33-8 お祝い。
その日の夕方。
夕食時、ルークはミレーナとミシェリに質問した。
「ところで、お祝いの品はいつ届けますか?」
ミレーナとミシェリは考える。
だが、すぐには答えは出ないようだ。
少し経ってから、ミレーナが返答するのだ。
「・・・明日とかどうかな?
ダメ?」
ミレーナの問いに、ルークは考えるまでもなくうなずく。
「わかりました、明日ですね。
明日の午後でいいですか?」
「うん、いいけど、荷物はどうやって運ぶの?」
「そうですね、執事二名に運んでもらいましょうか。」
「そうか、その手があったわね。
で、馬車で移動するの?」
「まさか。
“瞬間移動”で移動しますよ。」
ルークは初めから馬車で移動することは考えていなかった。
「わかったわ。
じゃ、明日午後ね。」
ミレーナもミシェリも納得したようだ。
ルークは、ルドルフに二人の執事の手配をお願いする。
明日の午後、出発するのであった。
翌日、午後。
荷物を持った執事二名と、ルーク、ミレーナ、ミシェリが揃った。
ミレーナとミシェリは、簡素なドレスを着ていた。
いつものドレスより、動きやすいようだ。
「いつものドレスでもいいのに、何故、そのドレスを?」
「うん?
サーシャ姉さまは派手な格好は好きじゃないからね。
簡素なものにしてみたの。
それに、正式な訪問ってわけじゃないし。」
「なるほど。
そうですね、今日は遊びに行くといった感覚でしょうか。」
「そうね。」
ともかく、そろそろ出発しよう。
「では、僕に触れてくださいね。」
ミレーナとミシェリは、何故かルークのそれぞれの手を握り、手を繋いだ状態となる。
執事二名は、ルークの肩に触れる。
「“瞬間移動”!!!」
五人は、城外門へと飛ぶのだった。
城外門を出た後、王都へと飛び、王都内部に入ると、今度はミルドベルゼ子爵の屋敷まで飛んだ。
計三回、“瞬間移動”を使ったのだが、皆平気そうだった。
そして、ミルドベルゼ子爵の屋敷のドアをミレーナが開けた。
「ちょ、ミレーナ、一応、貴族の屋敷ですよ!
自分の家ではないのですから!
まずは、ノックしませんと!!」
ルークの言葉に、ミレーナも思い出す。
「あ、そうだった!?
つい、いつもの癖で・・・」
「開けてしまったのなら仕方ありません。
声をかけてみましょう。」
ということで、声をかけようとしたら、メイドさんに覗かれていた。
「あの、ルーク様にお嬢様?」
「はい、そうです。
あの、サーシャさんはいらっしゃいますか?」
ルークは気を取り直して、用件を伝える。
「はい、奥様はいらっしゃいますよ。
今、お伝えしてまいりますね。」
こうして、メイドは奥へと消えていった。
数分後、メイドは戻ってきた。
「では、応接室へどうぞ。」
ということで、全員で応接室へと移動するのだった。
応接室には、サーシャが既に待っていた。
「サーシャ姉さま!」
「姉様!」
「あらあら。」
サーシャは、ミレーナとミシェリを見て笑顔になる。
そして、二人はサーシャを囲むように、ソファに座ったのだ。
ルークは対面側に座り、背後に執事たちが控えた。
「今日はどうしたんですか?」
サーシャは嬉しそうに、問う。
「姉さまにお祝いの品をもってきました。
役に立ちそうなものを持って来たんですよ。」
ミレーナがそう言うと、早速執事たちが動く。
まずは、タオルを取り出し、ミレーナに渡す。
ミレーナは、サーシャに渡すと、サーシャは感触を楽しむ。
「まぁ、これは、とても柔らかいタオルなのね。」
「はい、子供が生まれた時、子供を拭くのに使ってくださいね。
柔らかいタオルは、子供の肌触りにもいいそうですよ。」
「ありがとう、ミレーナさん。」
そして、もう一つの袋に入っていたものを取り出す。
それは幼児向けの木のおもちゃだった。
「こちらは、幼児向けのおもちゃです。
誤飲とかしないように、大きなおもちゃを選びました。」
ミシェリの説明に、サーシャは嬉しそうだ。
「まぁ、ありがとう、ミシェリ。
子供もきっと喜ぶわ。」
サーシャは笑顔で、ミシェリの頭を撫でてあげる。
これには、ミシェリも嬉しそうだった。
「ルーク様、わざわざのお気遣い、ありがとうございます。」
サーシャはそう言って、頭を下げる。
「いえ、これくらいは大したことではないですよ。
それに、言い出したのはこの二人です。
僕は、何もしていませんよ。」
「なによ、ルーク様だってお金払ってくれたり、
ここに連れて来てくれたじゃない?」
「そんなことはないですよ。
これも、ルーク様のおかげなんですから。」
ミレーナとミシェリにそう言われると、ルークも困る。
「うふふ。
今度、ミレーナさんとミシェリに子供が出来た時は、
お返しさせてもらいますね。」
サーシャはそう言って、笑顔になるのだった。
五人は夕食の前に引き返すことにした。
元より長居するつもりはなかったのだ。
簡単に挨拶を済ませ、ルーク達はミルドベルゼ子爵の屋敷を後にした。
「姉さま、幸せそうだったな・・・」
「そうですね、私たちも頑張らないと。」
何を頑張るのだろうか?
そういえば、レイヴンは不在だった。
仕事で遅くなるそうだ。
まぁ、また今度会えばいいだろう。
夕食会は、きっと賑やかになるだろうなと思いつつ、ルークたちは都市ルクサスメリルへと帰還するのだった。