34-1 会談。①
一週間が経過した。
ルークの日常は一向に変化はなかった。
戦争の準備は着々と進んでいる状況だ。
そんな中、クリシュナからの連絡が来なかった。
仔細を詰めるのがいつ頃になるのか、不明なままだった。
こちらから問うべきだろうか?
ルークはそう考えつつ、仕事をこなす。
そんな時だった。
「ルーク様、聞こえますか?」
「レヴィさん、聞こえますよ。」
レヴィより、“思念連結”が来たのだ。
「クリシュナ殿下がお呼びです。
申し訳ありませんが、今すぐに来られますか?
こちらでは既に、クロムワルツ侯爵を呼んでおります。」
「承知しました。
では、今すぐに参ります。」
「はい、ではお願い致します。」
“思念連結”は切れた。
随分急な呼び出しだった。
何かあったのだろうか?
クロムワルツ侯爵が既にいるようだし、急ぐとしよう。
「ルドルフ、王都に出かけます。
コートを頼みます。」
ルドルフがうなずくと、メイドが素早く動き、執務室を退出していく。
ルークは戸棚に収めた箱三つを取り出し、袋に詰め込む。
そして、メイドを待つと、すぐにやってきた。
ルークにコートを着せてくれたのだ。
外出の準備は整った。
「馬車はいかがいたしましょう?」
「いや、急ぎだから、魔法で行きます。」
「承知しました。」
ルークは急ぎ、城を出るのだった。
ルークは“瞬間移動”で王都に到着後、王城を目指す。
今は、貴族の普段着の姿だった。
今日は公爵として入城することになる。
王城に到着すると、受付担当者に敬礼をされる。
ルークも敬礼を返すと、述べる。
「フェインブレイン公爵です。
クリシュナ殿下に呼ばれて参上したのですが、
取り次ぎをお願いできますでしょうか。」
「はい、少々お待ちください。」
受付担当者はすぐに動き出し、城の中へと消えていく。
数分後、戻ってきた。
「公爵閣下、クリシュナ様は応接室にてお待ちです。
ご案内致します。」
「ありがとうございます。」
ルークは、応接室まで案内される。
応接室に入ると、クリシュナ、レヴィ、ベルガーに、クロムワルツ侯爵がいたのだ。
ルークが敬礼を行うと、全員敬礼を返す。
「ルーク、急ぎで呼んで済まない、座ってくれ。」
クリシュナは疲れているようだった。
ルークはコートを脱いでコートハンガーにかけた後、ソファーに腰掛ける。
「殿下、お疲れでは?」
ルークが気に掛けると、クリシュナは苦笑する。
「済まないな、風邪を引いてしまってな。
ここ最近まで臥せっていたんだ。」
「大丈夫ですか!?」
ルークは慌てるも、クリシュナは落ち着いていた。
「ああ、頭は大丈夫だ。
戦争のことを考え過ぎてな。
体のことをおろそかにしてしまった。」
ルークは心配するも、クリシュナは笑みを浮かべるのみだった。
魔法で何とかできるものならしたいところだが、風邪に効く魔法は存在しない。
魔法も便利とは限らないのだ。
「さて、全員揃った。
戦争の話をしよう。
詳細を詰めなくてはならないしな。」
クリシュナは、テーブルの上に、地図を広げる。
それは、ミーディアス王国の地図だった。
「まずは、ルーク、君の話を聞きたい。
北方侵攻軍はどう攻める?」
「では、説明致します。」
ルークは、駒を借りて、東側の四つの都市に黒い駒を置く。
そして、自軍を示す、白い駒を東側に置く。
「我ら北方侵攻軍は、まず、この東側の四都市を落とします。
情報では、この四都市の軍事力は1万程度。
我らは2万の軍勢で進めますので、敵にもならないでしょう。
各都市を落とし、兵を100名ほど置き、支配します。」
ルークは、四都市の黒い駒をどけていく。
そして、白い駒を王都に近づける。
「問題は、王都の兵力です。
僕の密偵の調査では、最大4万の兵力があると見込んでいます。
おそらくその内の半数程度が、こちらに差し向けられるでしょう。
僕の見込みでは、2~3万程度の兵力が、
こちらの防衛に使われると思われます。」
ルークは、黒い駒を王都から白い駒へと近づける。
「北方侵攻軍は、この防衛軍を壊滅する予定です。
そのため、“軍団魔法”を使い、圧倒するつもりです。
壊滅後、王都に乗り込み、王を捕らえる予定になっています。」
「なるほどな、私と同じ考えのようだな。
どの程度かかると見込んでいる?」
クリシュナが問う。
「各都市に移動するまでに、3日かかります。
それから各都市を落とすのに、1日かけます。
四都市全てを落とすのに、合計すると16日かかります。
次に王都ですが、王都移動までに、3日。
王都制圧を1日と見込んでいます。
全ての日程を合わせると、20日となる予定です。」
「各都市を1日で落とすですと!!?
早いですな・・・」
クロムワルツ侯爵が驚く。
「はい、僕が門を破壊すれば、済むことなので。
後は、騎士たちを内部に派遣し、抑え込めば、1日で制圧可能です。」
「なんと!!?
ルーク様が、門を破壊するとは、いやはや・・・」
クロムワルツ侯爵は驚くばかりだった。
「となると、ルークの率いる北方侵攻軍のほうが、
王都に早く到着することになりそうだな。
いや、それで問題ない。
ルークならば、未だ謎の魔法騎士を倒してくれるだろうからな。」
魔法騎士のことが出たので、ルークは聞いてみることにする。
「敵の魔法騎士について、何かつかめたんですか?」
答えたのはレヴィだった。
「いえ、何もつかめておりません。
今回の内乱にも出陣していませんでした。」
「済まないが、ルークに任せることになりそうだ。」
クリシュナはそう述べるにとどめた。
ルークは納得したのか、うなずくのであった。