30-7 王都へ報告。
ルークは昼過ぎに、王都に到着する。
王都到着後、すぐに王城を目指す。
王城到着後、受付へと行くと、敬礼をされる。
ルークも敬礼を行う。
「皇帝陛下直属の騎士、魔法騎士のルークです。
皇帝陛下へお取り次ぎ願いたいのですが、可能でしょうか?」
「!?
ルーク様ですね。
少々お待ちください。」
魔法騎士と告げた途端、驚かれたが、まぁ、これにも慣れてきたな。
近衛師団のほうが驚かれないのかな?
そんなことを考えていると、受付担当者が戻ってきた。
「陛下はお食事中とのことでしたので、応接室でお待ち頂きますが、
よろしいでしょうか。」
「はい、問題ありません。」
「では、ご案内致します。」
ルークは、受付担当者に従い、応接室へと移動するのだった。
応接室は無人だった。
すぐにメイドがやってきて、紅茶を差し出す。
どうやら、皆、食事中のようだ。
そういえば、食事し忘れたな。
ルークはそんなことを思い出していた。
ルークはお昼を食べる癖は、実は昔からない。
だが、出されたら食べるのだ。
公爵になってからは、いつも食べていたのだが、ラインクルド王国にいた時は、ほとんど食べていないのだ。
ただし、朝食と夕食だけは、きっちり食べていた。
昼食だけ、曖昧だったのだ。
そんなわけで、しばしの間、1人でお茶を楽しむことになるのだった。
30分後、人がやってくる気配を感じた。
ドアが開き、やってきたのはクリシュナとレヴィだった。
ルークは立ち上がり、敬礼を行う。
2人も敬礼を返す。
「ルーク、よく戻ってきた。
任務、ご苦労だったな。」
クリシュナが座ると、ルークも座る。
レヴィは、クリシュナの後ろに控える。
「ありがとうございます。
今回も大変でしたよ。」
「だろうな。
だが、これで、ラインクルド王国とは友誼を結ぶに至った。
これで、ミーディアス王国に集中できるというわけだ。」
「なるほど。」
ミーディアス王国とはいまだ戦争状態だった。
宣戦布告が無かったとはいえ、戦争を仕掛けてきたのは、ミーディアス王国側だ。
こちらが軍事行動をとっても、文句は言えないのだ。
「では、動かれるので?」
ルークの質問に、クリシュナは首を横に振る。
「皇帝陛下の判断がまだだ。
君が戻ってきたとはいえ、すぐには動かないだろうと思う。」
「なるほど。」
クリシュナも、皇帝陛下の考えまでは読めない。
ルークが戻った時点で、戦争を仕掛けても問題ないと判断していた。
だが、皇帝陛下が首を縦に振るとは限らないのだ。
だから、ここは待つしかなかったのだ。
そんな会話を交わしている時に、ドアが開く。
入ってきたのは、皇帝陛下だった。
ルーク達は立ち上がり、敬礼を行う。
皇帝陛下は黙ってソファに座り、皆もソファに座る。
「よくぞ戻った、ルークよ。
大義であった。」
「ははっ、ありがとうございます。」
ルークは深く頭を下げる。
「貴殿のおかげで、領土を得ることができたばかりか、
ラインクルド王国と公に同盟を結ぶことができた。
感謝するぞ、ルークよ。」
皇帝陛下は、満足そうな表情を浮かべる。
「さて、では、仔細を聞かせてくれ。
貴殿の冒険譚を聞いておく必要がある。
・・・いや、しばし待て。
記録係を呼ぼう。」
皇帝陛下はメイドに命じて、記録係を呼び出す。
記録係はすぐにやってきた。
急いで紙束と羽ペンとインクを用意する。
「ゆっくり説明しますね。」
ルークは、記録係にまずそう告げる。
記録係は頭を下げる。
「では、お話しします。
まずは、僕が王都ラインに到着するまでの状況でしたが、
非常に危険な状況でした。
王女派と公爵派が、どの都市においても、一触即発の状態だったのです。
実際、都市メリクシアに到着したその日の夜に、
王女派と公爵派が戦闘を繰り広げていたのですから。」
当時を考えると、かなり酷い現場に出くわしていたのだ。
そんな中を王都ラインへと移動していったのだ。
「とにかく、そんな状況の中でしたが、僕は王都ラインに到着しました。
王都ラインは比較的平和でした。
僕はエリーシャ様に会い、近衛騎士に任命して頂き、権限も頂きました。
そして、2人の配下をつけてもらいました。
そこで、三公爵についての情報を得ることができました。
三公爵は既にこの時動き出していました。
そう、北のオーガスタ公爵と南のフェブリゾ公爵が軍を興していたのです。
僕は、王女派の軍勢が実質少ないことを知った上で、ある提案をしました。
僕が北側の公爵であるオーガスタ公爵を抑えるので、南を抑えて欲しいと。
その結果、寄せ集めの軍隊を与えられることになったのです。」
「寄せ集めの軍隊か。
どうやら、よっぽど切羽詰まっていたということか。」
クリシュナはそう呟く。
「はい、その通りです。
当時の王女派は実質3万程度の軍勢しかなかったのです。
その3万は、南の抑えに使ってもらいました。
僕は、寄せ集めの軍隊で、北に向かったのです。
そして、2万の軍勢と対峙したのです。」
ルークは紅茶を一口、口に含む。
そして、言葉を続ける。
「2万の軍勢に、5000の軍勢をぶつけるのは無謀と判断したので、
僕1人で、2万の軍勢と戦うことにしました。」
この発言に、皇帝陛下は苦笑する。
クリシュナも、何考えているんだと驚く。
「2万の軍勢は、僕が全滅しました。
ここで、ちょっと失敗したのは、壊滅にとどめることができなかったことです。
残念ながら、敵の士気を下げるのに失敗したことですね。」
ルークの言葉に、皇帝陛下が笑い出す。
「ふっふっふ、全滅が失敗とはな。
笑わせてくれるではないか。」
普通に考えれば、全滅ほど凄まじいものはないのだが、目的はあくまで敵の士気を下げる事だったのだ。
それに失敗したと語ったことが、皇帝陛下には面白かったのだ。
「2万の軍勢を全滅した後、オーガスタ公爵の支配する都市ルーメットを
攻略して、公爵を捕らえました。
これにより、北の貴族たちは、王女派へと寝返りました。
次に、南の公爵であるフェブリゾ公爵を攻略しました。
ただ、今回も、軍勢に差がありました。
王女派は2万に対して、公爵派は3万の軍勢だったのです。
1万の差があったので、僕は、魔法“軍団魔法”を使って
対処することにしました。
“軍団魔法”に複合化した魔法を含めて使用したところ、
3万の軍勢が壊滅したのです。
ただし、こちらの損害はゼロでした。」
「ゼロだと!?
そんなバカなことがあるのか?」
「ふっふっふ、やりおるわい。」
焦るクリシュナと、笑う皇帝陛下。
レヴィも、焦った表情を浮かべていた。
「実は、“軍団魔法”に複合化した魔法を含めた結果、
威力があまりにも大きくなることが、今回実証されました。
少しやり過ぎた感もありましたが、こちらの軍勢を
無傷で済ませることができたので、いい検証だったと思います。
あとで、魔法の複合化について説明しますね。」
「それは、君にしかできないことだろう。
まったく君は、たいしたものだ。」
クリシュナは呆れていた。
「では、話を戻します。
3万の軍勢を壊滅させた後、フェブリゾ公爵の領地、都市メアナードを包囲し、
侵略しました。
そこでちょっと面白いことがありました。
魔法使いが悪魔を召喚したんです。
その時、初めて召喚魔法があることを知りました。
彼らは、グレーターデーモン1体と、レッサーデーモン2体を召喚しました。
残念ながら、会話はできないとのことなので、あっさり滅ぼしました。」
「悪魔はどの程度の強さだったのだ?」
クリシュナから質問が飛ぶ。
「そうですね、我が国の騎士で比較すると、近衛騎士と同等くらいでしょうか。」
「それほど強いのか、脅威だな。」
「そうですね。
弱点としては、召喚者を倒すことですね。
ただ、悪魔が邪魔をするので、悪魔を倒すのが先決ですが。」
「それをあっさり倒す君は、一体何者なんだか。」
クリシュナは更に呆れる。
「話を戻しましょう。
悪魔を滅ぼした後、フェブリゾ公爵は捕らえ、王都に護送しました。
こうして、南の貴族たちもまた、王女派へと切り替えることに成功しました。
最後は、西のラーグゼア公爵のみとなりました。
ところが、この公爵、とんでもないことに、隣国ドステメリカ皇国を
焚き付けて、軍を動かすことに成功していたのです。
その数は、約8万です。」
「8万だと!?」
これには、全員びっくりする。
あまりの大軍だったからだ。
「思い切ったことをするものだな。」
皇帝陛下がそんなことを呟く。
「ラーグゼア公爵はドステメリカ皇国の軍のことを隠し、
我々に降伏することを告げてきました。
ですが、実際は、僕の首を狙っていたこと、その首を持ってドステメリカ皇国に
逃亡することを画策していたのです。
僕の首を獲るため、僕をおびき寄せたのですが、僕は返り討ちにしました。
これにより、ラーグゼア公爵を捕らえることに成功しました。
ただ、8万の軍勢は止まりませんでした。
そこで、僕1人で罠を張り、8万の軍勢と立ち向かうことにしました。」
ルークは一息ついた後、言葉を続ける。
「8万の軍勢はあまりにも多いため、僕は魔法の改良を行いました。
“大規模展開術式”という補助魔法があるのですが、
それを“極大規模展開術式”へと改良したのです。
単純に、魔法範囲を拡大させたにすぎませんが、これが役に立ったのです。
8万の軍勢は、僕の罠にはまり、僕は土系統の究極の魔法である
“地裂波動撃”を使ったのです。
途端、8万の軍勢は壊滅し、生き残りは1000名程度となりました。」
「やり過ぎだ、馬鹿者。」
皇帝陛下はそう言って大笑いする。
クリシュナとレヴィはあまりのことに、開いた口が塞がらなかった。
記録係もあまりのことに、驚き固まっていた。
「1000名の兵士にちょっと脅しをかけて返しました。
当面、ドステメリカ皇国は、ラインクルド王国に
仕掛けることはないでしょう。」
「・・・なんて言ったんだ?」
クリシュナは一応聞いてみることにした。
「単純なことですよ。
『ルーニア皇国最強の魔法騎士がいる限り、ラインクルド王国を
攻め滅ぼすことはできぬとな。』と告げました。」
その言葉に、クリシュナは頭を抱え、皇帝陛下は笑い出す。
レヴィも笑っていた。
「君は格好つけすぎだ。」
「そうですか?」
「そうなんだよ。」
クリシュナは苦笑していた。
「だが、よくやった。
これで、ドステメリカ皇国は、ルークの存在を知ったであろうな。
そして、ルークがいる限り、ラインクルド王国には
一切手出ししないであろうよ。」
皇帝陛下はそう告げていた。
皇帝陛下は愉快だった。
8万の軍勢を壊滅するだけでも凄いのに、相手にきっちりと脅しを忘れていなかったのだ。
これで、ドステメリカ皇国はルークという存在に、頭を抱えているに違いないのだ。
「とりあえず、話を戻しますね。
8万の軍勢が滅んだ後、僕は、王都に帰還しました。
その後、三公爵は全員絞首刑に処されました。
それからの僕の仕事は、地味でありますが、公爵派の一掃を行いました。
公爵派の貴族は全員、爵位はく奪の上、国外追放されました。
これにて、王女に反対する勢力は一掃されました。
そして、無事エリーシャ王女がラインクルド王国の女王として即位しました。
僕の仕事はそこで終わりました。」
「うむ、見事だ。
少々やりすぎなところもあったが、見事であった。」
皇帝陛下は感慨深げにそう告げる。
「ルーク、そなたのおかげで、都市メリクシアを入手することができた。
これにより、我が勢力も大きく増す。
それにだ、海に勢力を広げることもできるのだ。」
「海・・・ですか?」
「そうだ。
我らは、海外に興味を持つ時代がきたのだ。
特に、南方にいると言われる“大魔王”にな。」
「“大魔王”・・・?」
「聞いた話だが、魔王は本来、人類の敵という存在であった。
だが、“大魔王”が存在してから、その意義が逆転したという。
人類を守護する存在へと転じたらしい。
ただ、この“大魔王”と誰も交渉したことがない。」
クリシュナが知っている知識を述べる。
「ルークよ、会ってみたいと思わぬか、“大魔王”に?」
皇帝陛下の言葉に、ルークは考えた末、答えを出す。
「会ってみたいですね。
もし、暗黒魔法に関する知識があれば、教えて頂きたいです。
それに、“大魔王”が人類の敵でなければ、交渉もできるのではないかと。」
「そうであろうとも。
国内を整備した後、貴殿に“大魔王”と交渉してもらうかもしれん。
いつになるかわからぬが、覚えておくといい。」
「はい、わかりました。」
ルークは南の大陸に興味を抱いた。
“大魔王”という存在もだ。
この世界には、変わった存在もいるのだと思うのだった。
「さて、ルークの報告は終わったが、記録係よ、記録はもうよいな?」
皇帝陛下の質問に、記録係はうなずく。
「うむ、では、ルークの活躍は書籍として残すこととする。
さて、ルークよ、夕食を共にせよ。
アリシアのことも聞きたいしな。」
皇帝陛下の言葉に、ルークは了承した。
「了解しました。
では、御一緒させて頂きます。」
こうして、ルークは皇帝陛下、クリシュナ、レヴィと共に夕食会を共にするのであった。
その後、自領である都市ルクサスメリルへと戻るのであった。
こうして、ラインクルド王国の一件は解決を見たのであった。