31-9 レヴィの目。
翌日。
ルークは魔剣をどうすべきか、考えていた。
元々、この城にあったものだから、騎士団の誰かに与えてもいいかもしれない。
しかし、誰がいいものか、考えていたのだ。
そもそも扱えるかどうかも怪しいのだ。
ルークなら、問題なく扱える。
あの二本は、レーヴァテインほど強力な剣ではないからだ。
二本に聞いてみたところ、人間の魔導士と鍛冶師によって創られた魔剣であることが分かったのだ。
しかも双方とも、儀礼用の剣だったのだ。
何故儀礼用に魔剣を創ったのかは不明なのだが、ともかく強力な魔力を秘めていたのだ。
これを扱いこなすとなると、かなりの手練れの剣士しかいないのだが・・・
今のところ、候補者はいた。
だが、いつ渡すべきか、そして扱えるのか、その辺はまだ判断していなかった。
そのうちに、試してみることにしよう。
それまでは、保管することにした。
さて、仕事に戻ろう。
ルークは、仕事に取り組むことにした。
お昼。
昼食を食べながら、女性陣の話をぼんやり聞いてた。
何やら、アリシアの選んだお菓子が、作り方が難しいようだ。
そこで、他のお菓子を提案していたようだが、アリシアがごねていた。
アリシアはどうしても、自分が選んだお菓子を作りたいとごねていたのだ。
そこで、メイリアが一緒に作ることを提案していた。
それで、話がまとまりかけていた。
平和だった。
そんな時だった。
執事の一人が、急いでやってきたのだ。
「ルーク様、近衛師団のレヴィ様がお見えです。
いかがいたしましょう?」
はて、何の用件だろうか?
「わかりました。
応接室に通してもらえますか。
それと昼食中であることもお伝えください。」
「承知しました。」
執事は、急いで去っていく。
「レヴィさん、どうかしたの?」
ミレーナの言葉に、ルークも困る。
「実を言うと、何の用件で来たのか、さっぱりでして。
ともかく、陛下や近衛師団に関することかもしれないので、聞いてみます。」
ルークはそう答えると、昼食をかき込むのであった。
10分後、ルークは応接室に入ると、レヴィが敬礼を行っていた。
ルークも敬礼を返す。
そして、ソファに座ると、レヴィも座った。
「さて、レヴィさん、どういった用件でしょうか?」
レヴィは、じっとルークを見た後、告げる。
「ルーク様、騎士団に最近一名、入団された方がいらっしゃるようですね。」
おや?
「しかも、魔力を持ち、剣士としても優秀な女性です。
彼女は何者なんでしょうか?」
どうやら、メリッサのことのようだ。
「ほぉ、気付かれたみたいですね。
例の宝珠を使ったんですね?」
レヴィは笑みを浮かべる。
「当然です。
この宝珠は、我々の諜報活動にも十分、活用させてもらってますよ。」
レヴィは、宝珠を取り出して見せる。
「では、彼女について、教えることにしましょう。
彼女の名は、メリッサといいます。
元ラインクルド王国の近衛騎士だった方です。
彼女は、僕に忠誠を誓い、僕の臣下として騎士団に所属してもらっています。」
「となると、先の戦争で、配下二名のうちの一人といったところでしょうか?」
「はい、その通りです。」
「彼女はどのような能力をもっているのですか?」
「諜報活動をしてもらう予定なので、
その宝珠に封じられた魔法を使いこなせますよ。
それと、“瞬間移動”と“隠蔽”、水系統の中級クラスまで使いこなしますね。」
「ほう・・・」
レヴィの目が輝く。
「では、近衛師団に勧誘してもよろしいでしょうか?」
そうきたか。
「勧誘は難しいと思いますよ。
彼女は、僕に忠誠を誓ってますからね。」
「なるほど。
それは事実なのですね?」
「はい、事実です。
彼女の口から聞きましたからね。」
レヴィはルークの話を聞き、ため息をつく。
「ルーク様はズルいですね。」
「何がでしょうか?」
「良い人材がルーク様の元に集まっていることです。
しかも、その人材のほとんどが、ルーク様に忠誠を誓っている。
だから、ズルいと言ったんです。」
これには、ルークは苦笑するしかない。
「ちなみに、このことは、クリシュナ殿下には?」
「まだお話ししていません。
もしお話しすれば、欲しがるでしょうね。」
「ですよね。」
ルークにも、何となくわかっていたのだ。
「ともかく、そのメリッサ殿に会わせて頂けませんか?」
「わかりました。
では、参りましょう。」
ルークとレヴィは立ち上がると、城の外に出ていく。
そして、“瞬間移動”を使って、ルクサスメリル騎士団の隊舎へと向かうのだった。
ルクサスメリル騎士団の隊舎に到着すると、メリッサを呼び出してもらうことにした。
すると、訓練場で訓練中とのことだったので、案内してもらうことにした。
メリッサはすぐにやってきた。
ルークの隣の女性を見て、敬礼を行う。
レヴィも敬礼を返す。
どうやら、近衛騎士と気づいたようだ。
「レヴィさん、彼女がメリッサ殿です。
メリッサ殿、彼女が近衛師団のレヴィ殿になります。」
「よろしくお願いします。」
メリッサは一礼する。
「ご丁寧にありがとうございます。」
レヴィも一礼を返す。
「さて、本題をどうぞ、レヴィさん。」
「メリッサ殿、単刀直入に言います。
近衛師団に来るつもりはありませんか?」
メリッサは驚いたものの、すぐに返答を返す。
「せっかくの申し出ですが、お断り致します。
私はルーク様に忠誠を誓いました。
皇帝陛下に忠誠を誓ったわけではありませんので、
近衛師団に入るわけには参りません。」
「やっぱり、そうですか。」
レヴィは、ルークの言葉を思い出したのか、残念そうに呟く。
「わかりました。
勧誘はここまでにしますね。
一つ質問してもいいでしょうか?」
レヴィの言葉に、メリッサがうなずく。
「どうして、ルーク様に仕えることにしたのですか?」
「それは、先の戦争において、ルーク様は私を
十全に使いこなしてくださったのです。
その時、私はこの方に仕えるべきだと直感で思いました。
そして、ルーク様に忠誠を誓ったのです。」
メリッサは迷うことなく、そう告げた。
これには、レヴィも何も言えなくなる。
「やっぱり、ルーク様はズルいですね。」
レヴィは苦笑を浮かべる。
「そんなにズルいですか?」
ルークは困るのだが、レヴィはもう一度言った。
「はい、ズルいですよ、ルーク様。」
こうして、レヴィは納得したのか、まっすぐ王都に帰るのだった。
メリッサを欲しがるのは仕方ないかもしれないが、ルークに忠誠を誓っている以上、無理に引き抜くようなことはしなかったのだ。
結局、このことは、クリシュナに報告されることはなかったのだった。