34-4 出陣前日。
一週間が経過した。
城内でも、戦争の準備が着々と整っていた。
そして、今日、騎士団と周辺都市より集った兵士が、都市外で集結することになった。
兵士は、合計で1万5千となる。
ルークも明日には出陣である。
鎧は魔法で出すだけなので、準備は不要だった。
ルークは剣を取り出し、レーヴァテインを乾いた布で磨く。
「いよいよ戦争だ。
出番は少ないかもしれないが、頼むぞ、レーヴァテイン。」
『お任せください。』
短く言葉を交わし、レーヴァテインを鞘に納める。
ルークは当日、普段着ではなく、魔法騎士の制服を着ていく予定だった。
無論、メイド数名が付いていく。
ルークの身の回りのお手伝いをするためだ。
また、ルーク専用のテントも用意されており、荷馬車に積まれていた。
都市外では、既にテントが張られており、兵士たちが休んでいた。
明日の朝には、テントが片付けられ、荷馬車に乗せた後、出陣となる。
出陣の前に、ルークは仕事の引継ぎを行う。
内政関係は、ガイマンとメルディナにお願いした。
ちなみに、メルディナは戦争に参加はしない。
一応魔導士ではあるが、招集はかかっていないのだ。
魔導士隊は別にいるため、メルディナの力は不要だった。
といっても、魔導士隊は数が少ないので、戦争での役割はほんのわずかであったが。
次に、領内の警備については、騎士団に残る訓練生たちに任せることになる。
訓練生とは言っても、10代の若者ばかりだ。
統制はきちんととれていた。
隊長代理は、既に引退した騎士におまかせすることになる。
それから、城のことは、花嫁たちに依頼済みである。
貴族がやってくることはほぼないだろうが、その対応はアリシアらに任せてある。
問題はないだろう。
もろもろの引継ぎは終わっており、後は、明日を待つばかりであった。
紅茶をすすりつつ、のんびりと過ごす。
そう言えばと、何かを思い出す。
ルークはズボンのポケットから、懐中時計を取り出す。
懐中時計はきちんと時を刻んでいる。
メイリアから渡されて以降、きちんとネジを巻いていたのだ。
魔法を封じる効果があるが、全く使っていない。
一応、顔も知らぬ父親の遺品であるから、魔法を封じる気にはなれなかった。
ただのアンティークとして使っていたのだ。
これも持っていくことにした。
その日の夕食。
ルークが席に着くと、食事が用意されていく。
ルークはのんびりと食事を楽しむ。
ところが、誰もしゃべることなく、皆だんまりだった。
ルークとしては、特に気にしなかった。
また隠し事かとも一瞬思ったのだが、メイドたちに変化もなかったので、無視していたのだ。
その時だった。
「ルーク様。
今夜、お茶会を開いてもいいでしょうか?」
リリアーナがそう告げたのだ。
これには、他の女性陣が驚いた。
どうやら、予定外のことのようだ。
「はい、いいですよ。」
「ありがとうございます。」
リリアーナはぺこりと頭を下げる。
「えっと、リリアーナの部屋に集合でいいのかな?」
「はい、私の部屋で行います。」
リリアーナははっきりと答えた。
ミレーナたちは顔を見合わせていたが、うなずいていた。
「わかりました。
では、後程、伺いますね。」
会話はこれで終わり、ルークは食事に集中するのだった。
夜。
ルークはリリアーナの部屋を訪れていた。
すると、メイリアのみいなかった。
珍しいこともあるものだ。
そして、少なからず、皆の表情が陰って見えた。
どうかしたのだろうか?
「ルーク様、お茶をどうぞ。」
その時、リリアーナがお茶をテーブルに置いてくれた。
早速、一口飲む。
「うん、おいしいよ。」
「ありがとうございます。」
リリアーナは笑顔になる。
ここで、他のみんなの顔を見るものの、やはり元気がない。
「えっと、どうかした、みんな?」
ルークが声をかけると、びくっとしたのか、皆驚きの表情を浮かべる。
「ううん、なんでもないよ。」
ミレーナが代表して告げるが、やはり何かありそうだった。
ルークは困ったものの、聞いてみることにした。
ルークはミレーナを見やると、聞いてみる。
「何かあったんですか?
そんな表情をされると、何かあったようにしか見えませんよ?」
ルークが優しく問いかけると、ミレーナの表情が少し変わる。
泣きそうな顔をしていたのだ。
「帰って、くるよね?」
ミレーナは、そう呟く。
「無論ですとも。
僕は前回も無事に帰ってきました。
だから、大丈夫ですよ。」
ルークはミレーナの頭に手を置き、優しくなでる。
「そ、そうよね。
ルーク様は約束を守るものね。
必ず帰ってくるもんね。」
ミレーナは無理矢理笑顔を作る。
ただ、悲しい顔は隠せなかったようだ。
「大丈夫ですよ。
だから、帰ってくるまで待っていてくださいね。」
ルークは笑顔でそう述べるのだった。
その時だった。
アリシアが近づいて来て、ルークに抱き着いたのだ。
明らかに泣いていた。
「アリシア、大丈夫だよ。」
ルークは頭を撫でてやる。
「私も信じています。
ルーク様が無事帰ってくることを。」
ミシェリはそう言う。
泣きそうな顔をしていた。
ルークは、手を伸ばし、ミシェリの頭を撫でてやる。
体は完全にアリシアに抑えられていたため、両腕のみしか動かせない状況だった。
「ミシェリ、大丈夫ですよ。」
すると、ミシェリがルークの手を掴んで、泣き出したのだ。
ルークはすっかり動けなくなってしまった。
リリアーナのみ、笑顔でみんなのことを見ていた。
「リリアーナもおいで。」
ルークがそう言うと、リリアーナも、アリシアの次に抱き着く。
左腕はミレーナに、全身はアリシアとリリアーナに、右腕はミシェリにそれぞれ捕まり、動けなくなった。
皆、ルークのことを心配していた。
ルークが無事に帰ることを信じているようだ。
だが、それでもやはり心配で、泣いていたのだ。
そして、しばらくルークに会えないことに対しても、泣いているのだった。
ルークはそんなみんなの思いが嬉しかった。
だからこそ、無事に帰ることを誓うのであった。
夜も更け始めた頃に、ルークは解放された。
ルークは四人をそれぞれしっかり抱きしめると、寝室へと移動するのだった。