32-1 メリッサへの依頼。
翌日。
ルークは仕事中に、魔力を感知する。
途端、机の上に、手紙が出現したのだ。
“手紙”の魔法による、手紙の転送だった。
ルークは手紙を手にして、送り主を確認する。
送り主は、クリシュナだった。
早速、手紙の中身を確認する。
内容は、春には隣国ミーディアス王国に侵攻する可能性が髙くなったと書いてあった。
そのための準備をしておいたほうがいいとも書いてある。
どうやら、皇帝陛下が決断した模様だ。
ミーディアス王国とは戦争状態だったが、今は休戦状態に近かった。
互いに軍を興すことなく、戦っていないからだ。
だが、宣戦布告もなく攻めてきたのは、ミーディアス王国側だった。
未だに、宣戦布告はないそうだ。
曖昧にして逃げる雰囲気もなかった。
そういえば、ミーディアス王国のことはよく知らない。
以前は、攻められたところを撃退しただけだったからな。
調査をもう開始しておく必要がありそうだ。
というわけで、メリッサを派遣することにしよう。
季節は冬ではあるが、雪がそこまで積もる地域ではないのだ。
寒さが少々厳しいだろうが、調査は必要なのだ。
ということで、即決した。
ルークは仕事を終わらせるべく集中するのだった。
午後。
昼食を済ませた後、ルドルフに出かける旨を告げて、ルクサスメリル騎士団へと赴いた。
騎士団の隊舎に入り、グレッグとの面会を求めた。
グレッグはルークの突然の来訪に慣れたのか、すんなり通してくれた。
「閣下、本日はどういった用件で?」
「実は、皇太子殿下からある報告が入りました。
来年の春には、ミーディアス王国に対して、戦争を仕掛けるそうです。」
「なんですと!?
となると、我らは先鋒を務めるのですかな?」
グレッグは驚きつつも、質問をする。
「うん、たぶんそうなると思うよ。
後で、関係各所にも報告する予定だけどね。
そこで、メリッサ殿を、ミーディアス王国に派遣しておきたいんだ。
情報収集は早い方がいいし、メリッサ殿には、それだけの能力がある。」
「なるほど。
では、メリッサ殿を呼びましょう。」
グレッグは立ち上がり、廊下に控えていた騎士に、メリッサを呼ぶよう命令を下す。
数分後、メリッサがやってきた。
「ルーク様、グレッグ団長、お呼びでしょうか?」
「まずは、座ってくれないかな。
重要な話なんだ。」
ルークの言葉に従い、メリッサは椅子に座る。
「メリッサ殿、来年の春に、ミーディアス王国と戦争になる可能性が髙くなった。
まだ、決定事項ではないが、こちらから攻めることになる。
そこでだ。」
「ミーディアス王国に行き、密偵行動を取れということですね?」
メリッサは瞬時に察したのか、そう答える。
「察しが早くて助かるよ。
できるだけ、情報収集を行って欲しい。
各都市の軍事力や、政治状況など、わかることなら何でも構わない。」
「そういうことであれば、お任せください。
情報は逐一報告する形をとります。
どなたに報告すればよろしいでしょうか?」
「とりあえず、僕で構わないよ。
“思念連結”での定期的な報告を頼む。
僕が騎士団等に情報伝達する役割を担おう。
その内、担当者も決めておかないとダメだろうけどね。」
ルークも、そこまで手を回していなかった。
確かに、密偵の情報を取り纏める人間が必要だ。
後で、検討してみることにしよう。
「わかりました。
とりあえず、閣下に情報を通達するように致します。
もし担当者が決まりましたら、お教え頂ければ助かります。」
「うん、頼むよ。
では、早速で悪いんだけど、明日よりミーディアス王国に向かって欲しい。
必要な物は、今日の内に揃えておいて欲しい。
今回は、僕の命令で動くことになるから、
騎士団のことは気にしなくていいよ。」
「承知しました。
準備を今日中に済ませた後、明日出立致します。」
メリッサは頭を下げる。
「ああ、頼むよ。
担当者は決まり次第、連絡する。」
メリッサはうなずくと、部屋を退出していく。
「しかし、急ですな。
戦争なんて。」
グレッグはそんなことを呟く。
「うん、確かにね。
でも、何か起きたんだろうね、ミーディアス王国内で。
それを知った上で、判断したと僕は思うよ。」
「でしょうな。
では、我ら騎士団も準備に取り掛かります。」
「ああ、任せるよ。」
ルークは、城に戻るのだった。
ルークは、城に戻るや、メルディナを呼ぶ。
メルディナはすぐにやってきた。
「一つ頼みたいことがあります。」
「はい、何なりと。」
メルディナの言葉に、ルークはうなずく。
「実は、密偵をミーディアス王国に派遣することにしました。
そこで、密偵からの報告を取り纏めて頂けないでしょうか。
期間は、そう長くはありません。
来年の春位までですね。」
「となりますと、戦争でも始めるのでしょうか?」
メルディナの問いに、ルークはうなずく。
「可能性が高まったということです。
僕たちが先陣を切る可能性が高まりました。
これは、皇太子殿下からの情報です。」
「!?
かなり有力な情報ということですね。」
「その通りです。
クロウ殿にも参加してもらうことになるでしょう。」
ルークは、メルディナの旦那の名を挙げる。
「それは致し方ないことだと分かっています。
密偵との連絡の件、了解しました。
密偵の情報は、ルーク様に報告する形でよろしいのですね?」
「はい、それでお願いします。
では今から、密偵を務める、メリッサ殿とつなぎますね。」
ルークは、“思念連結”をメリッサとメルディナにつなぐ。
「ルーク様ですか?」
「メリッサ殿、今、よろしいですか?」
「はい。」
「密偵で得た情報を、今繋いでいるメルディナ殿にお知らせください。
もし、メルディナ殿と通信できない場合は、僕でも構いません。
お願いしますね。」
「メリッサ殿、私は、専属魔導士のメルディナと申します。
よろしくお願いします。」
「私はメリッサと申します。
メルディナ殿、よろしくお願いします。」
互いに挨拶が済んだところで、ルークが通信を切ろうとする。
「ルーク様、よろしいでしょうか?」
メリッサが慌てて、声をかける。
「はい、なんでしょうか?」
「来年春には戦争になるかもしれないということでしたが、
私もそれまで戻るべきでしょうか?」
「そうですね、できれば戻ってきて欲しいですね。
軍を動かすのは僕たちだけになるとは思えませんし。
南方よりミーディアス王国を攻める可能性もあります。
だから、メリッサ殿には僕の傍で連絡係を務めてもらうかもしれません。」
「承知しました。
できるだけ、多くの情報を仕入れるように、努力してみます。」
「はい、頼みます。
では、切りますね。」
ルークは、“思念連結”を切る。
「では、明日より、連絡が入りましたら、対応をお願いします。」
「了解しました、ルーク様。」
メルディナは一礼するのであった。
こうして、メリッサは翌日より、ミーディアス王国に向かって密偵任務に取り掛かるのであった。
それに伴い、メルディナが連絡係を引き受けることになる。
この二人より、様々な情報がもたらされることになるのだが、まだ先の話であった。