか?」
「うん?」
ルークの言葉に、クリシュナは詰まる。
「そうですな。
今回は見事な采配を披露されたのです。
クリシュナ殿下も褒美を頂けるよう、陛下にお伝えしておきましょう。」
クロムワルツ侯爵も追撃する。
「いや、私は、別に褒美は望まぬつもりだ。
今回は、皆に助けられて、やっと大将らしく振る舞えたのだ。
私よりも、皆に褒美を与えるのが普通だと思っているのだ。」
「いえいえ、それを言うならば、我らは、殿下にも褒美を与えて欲しいと
陛下にお願いしますよ。
殿下も活躍されたのです。
皆で仲良く、褒美を頂くとしましょう。」
ルークの提案に、クリシュナは苦笑する。
「そうだな。
ならば、父上の納得する形で、褒美を頂けるようなら頂くとしよう。」
クリシュナは折れるのだった。
それから雑談を行っていたのだが、夜も更けてきたので、解散となった。
ルークは王城に割り当てられた客室で休むのだった。