33-4 マクドフェルド伯爵との会談。
翌日、朝。
グレッグともう一人の騎士団長が城にやってきた。
そして、城には、五台の馬車が用意してあった。
内四台は、護衛の騎士が乗るための馬車である。
ルークと騎士団長二名は、同じ馬車に乗り込む。
そして、都市メリアードに向け、出発するのであった。
到着は、夕方か夜の予定だった。
都市ルクサスメリルを出たところで、街道が出来上がっていた。
といっても、ほんの少しの距離だけだが。
敷石が敷かれた道が、綺麗に整っていたのだ。
「これが、閣下の行っている街道作りですか。」
グレッグの言葉に、ルークがうなずく。
「まだまだ途中だけどね。
これが完成すれば、人の流れが活発になる。
ルクサスメリルが更に発展する見込みだよ。」
「ほう、これはまた。
しかし、これはかなりのお金がかかるのでは?」
「うん、かかってるよ。
今のところ、金貨2000枚だったかな?」
「はい!?
金貨2000枚ですか・・・
笑えませんな。」
グレッグは金額に驚いたようだ。
「その内、王都との間にも街道を整備する予定だよ。
そうすれば、王都からも人が流れてくる。
ルクサスメリルは、王都より行きやすい都市になるってわけだ。
それに・・・」
ルークは、街道整備の効果について説明していく。
二人の騎士団長は興味津々に聞いていた。
そんなことを話しながら、五台の馬車は、都市メリアードへと近づいていく。
都市メリアードに到着したのは、夕方だった。
ルークらは、城にて一泊させてもらうことにするのだった。
翌日、朝。
応接室にて、会談が開始される。
集まったメンバーは、ルーク、マクドフェルド伯爵、各騎士団長の三名だった。
「では、はじめましょうか。」
ルークの言葉に、皆がうなずく。
「現状わかっている情報をお伝えします。
春になり次第、皇帝陛下はミーディアス王国への侵攻を
開始する可能性が髙くなりました。
これにより、我がフェインブレイン家も、
この戦争に先鋒として参加することになりそうです。
無論、マクドフェルド伯爵にも参戦して頂きます。」
ルークの言葉に、マクドフェルド伯爵はうなずく。
「次に、敵の都市の状況をお知らせします。」
ルークはテーブルに用意した紙に、敵の都市を書き込んでいく。
都市メリアードの西側に、四つの都市が書き込まれる。
四つの都市は、並んであるわけではなく、ジグザグな位置に都市が存在していた。
そして、王都ミルディアを書き込む。
ルークは黒い駒をそれぞれの都市に置いていく。
「現状調査済みなのは、王都ミルディアより東側のみとなっています。
南や西側についてもわかり次第、情報共有します。
まずは我らの侵攻ルートを説明します。」
ルークは白い駒を都市メリアードに置く。
「我らはまず、この四つの都市を占拠します。
幸い、これらの都市の軍事力は大したことはありません。
全ての都市を合計しても、1万たらずです。
よって、一つの都市は約3千程度と考えておいてください。」
ルークは、四つの都市の黒い駒を取り除く。
「我らの軍勢は、総勢2万程度。
この四つの都市を制圧するのに、各一日程度で済むと考えています。
制圧した後、兵士百名程度を残し、さらに進軍を行います。」
そして、白い駒を王都へと近づける。
「問題は、王都ミルディアです。
王都ミルディアのみで、約4万の軍勢を確保しています。
いくら内乱で疲弊しているとはいえ、油断はできません。
よって、僕の魔法“軍団魔法”を使用し、決戦に挑みます。」
黒い駒を白い駒に並べる。
そして、黒い駒を排除する。
「“軍団魔法”を使ってしまえば、いかに敵の数が多くとも、
彼らに勝ち目はないでしょう。
これは、僕が以前対戦したラインクルド王国軍で実証済みです。
こちらの手勢は無傷で勝利させましたから、今回もうまくいくはずです。」
その言葉に、マクドフェルド伯爵と騎士団長たちがうなる。
「そして、王都ミルディアへの攻略に移ります。
もし、南方侵攻軍が早くに到着する場合は、
我らは共同で攻め込むことになります。」
ルークは、王都ミルディアに白い駒を置く。
「王都さえ支配してしまえば、西側の制圧も、
さほど時間がかからない見込みです。
南方も、南方侵攻軍にかかれば、制圧されるでしょうし。」
「・・・完璧ではないでしょうか?」
マクドフェルド伯爵はそう呟く。
他の騎士団長たちも、うなずく。
「そうですね、僕もこの通り行くと思っています。
ただし、気になる情報があります。
ミーディアス王国にも魔法騎士が数名存在するという情報があります。」
「なんですと!!?
魔法騎士ですか?」
マクドフェルド伯爵は驚く。
「えぇ、実力のほどは不明ですが、国王直轄の騎士のようです。
もし、僕と同程度の実力があるのであれば、
逆転される可能性もあります。
例えば、南方侵攻軍が先に着いた場合、
近衛師団が危機に陥る可能性が髙くなります。」
「・・・なるほど、それは厄介ですな。」
グレッグがうなる。
「しかも、一名ではないというところが気にかかります。
もし僕らが先に王都に到着した場合は、精鋭のみで王城に挑むつもりです。」
「なるほど。
しかし、精鋭はどの程度いらっしゃるのでしょうか?」
マクドフェルド伯爵が問う。
「そうですね、魔剣を与えた二名と、現在諜報活動を行っている者一名の
計三名といったところでしょうか。
できれば、僕一人で片付けたいところですが、そうもいかないでしょうね。」
「ふむ、となると、クロウ殿にゼルディア殿か。
それにメリッサ殿と。
確かに、あの三人であれば、実力的に問題はありますまい。」
グレッグはそう判断していた。
グレッグが認めるのだ、問題ないだろう。
「もし、もしも勝てないと判断された場合、どうなさいますか?」
マクドフェルド伯爵は可能性として、問う。
「その時は、究極の魔法を使って、王城ごと葬り去るつもりです。
いかに魔法騎士といえど、究極の魔法を防ぐ手段はないでしょう。
陛下に叱られるかもしれませんが、
理由を述べれば納得してもらえるでしょう。」
「なるほど。
それは最終手段ですな。」
マクドフェルド伯爵は納得する。
「ですが、王城は無傷で手に入れたいですね。
そして、王を捕らえ、降伏宣言をさせれば、
西側は攻めずともとれる可能性が髙くなりますし。」
「確かに、そのとおりですな。
しかし、王が逃げることも考慮しなくてはなりませんな。」
「そうですね。
その件については、現場に着いてから考えましょう。」
ルークとしては、今回の作戦はうまくいくと思っていた。
問題は、魔法騎士の存在だ。
どの程度の実力なのか、今現在不明なのだ。
もし、ルークと同等であれば、厄介な存在となる。
ルーク以下でも、近衛師団並みであった場合、厄介に変わりはない。
こればかりは、実際に会ってから判断となりそうだった。
「敵軍はどの程度の兵力を我らに向けてくるでしょうな?」
マクドフェルド伯爵は質問する。
マクドフェルド伯爵は王都ミルディアの前に黒い駒を戻す。
そして、白い駒と対峙させる。
「そうですね、南方侵攻軍のこともありますから、
4万全てを差し向ける可能性は低いでしょうね。
低く見積もっても、同数か、3万程度と見ていいでしょう。」
「そうでしょうな。
あとは、ルーク様の“軍団魔法”を使うことにより、
敵軍を壊滅させ進撃すれば、敵軍の士気をくじくことができると・・・」
マクドフェルド伯爵は一つ一つ丁寧に確認していた。
マクドフェルド伯爵は戦争経験が豊富ではない。
「条件付き」戦争も、多くは出ていないのだ。
特に、侵攻作戦は初めての参加だ。
連戦が続くことも考慮して、兵の士気を下げないように配慮せねばならないのだ。
「では、話を変えましょうか。
まずは、こちらの軍勢を集める時期を決めておきましょう。
陛下の命令により多少ずれるかもしれませんが、
この日というのを決めておくべきでしょう。」
「そうですな。
では、いつ頃にしましょうか。」
「そうですね・・・」
それから、ルークらは、事細かい内容を決めていく。
マクドフェルド伯爵は5千の兵力を準備することになる。
その分の兵糧や物資も確保済みだった。
ルークは1万5千の兵力を用意する予定だ。
その分の兵糧や物資は、既に確保済みであった。
都市を落とした際、誰を守備に残すのか、そういった細かい取り決めも決めていく。
全ての内容が決まったのは、夕方頃だった。
これで認識合わせは完了した。
後は、軍の準備を整え、出陣できる状態にすることのみであった。
結局、大幅に時間がかかったこともあり、ルークらはもう一泊することにするのだった。
ルークはメルディナに、明日帰る旨を告げて、城内の者に周知してもらうよう頼んだ。