34-2 南方侵攻軍の準備。
クロムワルツ侯爵は都市グルードへ帰ると、翌日から、すぐに動き出す。
まずは、騎士団に通達し、戦争に参加する騎士たちに再点検を依頼したのだ。
もうすぐ動き出すことになるため、騎士たちの状況を再度把握する必要があるからだ。
それと、武器に鎧などに不備がないことも確認する必要があるのだ。
ハルムホルン伯爵にも同様の指示を飛ばし、軍の招集を命じる。
これで、合計2万の軍勢が整う。
後は、王都より1万の軍勢が来るのを待つのみである。
それから、破城槌も複数用意する。
破壊されてもいいように、予備を用意しておくのだ。
破城槌は、組み立て式なので、パーツを外して保管しておく。
ミーディアス王国領内に入った時点で、組み立てるのだ。
組み立ての際に、必要な道具も持っていく。
ハンマーや、木槌、のこぎりなんかもだ。
場合によっては、現場で木を伐り、修繕することも考えていたのだ。
組み立て作業は騎士が行うのだが、組み立ては非常に簡単なので問題ないのだ。
当然、組み立て方の訓練も行っているので、不備は無しだ。
それから、兵糧や物資も多めに用意しておくのだ。
そして、しっかり再点検を依頼するのだ。
持久戦や籠城戦になることも考慮しておく必要があるのだ。
また、回復術師や鍛冶師などの必要な人材の再確認も行うのだ。
回復術師は主に怪我の回復役を、鍛冶師は武器・防具の修繕をするために必要なのだ。
無論、調理を担当するコックなんかも参加することになる。
こうした戦争に参加しない人材も必要なのである。
クロムワルツ侯爵は必要なことを全て実行すると、一休みする。
後は、王都軍が到着して合流すれば、出陣となるのである。
クロムワルツ侯爵は今回、気合が入っていた。
もし、この攻略戦が成功を収めれば、公爵になれるチャンスがあるからだ。
領土が拡大し、国力が増せば、扱う軍事力も増すことになる。
となれば、クロムワルツ侯爵も、公爵に出世できる可能性も高くなるのだ。
都市の配置換えが発生するかもしれないが、それは構わない。
公爵への出世こそが、彼の目的であったからだ。
侯爵は、出世のため、まい進するのであった。
レイヴンの元に、正式にクリシュナ殿下より戦争参加の命令書が届いていた。
レイヴンは既に、騎士団に必要な兵糧や物資は確保済みであった。
こうなることは予想済だったのだ。
そして、すぐに騎士団に出陣準備のための指令を飛ばす。
レイヴン自身も、鎧や剣を用意し、いつでも出陣できるようにしておいた。
準備は万端だった。
「いよいよ、出陣ですか?」
サーシャの声に、レイヴンは振り向く。
「ああ、今回は侵攻戦だからな、しばらく家に戻れないだろう。」
「わかっております。
どうか、御無事で。」
「大丈夫だとも。
今回は、ルークも参加する。
それに義父上もな。」
レイヴンにとって、二人は戦争のプロだった。
クロムワルツ侯爵は、「条件付き」の戦争を何度もこなしている傑物でもあるのだ。
ルークに関しては、ミーディアス王国の侵攻の際、大活躍した英雄でもあり、ラインクルド王国でも活躍した実績をもっている。
この二人がいる限り、負けることはないと信じていた。
「お父様と一緒であれば心配はないと思います。
ルーク様とも一緒なのですか?」
「いや、ルークは北方から攻めるから別行動だな。
だが、王都ミルディアで合流する予定だ。
彼ならば、王都を制圧してみせるだろうな。」
レイヴンは、ルークに対して絶大な信頼を置いていた。
何せ、数々の戦争で功績を挙げた数少ない英雄なのだ。
ルークに対する期待は大きかった。
「ともかく、皆さん、無事に帰ってくることをお祈りしていますね。」
「ああ、頼むよ。
帰ったら、皆で集まって、のんびりとお茶会をしたいものだな。」
「そうですね。
では、準備しておきますね。」
サーシャはにこりとほほ笑む。
「ああ、頼むよ、サーシャ。」
レイヴンはうなずくのだった。
クリシュナは鎧を前に、考える。
ルークとクロムワルツ侯爵に勇気づけられたが、やはり心配だったのだ。
だが、やると決めた以上、やって見せる。
その決意に変わりはなかった。
風邪はすっかり良くなっていた。
体調面に問題はない。
あとは、戦争の心配だけすればいい。
ルークからもらった宝珠を眺める。
ルークが必勝の策としてくれたものだ。
これを使って、戦争に勝つのだ。
戦争に勝って、父上に報告するのだ。
だが、何故自分が大将として派遣されることになったのか、その点はわかっていなかった。
本来であれば、ベルガーやクロムワルツ侯爵に任せてもよかったのだろうに。
それを、何故クリシュナに任せたのか、わからなかった。
皇帝陛下の考えが読めなかった。
だが、何かしら意味があるのだろう。
ならば、こなしてみよう。
自分のために。
クリシュナは覚悟を決めると、準備に漏れがないか、再チェックを開始するのであった。
こうして、南方侵攻軍の面々は準備を進めていく。
そして、一週間後、南方侵攻軍が王都を出発し、都市グルードで合流を果たすことになる。