33-7 皇帝陛下からの命令。
翌日。
珍しく、政務官から内容確認依頼の仕事がなかったのだ。
朝から暇になってしまった。
ルークはお茶を飲みつつ、メルディナより新たに届けられたメリッサの情報に目を通すことにした。
メリッサは南側の都市の調査を行っていた。
南側の都市は三つある。
三つとも、大した軍事力は無いようだ。
この辺は、東側と一緒らしい。
となると、王都ミルディアが一番の軍事力を持っていることになる。
後は、西側が気になるところだ。
それと、皇太子派が敗れたという噂が出回っているそうだ。
真偽は不明だが、皇太子が殺されたという噂もあるらしい。
どうやら、決着はついた模様だ。
西側に流れれば、真相に近づけるはずだ。
メリッサは、西側に移動中なので、数日後には連絡があるはずだ。
それまでは、待つしかないな。
ここまでの情報では、レヴィの言う通り、総兵力は6万程度と見て問題なさそうだ。
だが、実質の軍勢は、4万から5万程度であろう。
寄せ集めは役に立たないのがセオリーだからだ。
ならば、王都を落とせば、あっさりと決着がつくことが予想された。
だが、油断は禁物である。
未だ謎である、魔法騎士の存在が気になる。
会敵した時に、はっきりするので、それまで油断しないことだ。
ルークは頭の中で纏め終えると、紅茶を一口すする。
後は、西側の情報によって、全体が把握できるはずなのだ。
メリッサから新たな情報が提供されるのを待つとしよう。
ということで、何をしようか考えていた矢先だった。
「ルークよ、聞こえるか?」
「はっ、皇帝陛下!」
皇帝陛下からの“思念連結”だった。
「既に知っておると思うが、春になったら、ミーディアス王国に侵攻を行う。
ミーディアス王国に宣戦布告の使者を送った。
春になった時点で、動いてもらうぞ。」
「はっ、承知しました。」
「それから、マクドフェルド伯爵と共に、軍勢を率いて北方より攻めよ。
王都ミルディアを落とせば、ミーディアス王国はほぼ終わりであろう。
だが、油断するでないぞ。
貴殿と同じ、魔法騎士が存在しておる。
詳細は不明だが、どの程度の実力を秘めているか、わからぬ。
頼むぞ。」
「はい、承知しております。」
「南方からも軍を出す。
総指揮は、クリシュナに任せた。
近衛師団及び、クロムワルツ侯爵の軍が中心となって進軍する予定だ。
同時に攻め落とし、ミーディアス王国を攻め滅ぼすのだ。」
「はっ、承知致しました。」
ルークは驚いていた。
総指揮をクリシュナが務めることになるとは思わなかったのだ。
「では、後のことは、クリシュナより指令があるはずだ。
クリシュナに従い、軍を動かせ。
頼んだぞ、ルークよ。」
「はい、お任せください。」
“思念連結”は切れた。
これは、一度、クリシュナと話をする必要がありそうだ。
それに、“軍団魔法”の宝珠を渡す必要もある。
近いうちに招集がかかるはずなので、その時持っていくとしよう。
ルークは早速動いた。
まずはガイマンの元へ行き、準備済の兵糧や物資の再点検を依頼する。
それと、回復術士と鍛冶師の要請も再確認する。
次に、各騎士団長に、皇帝陛下から正式な指令があったことを伝える。
各自準備を怠ることがないように、再度念を押す。
そして、マクドフェルド伯爵にも“思念連結”で連絡し、陛下からの正式な要請があったことを伝える。
それから、クリシュナ殿下と細かい打ち合わせをすることも伝えた。
無論、兵糧や物資の準備、騎士団への情報伝達も依頼した。
これで一通り完了である。
後は、メリッサにも連絡だ。
すぐに、“思念連結”を行う。
「メリッサ殿、聞こえますか?」
「ルーク様、聞こえております。」
「皇帝陛下より、正式に侵攻命令が届きました。
春までには一旦戻ってきてください。」
「承知しました。
春前には戻れる見込みです。」
「わかりました。
頼みますよ。」
「はっ!」
“思念連結”を切る。
後は、花嫁たちに伝えるのみだった。