34-7 墓参り。
ルークが都市メリアードより出陣したその頃。
ミシェリは、花嫁とメイリアを自分の部屋に集めていた。
「ミシェリ、何の話?」
アリシアの問いに、ミシェリが答える。
「実は、ルーク様に頼まれたことを、皆さんにお伝えしますね。
お母様、ネミアさんをご存知でしょうか?」
「!!?
・・・はい、よく知っています。」
メイリアは一瞬驚くも、平静を装う。
「実は、ネミアさんは、ルーク様の乳母だった方です。
既に亡くなられているのですが、
そのお墓参りをして欲しいとルーク様に頼まれました。」
「ルーク様の乳母・・・?」
ミレーナらにとっては、初耳だった。
「はい、ルーク様は、幼少期に捨てられたのはご存知ですよね?
その時、ルーク様を救ったのが、乳母であるネミアさんだったのです。
ですから、ルーク様にとってはお母様同然だった方です。」
ミシェリは、ルークに聞いた内容通り、説明していく。
皆は納得したようだ。
「ルーク様はおっしゃいました。
特にお母様には来て頂きたいと。」
「そうですか。
では、行かないといけませんね。」
メイリアは覚悟を決めたようだ。
「その前に、お墓に供えるお花を買いたいのですが、
どのようなお花がいいのでしょうか?」
「この時期に、お花はあるかしら?」
まだ春になったばかりである。
花屋に、墓前に供える花があるとは限らないのだ。
「そうですね、スズランなんてどうでしょうか?
ネミアはスズランを気にいっていましたので。
それに、スズランは春の花ですし、花屋にあると思いますよ。」
メイリアの言葉に、皆が一斉にうなずく。
「じゃ、私が花屋に行ってくるね!」
アリシアが立候補する。
「お金を持って行かないとダメよ。
ルドルフを呼ばなきゃ。」
ミレーナの指摘に、アリシアがうなずく。
「じゃ、呼んでくる!」
アリシアは部屋を飛び出していく。
かなり元気である。
「アリシアだけじゃ、心配だから、私もついていくね。」
ミレーナはそう言うと、アリシアの後を追うのであった。
「お母様、明日いけますでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
メイリアはにこやかに笑う。
ミシェリもその返答に、安心する。
「でも、どうしてルーク様はミシェリに頼んだの?」
リリアーナの問いに、ミシェリは答える。
「うん、それはね。
私は、“瞬間移動”でお墓の近くまでいけるからなの。
先日、ルーク様にネミアさんのお墓を案内してもらったんだよ。」
「なるほど。
それで、移動可能なミシェリに頼んだのね。」
リリアーナも納得したようだ。
「じゃ、明日の午後かな?
出発ということで。」
三人はうなずきあい、明日の予定を決定するのであった。
その日の夜。
アリシアとミレーナは花屋を巡って、ようやくスズランを発見したのだった。
二人とも、スズランの形を知らなかったのだが、店員さんに聞きまくってようやく見つかったのだった。
翌日、午後。
5人は、“瞬間移動”にて、ルークの元自宅へと飛んだ。
ミシェリが、古ぼけた家を指差して、言う。
「ここが、ルーク様の元自宅です。」
ミレーナとアリシア、メイリアは驚く。
ミシェリとリリアーナは初見ではなかったので、驚くことはなかった。
「じゃ、こちらです。」
ミシェリは先頭を歩き始める。
それに全員が続く。
少し小高いとこに、それはあった。
小さな石が積まれていた場所だ。
「ここがネミアさんのお墓です。」
こじんまりとした墓だった。
これを見た瞬間、メイリアは泣きそうなるのをこらえた。
アリシアは、スズランの花束を、お墓に供える。
そして、皆、手を合わせる。
「ネミアさん、ここにルーク様の花嫁全員を連れてきましたよ。
それから、お母様のメイリア様も連れてきましたよ。」
ミシェリがそう言いながら、花嫁を紹介していくのだ。
「まずは、アリシア。
彼女は皇族なんだけど、ルーク様のことが大好きなんだよ。」
アリシアはミシェリに言葉に困りつつ、お墓に向かって挨拶する。
「ネミアさん、アリシアと申します。
よろしくお願いしますね。
・・・その、ルーク様の妻になる予定ですが、
苦手なお茶とかケーキ作りとか頑張りますんで。」
アリシアはそこまで述べると、一礼するのだ。
次にミシェリは、ミレーナを紹介する。
「次に、ミレーナ。
ミレーナはね、ミルドベルゼ子爵の妹なの。
私たちのお姉ちゃんでもあるんだよ。」
ミレーナはお姉ちゃんと言われ、ちょっと照れるのだ。
ミレーナはお墓に向かって挨拶するのだ。
「あの、ミレーナと申します。
ネミアさん、よろしくお願いしますね。
ルーク様とは仲良く過ごしていますので、ご安心くださいね。」
ミレーナはそう述べると、一礼する。
次にリリアーナの番だ。
「次は、リリアーナ。
リリアーナはね、優しくて料理がとても得意なの。
リリアーナもね、ルーク様のことが大好きなんだよ。」
ミシェリの言葉に、リリアーナは頬を赤く染めるのだ。
リリアーナも、お墓に向かって挨拶するのだ。
「ネミアさん、リリアーナと申します。
ルーク様の花嫁の一人です。
ルーク様はとてもお優しい方ですよ。
ですから、ネミアさんも見守っていてくださいね。」
すると、リリアーナも一礼するのだ。
次にミシェリの挨拶だ。
「そして、私の自己紹介です!
私の名前はミシェリと言います。
先日もお参りにきましたが、ちゃんと自己紹介していなかったので。
ネミアさん、私たち4人がルーク様の花嫁になります。
よろしくお願いしますね。」
ミシェリはぺこりと一礼するのだ。
そして、最後に、メイリアを紹介するのだ。
「ネミアさん、こちらは私たちのお母様である、メイリア様です。
いつも私たちを見守ってくれている、優しいお母様なんですよ。」
ミシェリの言葉に、メイリアは笑みを浮かべるのだ。
そして、お墓に向かうと、ゆっくり語り掛けるのだ。
「ネミア、ルーク様は立派に育ちました。
あなたのおかげです。
ありがとう、ネミア。」
メイリアは、目を潤ませながらそう告げた。
「今度は、ルーク様も含めて、全員で来ますね、ネミアさん。」
ミシェリは手を合わせながら、そう言うのであった。
5人が去った後、スズランの花束は静かに揺れるのだった。