30-2 最後の抱擁。
それから、二週間ほど経過した。
女王就任式は来週に迫っていた。
ルークは、館でのんびり過ごしていた。
特にやることもない。
王都周辺の情報収集のみ、絶やさないようにしていたが。
そんな時だった。
「ルークよ、聞こえるか?」
「はい、なんでしょうか、エリーシャ様?」
“思念連結”にて、エリーシャより連絡が来たのだ。
「頼みがある。
王城に来てくれぬか?」
なんか、いつもと声が違う。
何か、覚悟を決めたような声だった。
「わかりました。
今すぐ伺います。」
「うむ、頼むぞ。」
ここで、“思念連結”は切られる。
何かあったのだろうか?
不都合があれば、すぐに対処するつもりだ。
ルークは館を出ると、“瞬間移動”にて、王城へと飛ぶのだった。
王城に到着すると、すぐに受付へと行く。
するとすんなりと通され、王女の執務室へと案内されたのだ。
いつもは応接室なのに、珍しい事であった。
執務室の前には、近衛騎士が控えていた。
オスティアとメリッサではなかった。
ルークは軽く会釈すると、近衛騎士たちも会釈を返してくれる。
すると、執事が控えていたのだ。
「ルーク殿ですね?
お待ちしておりました。
どうぞ中へ。」
執事は、ドアを開けてくれたのだ。
ルークは、執務室へと入るのだった。
執務室には、エリーシャ一人だった。
ルークは敬礼する。
「エリーシャ様、近衛騎士ルークが参りました。」
ルークはそう告げると、エリーシャはこくりとうなずき、ソファへと案内される。
ルークはエリーシャが座るのを確認したところで、対面に座ろうとしたのだが、エリーシャが注意してきたのだ。
「隣に座るのだ。」
「えっ?
よろしいのですか?」
「いいから!」
ルークはそう言われ、エリーシャの右隣に座る。
通常、伴侶や家族でない限り、王女の隣に座ることは許されないことなのだが。
「さて、エリーシャ様、どういったご用件なんでしょうか?」
ルークがエリーシャに話かけた瞬間、エリーシャが抱き着いてきたのだ。
「あの、エリーシャ様・・・?」
突然のことに、ルークは驚いていた。
エリーシャは抱き着いたまま、顔だけ上げて、ルークに問う。
「ルークよ、頼みがある。
この国に、残ってはくれぬか?
私の隣にいてほしいのだ!!」
その問いに、ルークは首を横に振る。
「それはできません。
僕は、ルーニア皇国の人間であり、公爵位を預かる身です。
皇帝陛下を裏切るわけにもいきません。
それに、僕には家族がいます。
家族が帰りを待っているんですよ。
だから、帰らないといけません。」
ルークが、そう告げると、エリーシャは「そうか。」と呟く。
エリーシャにも、何となく無駄であることはわかっていたのかもしれない。
だが、彼女はルークに残ってもらいたかったのだ。
例え、自分の夫になってもらってでも。
だが、家族がいると聞いた時点で、エリーシャは諦めた。
「・・・わかった。
そなたに無理強いをさせるわけにもいくまい。
そなたは恩人なのだ。
その恩人を苦しめるような真似はできぬな。
だが、一つだけ頼みたい。
しばらく、抱きしめてくれぬか?」
「わかりました。」
ルークは、エリーシャを抱きしめる。
エリーシャは顔をルークの胸にうずめ、抱き締められるのだった。
エリーシャの淡い恋は終わりを告げるのだった。