35-1 1万の軍勢との戦い。
ルークが出陣して3日目。
最初の都市が見えてきた。
その都市を守るように、1万の軍勢が展開していた。
北方侵攻軍2万の軍勢は、1万の軍勢を確認後、進軍を停止していた。
すぐさま、軍議が開かれる。
「1万の軍勢が展開しておりますが、このまま攻めるでよろしいのですな?」
マクドフェルド伯爵が確認を取る。
「はい、問題ありません。
攻め込む前に、“軍団魔法”を使います。
その後、全軍に攻撃開始を指示します。
敵軍が、あの都市に逃げ込んだ場合、都市の城外門付近を包囲します。
まずは、そこまで進めましょう。」
ルークの言葉に、全員がうなずく。
「メリッサ殿、周囲に敵軍の援軍の姿はありませんか?」
「確認します。」
メリッサは、“情報整理”にて、4都市付近を確認する。
だが、敵の援軍の姿は確認できなかった。
「援軍の姿はありません。」
「わかりました。
ありがとうございます。」
ルークはうなずく。
敵は、前面に展開している1万の軍勢のみだった。
援軍はない。
ならば叩くのみである。
「では、始めましょう。
戦闘準備を行ってください。」
「「「はっ!!!」」」
ルークは騎士団長らが配置についたことを確認すると、全軍を前に魔法を唱える。
「“軍団魔法”!!!」
途端、2万の軍勢が淡い光に包まれる。
この“軍団魔法”は、ラインクルド王国戦で使ったものと同じ魔法が含まれている。
『魔法の複合化』ができるルークにとっては、まさに脅威ともいうべき魔法だった。
そして、ルークは、剣を引き抜く。
全軍の戦闘態勢は取れている。
後は、号令を待つのみだった。
「全軍、攻撃開始!!!」
ルークの号令一下、全軍が敵軍を目指して動き始めるのだった。
敵の1万の軍勢は臆することなく、2万の軍勢に向かって進撃してきた。
そして、双方が戦闘を開始したのだ!
戦闘は激化するかと思われたが、一方的な展開になっていく。
ルークの魔法の効果が強すぎたのだ!
その結果、一方的な殲滅戦へと展開していくのであった。
クロウは最初から飛ばしていた。
ガンガンに進み、敵の首を斬り裂いていく。
圧倒的に強化されたその攻撃力は、敵を寄せ付けないほどに強かった。
それに、一切の攻撃を受け付けない防御力は、敵にとって阻むことすらできない。
クロウは、剣を振るい、敵を屠っていく。
その内、敵の隊長格の姿を確認した。
敵の首を獲り、褒美を頂くチャンスであった。
敵の騎士隊長や騎士団長は、賞金首と言ってもいいほど、褒美がもらえるのだ。
クロウは、ルークのために、敵の隊長格の首を獲るつもりだったのだ。
隊長がいなくなれば、隊の統率は乱れる。
それも狙いであった。
「貴様、勝負しろ!!」
クロウは敵の隊長らしき剣士に戦いを挑む。
敵の隊長は剣を振るい、クロウを殺しにかかる!
だが、クロウの動きが速かった!
クロウは、敵の首を斬り裂くと、その首を手に取り、叫ぶ!
「隊長の首、獲ったり!!!」
その言葉に、動揺する敵騎士がいた。
どうやら、隊長で間違いなさそうだ。
クロウは首を腰に括り付けると、次の標的を探して、戦う!
彼には、引き下がるという意思は全くなかった。
ゼルディアは、隊を指揮しつつ、前に進む。
既に、腰には敵の隊長の首が2つも括り付けられていた。
短時間で、2人の隊長の首を獲ったのだ!
ゼルディアは冷静だった。
自分の隊を前に進めつつ、確実に敵の隊長や騎士団長を倒して、切り崩していく。
そうすることにより、前線を維持していたのだ。
しかも、自分の隊は、一切乱れていなかった。
それどころか、隊自体が強く、敵を切り崩していたのだ!
敵軍は、乱れ始めていた。
敵の大将格の首を狙うチャンスであった。
ゼルディアは、更に自分の隊を前に突出させ、敵を切り崩していく。
敵は、それに対抗できずに、崩れていく。
そこで、ゼルディアは、大将格である騎士団長を発見する。
「貴様が大将のようだな。
潔く、勝負せよ!」
ゼルディアの言葉に、騎士団長は焦りつつも、剣を引き抜く。
ゼルディアは、剣に魔力を流し込み、風を発生させる。
勝負は刹那だった!
ゼルディアが剣を横薙ぎした瞬間、敵の騎士団長の剣ごと斬り裂き、その首を獲ってみせたのだ!
ゼルディアは、その首を拾い、掲げる!
「敵大将の首、獲ったり!!!!」
その言葉に、敵軍は動揺し始める。
既に崩れかかった軍には、かなりの痛手であった。
ゼルディアは慢心せず、更なる敵の首を狙う。
ゼルディアの隊は、狩人の如く、敵をどんどんと屠っていくのだった。
メリッサは、戦況を“情報整理”で確認していた。
完全に一方的な殲滅戦となっていたのだ。
これで、一方的な殲滅戦を見るのは、2回目だった。
やはり、慣れるものではない。
隣に座るルークが恐ろしく感じることもある。
この方は、敵に容赦が全くないのだ。
自分たちの軍が無事なら、それでいいのだ。
敵には、一切の容赦も猶予も与えないのだ。
だからこそ、圧倒的に強いのだ。
「戦況は、見えましたね。」
ルークがそう言うと、メリッサはうなずく。
敵軍の大半は殺され、生き残っている者たちも、そのほとんどが逃げ出そうにも逃げられない状態だった。
それに、敵の大将格である騎士団長は、ゼルディアによって討たれた。
敵軍は、総崩れへと移行していた。
「追撃なさいますか?」
「いえ、しません。
都市内部に逃げ込んでくれれば、御の字です。」
ルークの言葉に、これも策であると読み取る。
全ての敵を都市内部で殺しつくすつもりなのだ。
やはり、恐ろしい方だった。
敵軍は、壊滅した。
そして、都市内部に逃げ込む兵士であふれる。
ルークは、全てを見越したように、全軍に停止命令を出す。
「マクドフェルド伯爵、全軍を停止した後、城外門周辺を包囲します。
よろしいですね?」
「はっ、お任せを!」
マクドフェルド伯爵は敬礼するのだ。
「城外門を封鎖した後、僕が出向きます。
メリッサ殿、僕に続きなさい。」
「はっ!」
メリッサは敬礼する。
ルークの指示は続くのだ。
「グレッグ団長、2名の隊長と各200の軍勢を用意してください。
内部に乗り込みます。
それと、メリッサ殿を隊長とした100名の騎士を選出してください。
それ以外は、城外門周辺で待機です。」
「承知しましたぞ。」
マクドフェルド伯爵とグレッグ団長はすぐに動き出す。
こちらの軍は、兵士が一切無傷で、戻ってきている。
それぞれの指示に従い、動き始める。
ルークは、立ち上がると、笑みを浮かべる。
「やっと、僕の出番ですね。」
ルークは動き出すのだった。