29-6 “ルーニア皇国最強の騎士”
翌日。
ルークは8万の軍勢の位置を確認する。
だいぶ近づいていた。
あと、3日ほどで領内に到着する見込みだった。
その前にやるべきことがある。
まずは、事前準備だった。
ルークは、都市ユウヘイアを出ていくと、“飛翔”にて、魔法を使うポイントへと移動する。
そして、魔法の改良を行う。
その魔法とは、“大規模展開術式”だった。
この魔法は補助的なものに過ぎないが、範囲指定することで威力を強化する力がある。
ただし、呪文との相性が問題だった。
だが、今回使う魔法とは相性がいいのだ。
よって、この魔法に、手を加える。
簡単に言うと、範囲を大幅に拡大するのだ。
大規模から極大規模へと変貌させるのである。
それにより、8万の軍勢を、範囲内に収めるのだ。
それと、この“極大規模展開術式”を使えば、範囲の狭い魔法でも、指定した範囲全てに適用可能なのである。
ある意味、利点が大きいのだ。
ただし、“大規模展開術式”と同様、魔法の相性の問題は残るので、注意が必要だ。
ルークは、範囲の程度を実際に使って確認する。
かなり広い範囲が指定できることがわかった。
これならば、8万人規模でも、大丈夫だろう。
ルークは、敵が来るのを待つのみとなったのだった。
3日後、昼。
ルークは、“飛翔”の魔法にて、上空にいた。
敵の軍勢が見え始めたのだ。
きっちり整列した軍勢がまっすぐにこちらに向かっていたのだ。
ルークは、ポイントに入るまで、何もせず、上空から敵を監視していた。
敵軍はルークの存在に気付くことなく、まっすぐ歩く。
そろそろ、ポイントに入る頃だ。
問題は、範囲内に8万の軍勢が入ることだ。
その時点で、魔法を解放する。
魔法の準備は既にできていた。
あとは、範囲内に全軍入ればいいだけだったのだ。
だが、時間がかかりそうだ。
ルークは焦らず、ひたすら待つことにした。
数分後、軍隊の一部がポイントに入った。
ルークは地上に降り立つ。
その時、敵軍はルークの姿に気が付いたようだが、突撃する素振りはない。
あくまでも同じ速度で歩くのみである。
それから、20分ほど経過しただろうか、ほぼ全軍が範囲内に入り込んだのだ。
ルークの目の前には、停止した敵軍の姿が見えた。
ルークとある程度距離を置いて、止まっていた。
敵軍はたった1人のルークを見て、警戒していたのだ。
罠がある可能性も考慮しているのかもしれない。
だが、ルークはほくそ笑むのみである。
敵が、罠にかかったことに気づいていないのだから。
ルークは静かに、地に手をつける。
そして、呪文を解放したのだ!
「“極大規模展開術式・地裂波動撃”!!!」
瞬間、大地に魔法陣が出現し、その範囲内で巨大な地震が発生したのだ!
途端、地が割れ、兵士たちを飲み込む!
または、溶岩が噴出し、兵士たちを焼き尽くす!
地割れと地割れに挟まれ圧死する者現れた。
こうして、範囲内にいた兵士たちは、一瞬にして地に飲み込まれて殺害されたのだ。
生き残った兵士はごくわずかだった。
生き残った者達は、目の前で起きた出来事に、目を見開くしかなかったのだ。
ルークは生き残りの数を確認する。
1000名程度だった。
ルークは“飛翔”を使い、1000名の兵士の前に降り立つ。
兵士たちは慌てて武器を構えるも、足がすくんでいた。
目の前で恐ろしいものを見たのだから、当然であった。
そして、ルークは口を開き叫ぶのだ。
「ドステメリカ皇国の皇帝に伝えよ。
ルーニア皇国最強の魔法騎士がいる限り、
ラインクルド王国を攻め滅ぼすことはできぬとな。」
ルークはそう言い捨てると、“飛翔”を使って去っていくのだった。
都市ユウヘイアで、ルークの様子を探っていたメリッサは、戦慄していた。
8万の軍勢があっという間に消えたのだ。
それもたった一つの魔法で。
その時、地震が発生する。
多少揺れたものの、大きな揺れではなかった。
敵軍勢の生き残りの数は、約1000名程度だった。
1000名は慌てて、引き返し始めた。
目の前で起きた出来事を本国に知らせるためだろう。
それに、たった1000名で戦争はできないのだ。
勝った。
ルークはやってのけたのだ。
メリッサは、大きく息をつくのだった。
そして、事の次第を、騎士団長に伝えることにしたのだった。
こうして、8万の軍勢は、ルークによって壊滅した。
これにより、ドステメリカ皇国による侵略は失敗に終わったのだった。