35-7 3万の軍勢を撃破!①
それから三日間、移動の日々が続いた。
その間に、ルークら北方侵攻軍は、三つ目の都市を制圧していた。
クリシュナの南方侵攻軍は、夕方に三つ目の都市の前に到着する。
目の前には、約3万3000の軍勢が控えていたのだ。
夜になるため、戦うことはない。
決戦は明日だった。
翌日。
クリシュナは軍議を開く。
「さて、目の前の軍勢だが、これを駆逐する必要がある。
我らは負けられないのだ。
ということで、秘策を使うことにした。」
クリシュナは、宝珠を掲げる。
「これは、英雄と誉れ高い、魔法騎士ルークが創った魔法が封じられている。
これを使うことにより、我らは一騎当千の力を得ると言われている。
いいか、これを戦いの前に使う。
全員、敵に突撃し、その成果を示すのだ!」
「「「おおっ!!!」」」
掛け声が沸き起こる。
「レヴィ、敵の動きに変化はないか?」
「はい、目の前の敵に動きはありません。
新たに王都ミルディアに集結した3万の軍勢は、東に流れ始めました。
これは明らかに、北方侵攻軍に対する抑えとなるでしょう。」
「うむ。
では我らは、ここで3万の敵兵力を叩き潰し、王手をかけるのだ!
ルークが3万の軍勢を打ち破った時点で、敵はもはや裸同然となる。
我らは勝つぞ!」
「「「おおっ!!!」」」
更に掛け声が沸き起こる。
「では、行くぞ、諸君!
我らはここで勝ち、敵都市を制圧するのだ!」
クリシュナは、宝珠を片手に、テントより出ていくのであった。
クリシュナは、軍の最後尾にて、宝珠を掲げる。
そして、魔法を解放する!
「“軍団魔法”!!!」
途端、全軍に淡い光が包み込まれる。
兵士たちは自分が光っていることに、驚いているようだった。
次に、クリシュナは、剣を引き抜き、掲げる。
「全軍、出撃!!」
途端、前衛の騎士たちが敵に向かって進んでいく。
クリシュナは後衛のため、動くことはないが、全軍が動くさまを眺めていた。
いよいよ、戦争が始まるのだ。
唾を飲みこみ、じっと見つめるのみだった。
そして、戦争が始まるのだった。
近衛師団は前衛にいた。
今回はなんとしても手柄を立て、近衛師団の強さを見せつける必要があったのだ。
ひとえに、それはクリシュナ殿下のためでもあった。
ベルガ―は剣を引き抜き、敵を斬り裂く。
だが、感触がいつもと違うことに気が付いたのだ。
力を入れずとも、あっさりと斬り裂けたのだ。
これは、まさか!?
ベルガ―は次々と敵を屠る。
「いや、間違いない!
これが魔法の効果なのか!!?」
ベルガ―は戦慄していた。
ベルガーはほんの少し斬り裂く程度の力しか込めていないのに、あっさりと人が斬れるのだ。
恐ろしいまでの魔法の威力であったのだ。
「これが、ルークの魔法なのか!!?
ここまで威力が出せるとは・・・!!?」
ベルガ―は驚愕しながらも、手を緩めることはなかった。
敵が、まるで紙のごとく斬り裂けるのだ。
しかも、感触も残さずに。
骨すらも軽く断ち切っていたのだ。
これは、間違いなく、一方的な殲滅戦になる。
ベルガ―は、ルークの魔法を恐ろしく感じたのだった。
戦場の変化は、クロムワルツ侯爵にもすぐにわかったのだ。
あまりの強さで、こちらの軍が前に進んでいくのだ。
完全に押しているのだ。
しかも、幾つかおかしな点も見付けたのだ。
まず、人があっさりと胴切りで、上下に分かたれたのだ。
普通の剣士には不可能だった。
特に鋼の剣では無理な話であった。
それが、目の前で繰り広げられたのだ。
そしてもう一つ。
敵の攻撃を受けた者が無傷だったのだ。
明らかに斬り裂かれたにも関わらずだ。
血も出ておらず、怪我をした様子もないのだ。
これには、敵も気づいたようだ。
味方が一切、攻撃を受けないのだ。
「まさか、これが、ルーク様の魔法の効果なのか・・・」
クロムワルツ侯爵は戦慄した。
それと同時に、狂喜したのだ。
無論、表情には出さないのだが。
これは、負けを知らないわけだ。
これは、恐ろしい魔法だった。
そして、これは、絶対無敵の魔法であった。
「これが、ルーク様の実力・・・
ふっふっふ、素晴らしいではありませんか!」
クロムワルツ侯爵は思わず口に出していた。
まさか、ここまでとは思わなかったのだ。
だが、彼の前で展開されている虐殺に、歓喜せざるを得なかったのだ。
クロムワルツ侯爵はルークの恐ろしさと同時に、その実力の高さに、喜ぶのみだった。