31-2 騎士団の強化を検討。
翌日。
朝から公爵の仕事をこなすと、一息つく。
紅茶をすすりつつ、やりたいことを一つ実行しようと考えていた。
その前に、準備が必要だった。
また、オリジナルの魔法を創るつもりだったのだ。
ルークは騎士団の強化案を考えていた。
その中で、ルークの魔法を鎧や剣にかけて、強化する策を思いついたのだ。
ルークの「創造系魔法」の中に『魔装生成』というものがある。
これを応用できないか考えたのだ。
以前、一つの鎧に、『魔装生成』を加えて強化したことがある。
あれを呪文とすることができないか、考えたのだ。
理由はある。
一つは、『魔装生成』を行う際、直接鎧に触れる必要があるからだ。
それでは、騎士団のすべての鎧を強化するのに時間がかかるのだ。
一人で、一万以上の鎧や剣に触れなくてはならないのだ。
一日じゃ終わらない可能性が高いのだ。
非効率なので、呪文で一気にかけてしまったほうが楽なのである。
多少、効率は落ちるかもしれないが、十分な強度は期待できるのである。
というわけで、早速、呪文を創り出してみることにした。
頭の中でイメージし、呪文を創り上げる。
そして、出来上がる。
“魔装化”の魔法が。
よし、早速試してみましょうか。
ルークは、ルドルフに出かける旨を告げると、ルクサスメリル騎士団へと向かうのだった。
ルクサスメリル騎士団の隊舎に到着すると、早速グレッグ団長に会うことにした。
「閣下、今日はどういったご用件で?」
「試したいことがありまして。
フル装備の隊長たちを集めてもらえますか?」
「フル装備ですか?」
グレッグは疑問に思うものの、すぐに招集にかかるのだった。
30分後、訓練場に隊長20名が集まった。
ちなみに、訓練場では、隊員たちの訓練が行われていた。
そんな中、隊長にのみ集まってもらったのだ。
「閣下よりお話しがあるそうだ。
心して聞くように!」
グレッグがそう言うと、ルークが語り始める。
「実は、騎士団の鎧や剣を強化するため、一つの魔法を開発したんだ。
今日は、それを試したいと思うので、ちょっと付き合ってほしい。」
ルークはそう言いだすと、鋼の剣を手にする。
「まず、現状の鎧から確認したいと思う。
鎧は、この鋼の剣を完全に遮断することはできない。
例えば、思いっきり横薙ぎされた場合、鎧は破壊される可能性が高い。
よって、鎧としての効果は薄いということになる。
かと言って、プレートメイルなどの高価な鎧は、騎士に回されないのが現状だ。
ということで、魔法による強化を行うことにした。
これは、プレートメイルよりもはるかに固くなるので、
ある意味効率がいいんだ。
ということで、今から魔法をかけるので、その場を動かないように!」
ルークは、魔法を唱え、解放する。
「“魔装化”!!!」
瞬間、20人の鎧と剣が淡く輝き、そして光が消えていく。
鎧や剣に変化はない。
皆、疑問に思いつつ、鎧や剣を見る。
「じゃ、クロウ殿、前へ。」
「は、はい!」
クロウは慌てて、前に出る。
「じゃ、今から思いっきり、この鋼の剣で斬るので、そのまま動かないように!」
「へっ!?
か、閣下!!?」
クロウは慌て出す。
だが、ルークは、止めるつもりは一切なかった。
ルークは素早い動きで、一気にクロウの胴を薙ぐ!!
「!?!?」
クロウはあまりの速さに動けなかった。
そして、クロウの胴は薙ぎ払われ・・・なかった!
なんと、ルークの持つ、鋼の剣が砕けたのだ!
「へっ!?
一体何が!?」
クロウは驚くばかりだ。
他の隊長たちも、この出来事に驚くのみだった。
ルークは柄だけになった鋼の剣を掲げる。
「魔装化することにより、鋼よりも固い材質へと生まれ変わるんだ。
これにより、君たちの生存率はぐーんと上がることになる。
どうかな?」
クロウは、斬られた辺りをさすってみるも、問題なかった。
しかも、鎧には一切傷はなかったのだ。
通常、プレートメイルでも、斬れはしないにしても、大きくへこんでいたところだろう。
それすらなかったのだ。
体に痛みもないのだ。
「・・・こりゃ、すげえや。」
クロウは、そう感想をもらす。
「閣下、これは、大変なことですぞ。
我らは、敵の攻撃を受けないばかりか、死ぬ可能性も大幅に減ります。
一方的な戦闘になりかねないでしょうか?」
グレッグの言葉は最もだった。
「そうですね。
ですが、僕としては、騎士たちには安易に死んでほしくはないですからね。
少々卑怯であっても、勝つ為なら、手段は選ばないつもりです。
できれば、天下無双の騎士団を作りたいですからね。」
「天下無双の騎士団・・・」
グレッグは思わずつぶやく。
もし、そんな騎士団ができれば、一切敵は存在しなくなるのだ。
それこそ、恐ろしい軍団になるのだ。
そして、その恐ろしい軍団が、自分たちとなるわけだ。
「団長、俺はいいと思いますぜ。
死ににくくなるのであれば、俺たちは、閣下のために存分に戦えるんです。
俺はやりますよ、とことんね。」
クロウはそんなことを言い出す。
「うむ。
私も皆が死なないことを祈りながら戦っているからな。
ルーク様に賛成しているとも。」
グレッグはうなずいていた。
ルークは納得してもらえたことを確認すると、更に説明を続ける。
「ちなみにこの鎧は、中級レベルの魔法までであれば、防ぐことが可能です。
上級魔法は防ぎきれませんので、その点は注意して頂きたい。」
上級魔法を使いこなす魔導士は、戦場ではあまり見かけない。
よって、上級魔法による攻撃でもない限り、安易に倒される可能性が低くなるのだ。
鎧に関して、説明はここまでだった。
「次に、剣の説明をしましょう。
まずは、これをクロウ殿に斬って頂きます。」
ルークは、先ほど用意した、鋼製のかかしもどきを見せる。
「あの、閣下、これ鋼ですよね?
斬れますか?」
クロウはかかしもどきに触れて確認する。
「斬れますよ。
試せばわかります。」
ルークはそれだけ言うと、クロウを促す。
「・・・うーん、やってみますね。」
クロウは考えた末、腰の鋼の剣を抜き取り、構える。
そして、気合一閃、かかしもどきを斬り裂く!
途端、鋼のかかしもどきが斬り裂かれたのだ!!
「ま、まぢ!?」
斬った本人が驚いていた。
他の隊長たちも、驚きのあまり固まった。
クロウは、念のため、かかしもどきを確認する。
綺麗にすっぱりと斬れていた。
しかも、斬り口は鮮やかなまでに、綺麗だったのだ。
「もしかして、これって、岩も切れるんじゃないか・・・」
クロウはそんなことを呟く。
「閣下、これは斬れ過ぎではないでしょうか?」
クロウは驚いた表情で、ルークに問う。
「これくらいなら、敵を鎧ごと斬り裂くことも可能ではないでしょうか?」
ルークはいとも簡単にそう言い切る。
「いや、できると思いますけど・・・
これは、さすがに・・・」
やりすぎと言いたかったが、確かにこれだけの威力があれば、プレートメイルさえも斬れるのだ。
「鎧だけの強化では、皆の生存率が上がるわけではありません。
敵を斬り裂く剣も強化しました。
これにより、更に皆さんの生存率は上がります。
ちなみに、僕の魔剣は、鋼を斬り裂くのは朝飯前です。
魔剣を握っていると思ってもらえればいいと思いますよ。」
「魔剣ですと!?
閣下の魔法は、そこまでの領域に至ったということですか!?」
グレッグが焦り出す。
それもそのはずだ。
もし、この剣をもつ騎士団が戦争に参加してみるとする。
敵を根こそぎ斬り裂く剣を持っているのだ。
鎧が一切意味を為さないのだ。
敵は、斬り裂かれ全滅するのみである。
ルークは恐ろしい武器を創り出したことになるのだ。
しかも、自軍強化のため。
騎士たちの生存率を上げるために。
「閣下は、恐ろしいことをなさる方だ・・・
しかし・・・」
しかし、グレッグは考える。
試してみたくなったのだ。
最強の騎士団の誕生を。
もし、ルークの魔法がこの騎士団を最強にするのならば、見てみたくもなったのだ。
それが、グレッグの願いでもあった。
フェインブレイン家の騎士団は元々、守ることに特化していた。
数々の「条件付き」の戦争でも、見事に防いでみせたのだ。
だが、今は領主が違うのだ。
ルークの代になってから、「守る」から「攻める」に変わったのだ。
ルークは、この騎士団を強化し、無敵の軍団を創り上げようとしているのだ。
それはある意味、恐ろしいことであった。
だが、またある意味、それは希望に満ちたことでもあった。
ルークは、ある意味その双方を兼ね備えた人物でもあったのだ。
希望と恐怖、双方を兼ね備える人間。
そんな人間は、普通いない。
それが、目の前に現れたのだ。
「これが魔剣並みの威力なのか!?
スゲェ・・・
いや、こいつなら、俺は閣下のために、剣を振るえる!」
クロウは剣を掲げ、叫んでいた。
クロウは元々忠義の厚い人間だ。
ルークに拾われてからは、ルークに忠誠を誓っていた。
故に、ルークより与えられた力に感謝していた。
そして、ルークのために、剣を振るうのみなのだ。
他の隊長たちも同様であった。
彼らも、伝説級の強さを誇るルークに憧れていたのだ。
そして、忠義を尽くしていた。
だから、彼から与えられる力は誉れでもあったのだ。
「ルーク様、我らに与えて頂いたこの力、
必ずやルーク様のために活用してみせますぞ!」
そして、隊長たちが全員剣を引き抜き、剣を掲げたのだ。
ルークはその姿に驚きつつも、コクリとうなずくのだった。
その後、ルークはもう一つの騎士団にも行き、同じように実演してみせた。
皆、ルークに忠誠を誓い、更なる活躍を約束するのだった。
翌日には、隊員も含めた鎧と剣を、魔法で強化したのだった。
これにて、最強の騎士団が誕生することになるのだった。