33-8 冬が明けたら・・・
その日の夕食時。
「皆さんに報告があります。」
ルークの言葉に皆が注目する。
「春が来たら、ミーディアス王国に侵攻することになりました。
よって、戦争に参加します。
残り一カ月と少しですが、覚えておいてください。」
「どの程度かかりそうですか?」
リリアーナの質問に、ルークは考える。
「そうですね、早くて三カ月程度でしょうか。
遅くとも、一年くらいと見積もって頂ければと思います。」
「わかりました。」
リリアーナは納得したようだ。
「ルークは総大将なの?
それとも別の人?」
アリシアが質問してきた。
「総大将は、クリシュナ殿下です。
近衛師団と一緒に行動しますので、大丈夫ですよ。」
「そう、お兄様が出陣するのね。」
アリシアは、クリシュナのことを心配していた。
「レイヴン兄さんも出陣するのかしら?」
ミレーナの質問に、ルークは首肯する。
「以前、レイヴンに聞いたところでは、2千の兵を預かっているから、
出陣することになるだろうとは言っていました。
ですから、南方から攻めることになると思いますよ。」
「そっか・・・
サーシャ姉さまが心配だわ。」
「たまに、様子見に行きますか、ミレーナ?」
ミシェリがミレーナに声をかける。
「そうね、そうしましょうか。」
「じゃ、私に任せてください。
私はルーク様から“瞬間移動”を学んでいますので!」
ミシェリは得意げだった。
「ちなみに、クロムワルツ侯爵も参加されるそうです。」
ルークがミシェリにそう告げる。
「それもそうですね。
お父様は南の要ですからね。
私は大丈夫ですよ。」
ミシェリは、特に問題なさそうだった。
ルークは全員の表情を観察する。
皆、一様に心配しているようだ。
メイリアも同様だった。
「家のことは、皆さんに任せますので、心配せずに待っていてください。
もう少し先の話ですが、覚えておいてくださいね。」
ルークは念を押す。
皆はうなずく。
問題はなさそうだった。
夕食が済むと、ルークはミシェリを執務室に呼んだ。
「ミシェリ、一つ頼みがあります。」
「はい、なんでしょうか?」
「メイリア殿をある場所に連れて行って欲しいのです。
“瞬間移動”を使えるのはあなただけですから。」
「どのような場所なのでしょうか?」
「明日の午後、教えます。」
「わかりました。」
ミシェリはこくりとうなずくと、ルークの執務室を出て行った。
ルークは、深く息を吸うと、大きくため息を吐くのだった。
翌日、午後。
ルークはミシェリを連れて、ペゾスの村にある元自宅にやってきた。
「ここですか?」
ミシェリは周囲が雪に覆われているのに、驚く。
「いえ、ここから先、小高い場所に、お墓があります。
そこまで案内しますので、道を覚えてください。」
「はい、わかりました。」
ルークは、火の魔法で雪を溶かしながら進む。
ミシェリはその後ろをついていくのみである。
やがて、小高い場所に到着する。
そして、小さな石の前で止まる。
「ここは・・・?」
ミシェリは道を覚えたようだが、この周辺には何もなかった。
あるのは、小さな石のみだった。
「これは、お墓なんだ。
僕の乳母であった、ネミアという女性の墓なんだ。」
「ルーク様の乳母・・・?」
「うん、僕は、昔捨てられたって話をしたよね?
その時、僕を育ててくれたのが、乳母のネミアだったんだ。
実は、そのネミアは、メイリア殿に仕えていたんだ。
だから、メイリア殿にとっても大切な方なんだよ。」
「そうだったのですね。」
ミシェリは驚くのだ。
「春が来れば、僕は戦争に行かなくてはならない。
ネミアが亡くなったのは、春だったんだ。
だから、僕の代わりに墓参りをして欲しい。
それに、メイリア殿も、ネミアに会いたいだろうからね。」
ルークは寂しそうに、そう告げる。
ルークは毎年春になると、ネミアの墓標に必ず来ていたのだ。
墓参りにである。
だが、今回は戦争があり、長引く可能性もある。
だから、ミシェリに墓参りを頼むことにしたのだ。
ミシェリは納得したのか、こくりとうなずく。
「じゃ、花嫁みんな連れて来ますね。
もちろん、お母様も含めてです。
ネミアさんにも花嫁を紹介しないといけませんよね。
私がちゃんと報告しますから、安心してくださいね。」
ミシェリは、そう宣言したのだ。
ルークはちょっと驚いていた。
まさか、花嫁全員を連れてくると言い出すとは思わなかったからだ。
だが、賑やかになるのならば、いいのかもしれない。
「あぁ、じゃ、ミシェリにお願いするよ。」
ルークはそう言うと、墓石に向かって手を合わせるのだった。
ミシェリも同じように、手を合わせ、瞑目する。
ルークにとっては、少し早い墓参りであった。
まだ寒い時期であったが、この時ばかりは、日差しも暖かく感じたのであった。