33-5 侵攻の話。
翌日以降、近衛師団の騎士や候補生たちの訓練を見て回る日々が続いた。
ルークは教官として、アドバイスをすることに徹した。
無論、“情報収集”で得た情報の活用を忘れない。
こうして、騎士や候補生たちの動きが良くなっていくのだった。
ルークのアドバイスは非常に丁寧であり、的を射ていたのだ。
彼らに伝わる言葉でわかりやすく伝えていたので、皆、すぐに納得や理解することができたのだ。
そのことにより、皆の行動に変化が生まれていたのだ。
これを知ったベルガ―は、嬉しい反面、自分もそうであらねばと反省するのであった。
四日目。
現場に、クリシュナが来ていたのだ。
ルークは当初気付いていなかった。
何故なら、クリシュナは、隊舎にいたからだ。
隊舎は、“情報収集”の対象外だったため、気付くはずがなかった。
ベルガ―の執務室で、クリシュナ、ベルガー、レヴィの三人が集っていた。
「訓練の状況はどうだ?」
「はっ、ルークのおかげではかどっております。
騎士も候補生も動きが良くなっておりました。」
その回答に、クリシュナは笑みを浮かべる。
「やはり、ルークに任せて正解だったな。
それにしても、彼はうらやましいものだ。
内政に軍事、双方をうまく回せる人材はなかなかいない。
公爵にするのがもったいなかったかもしれないな。」
クリシュナは何となく、ルークを公爵にしたのがもったいないと感じていた。
もし、近衛師団にスカウトできていれば、近衛師団が更に強化されていた未来が視えたからだ。
だが、それは今更の話である。
「殿下、ルークにお会いにならないのですか?
今なら呼び出せますが。」
ベルガ―の言葉に、クリシュナは首を横に振る。
「いや、今は会わないでおこう。
夕方、訓練が終わった時点で会おう。
その時、少し話がしたい。
夕方にもう一度来る。
ルークをとどめておいてくれるか?」
「わかりました。
では、ここで待たせることにしましょう。」
「あぁ、頼む。
じゃ、王城に戻る。
レヴィ、いくぞ。」
「はっ!」
クリシュナとレヴィは、執務室を退出していった。
「相変わらず、お忙しい方だな・・・」
ベルガ―はポツリとそんなことを呟くのだった。
夕方になった。
訓練に疲れた騎士や候補生たちは、隊舎へと戻っていく。
ルークも隊舎に寄ってから、ミルドベルゼ子爵の屋敷へと向かおうとしていた。
その時、一人の騎士がルークの元にやってきた。
「ルーク様、ベルガー様がお呼びです。」
何かあるのかな?
そう思いつつ、隊舎へと向かうことにした。
ベルガ―の執務室に入ると、クリシュナとレヴィが待っていた。
ルークは敬礼をすると、二人も敬礼を返してくれた。
「ルーク、よく来た。
さ、座るといい。」
クリシュナの言葉に従い、ルークはソファに座る。
「以前、君には手紙で送った内容だが、来年春に侵攻が行われる可能性がある。
これは、ほぼ決定事項と思ってもらって構わない。
実はな、ミーディアス王国で内乱が発生しているのだ。」
「なるほど。
内乱に乗じて、攻め込むというわけですか?」
「それもある。
内乱の内容だが、単純な後継者争いだ。
国王派と皇太子派で、王位継承で争いが発生したそうだ。
国王は皇太子を廃嫡し、皇太子の末弟に、王位を継がせるつもりらしい。
それを知った皇太子が、反乱を起こしたそうだ。
ところが、この皇太子も阿呆なのだ。
よりによって、我が国に侵攻せよなどと言いおったのだ。」
意味がわからない。
何故、皇太子が侵攻を許すのだ?
「簡単な話です。
皇太子は圧倒的に不利な状況にあります。
おそらく内乱も、冬の間に終結するのではないかと見込んでいます。
皇太子派は、そのほとんどを攻略されてしまっております。
そんな中、我が国に助けではなく、侵攻を許したのです。
噂では、元々馬鹿者で有名だったそうですが、
今回の件でそれが露呈したというところでしょうか。」
レヴィは少々呆れながら話していた。
「では、その侵攻を許したことを名目に、動くということですね?」
「まぁ、そうなるな。
皇太子派については、助けるつもりはさらさらない。
むしろ、皇太子派を滅ぼして、疲弊したところを、
我らの軍勢が叩くという形になりそうだ。
そして、一気にミーディアス王国を滅ぼす。
これは、父上の考えでもあるはずだ。」
なるほど、内乱の終結後に、軍勢を派遣し、一気に滅ぼす算段か。
「では、春になれば、我らはすぐに動く形になりそうですね。」
「そうだな、きちんとした宣戦布告は我が国から出されるのは、
恐らく春前となるだろう。
春になった時点で、軍勢を派遣する形となるだろう。
無論、北と南の二方面から進撃することになる。
君には、北から攻略してもらう予定だ。」
クリシュナの言葉に、ルークはうなずく。
「敵の軍勢はどうでしょうか?」
「疲弊しているとはいえ、6万程度の軍勢を出すことは可能かと思われます。
無論、寄せ集めを含めての話ですが。」
レヴィの報告はある程度正確なので、信じても問題ない。
「王都を攻め落とせば、他は烏合の衆に等しい。
これは、ルークが先に攻略するか、
近衛師団が先に攻略するか次第になってくる。
ミーディアス王国の西側は小国が控えているから、
こちらは戦争に加担することはまずないだろう。」
ミーディアス王国の西側は小国連合となっている。
小さな国々が、連合を作っているのだ。
ルーニア皇国とケンカを売るだけの実力はないに等しいのだ。
よって、ミーディアス王国に援軍は存在しないのだ。
「なるほど。
では、ちょっと競争になりそうですね。」
「まぁ、どちらが先に落としてもかまわん。
落とした時点で、抵抗力は大幅に落ちる。
それだけのことだ。」
クリシュナの言葉通りだった。
「ともかく、戦争の準備は、騎士団に指示しております。
こちらも、いつでも動けるようにしておきますので、ご安心を。」
ルークの言葉に、クリシュナはうなずく。
「後は、父上次第だ。
すぐに動けるように、頼んだぞ。」
クリシュナの言葉に、ルークとベルガ―はうなずく。
戦争は、確実となった。
後は、皇帝陛下の命令次第だったのだ。