29-1 突然の降伏。②
二人は、オスティア回収後、王城を目指す。
王城に到着すると、受付でエリーシャに取り次いでもらう。
すると、すんなりと通され、応接室へと向かうことになった。
応接室へ入ると、誰もいなかった。
「おや、珍しいですね、エリーシャ様がいないなんて・・・?」
オスティアがそんなことを言い出した。
「確かに、珍しい。
いつもは先に来ていらっしゃったのに・・・」
メリッサも同様の発言を行う。
そういえば、ルークもそうかもしれないと思った。
いつも、エリーシャが待っていたような気がしたのだ。
その時、ドアが開き、エリーシャが入ってきた。
顔色が悪い。
どうかしたのか?
「・・・すまぬ、遅れた。」
エリーシャはよろよろしながら、ソファに座る。
ルーク達は、あまりのエリーシャの姿に心配になる。
「エリーシャ様、大丈夫ですか?」
「・・・うーん、大丈夫だ。」
大丈夫ではなさそうだ。
体に異常はなさそうだが、疲れが原因だろうか?
魔法を使ってみようか、一度も使ったことないものだけど。
「エリーシャ様、動かないでくださいね。
“疲労回復”!!!」
ルークは、神聖魔法の一つである疲労を回復する魔法をかけていた。
すると、エリーシャが元気を取り戻したのだ。
「うん?
なんか、元気になってきたぞ!」
「エリーシャ様、この魔法は疲労を緩和する魔法です。
疲労を完全回復するわけではないので、注意してくださいね。
それと、ちゃんと休んでくださいよ。」
ルークに注意され、エリーシャはバツが悪そうな顔をする。
「うむ、済まぬ。
体調には気を使っておったのだがな、少し無理をしてしまったようだ。
ところで、本日の話とはなんだ?」
エリーシャは話を本題に戻す。
「メリッサ殿、報告を頼みます。」
ルークの言葉に、メリッサはうなずく。
「隣国、ドステメリカ皇国についてです。
かの国の王都ドステメリカにて、大軍勢が確認できました。
数は、およそ8万。
大軍です。」
「ちょっ!!?」
メリッサの言葉に、オスティアは驚き、固まる。
エリーシャも、目を見開いていた。
「8万だと・・・!!?」
「もし、こちらに攻め込んできた場合、
我らに太刀打ちできるだけの力はないと思います。
ラインクルド王国全土の軍勢で対抗しなければ、勝てません。
ですが、西の公爵がもし、かの国の軍勢に加われば、我らは終わります。」
完全に絶望的な状況だった。
だが、ルークはここで発言する。
「対策案はあります。
ですが、あまり効率的なことではありませんし、僕にしかできないことです。
簡単に説明しますが、よろしいでしょうか?」
ルークは皆がショックを受けているのをわかった上で、確認をとる。
聞く体制ができていなければ、聞き逃す可能性が高いからだ。
ここで、希望はまだあることを認識してもらわなければならない。
「うむ、わかった。
説明を聞かせてくれ。」
エリーシャは聞く体制ができたようだ。
オスティアはうなずいていた。
メリッサは、既に覚悟ができていた。
「僕が、大魔道士の称号を持っていることはご存知ですね、エリーシャ様?」
「あぁ、知っておる。」
「オスティア殿とメリッサ殿は知らないかもしれませんが、
僕は全系統の魔法を使いこなせます。
それだけではありません。
僕は、究極を含めた魔法を行使できる実力があるんです。
この意味はわかりますか?」
オスティアは首をかしげる。
メリッサもいまいちわかっていないようだ。
そこで、ルークは更に言葉を付け足すことにする。
「つまりです。
僕は、四系統の魔法を全て行使することが可能なんです。
君たちが使えない、上級魔法も全て使えるという意味ですよ。」
「ちょっ、待った!?
全系統って、四系統全てという意味だったのか!?
で、上級魔法全てってことは・・・」
オスティアは、やっと理解したようだ。
「史上、存在しない四系統を極めた魔導士・・・ですか?」
メリッサは、答えにたどり着いていた。
「どうやら理解されたようですね。」
ルークはにこりと笑みを浮かべる。
「ちょい待て!
じゃ、ルーク殿は、四系統を全て使いこなす上、上級魔法も使いこなす、
史上初の魔導士・・・なのか?」
オスティアも答えにたどり着いたようだ。
オスティアも、メリッサも、額に汗を浮かべていた。
そんな存在が実在するなど、ありえないからだ。
エリーシャも、ルークが大魔道士であると知って、初めて理解したのだ。
史上初の、四系統を極めた魔導士の存在を。
「今、理解しました。
多彩な魔法を使いこなす方だと思っていましたが、まさか、
大魔道士だったなんて。
しかも、四系統を極めた方だったとは・・・」
メリッサは驚いていた。
「さて、理解して頂けたので、話を戻しましょう。
僕は、上級魔法を全て使いこなせます。
それこそ、究極レベルの魔法もです。
もし、8万の軍勢が攻め寄せた場合、究極の魔法で壊滅を行う予定です。
それも、特殊な方法で行いますが。」
「特殊な方法?」
エリーシャの疑問に、ルークは答える。
「はい、例えば、範囲を指定し、敵をその範囲内に集めることとかですかね。
範囲そのものは結界が張ってあるものと考えてください。
その中に敵をおびき寄せ、壊滅する方法があります。
まだ、検討中の段階ですが、可能でしょう。」
「なるほど、それであれば、敵を逃すことなく、
壊滅できると同義なのですよね?」
メリッサの言葉に、ルークはうなずく。
「はい、その通りです。
もし、生き残った場合は、本当に運が良いか、
究極に対抗できる防御魔法を使った時のみとなります。」
つまり、回避する手段はほとんどないに等しいのだ。
「じゃ、逃げる事すら不可能ってことか。
えげつないな。」
オスティアはわかった上で、そう呟く。
「説明は以上になります。
ただし、この作戦は僕のみにしかできません。
よって、僕に任せてくださいませんか、エリーシャ様?」
ルークの言葉に、エリーシャは考えることなく、即決する。
「わかった、ルークに任せる。
頼むぞ、この国のために。」
「承知しました。
お任せください。」
ルークは一礼する。
これで、8万の軍勢への対策は整った。
後は、西の公爵の動き次第となったのだが、その時だった。
応接室のドアがノックされ、執事と思われる男性が入ってきたのだ。
「エリーシャ様、このような物が届いたと大臣より預かって参りました。
急ぎご報告せよとのことでしたので、今お持ちしました。」
エリーシャは、執事の男性から手紙を受け取る。
早速中身を確認し、エリーシャは驚きの表情を浮かべる。
そして、ルークを見たのだ。
「ラーグゼア公爵が、降伏を申し出たそうだ!」
「なんと!?」
唐突な報告に、ルークも驚くほかなかった。
ルークはエリーシャより手紙を受け取り、内容を確認する。
手紙の送り主は、ラーグゼア公爵本人だった。
確かに、降伏を申し出たいという内容が書いてある。
だが、次の文章が気になった。
「つきまして、エリーシャ様より使者を送って頂きたい。
できれば、エリーシャ様に近しい方を頼みたい。
例えば、近衛騎士とか・・・
なんだか、我らを指していますね。」
ルークの持つ手紙を今度は、メリッサが手にして読む。
「降伏の使者を送ってもらうことにより、正式に降伏を受け入れる所存・・・
また、重大な報告も併せて行う予定である・・・と。
もしや、隣国のことについても、話すつもりなのでしょうか?」
手紙から判断できる内容として、エリーシャに近い人間を使者として送ること。
そして、重大な報告を行う準備があるとのこと。
この二点が重要だった。
エリーシャに近い人間ということは、近衛騎士が最も近いといっても誤りではない。
特に、ルーク、オスティア、メリッサの三人が今、最も近いといっても過言ではない。
そして、重大な報告とはおそらく、隣国の件に相違ない。
8万の軍勢が動き出すことを示唆しているかのようだ。
「・・・罠の可能性はないか?」
オスティアが手紙を見て、そんなことを言い出した。
「確かに、その可能性はあるわね。
何故、使者をよこせと言っているのか、意味がわからないわね。
それに、重要な報告ならば、エリーシャ様に告げればいいだけよ。
それをここで告げようとしないということは、何かあるわね。」
メリッサも、疑っているようだ。
エリーシャも疑っているようだった。
だが、ルークはすぐに決断していた。
「罠の可能性がありますが、ここは乗ってみましょう。
僕、オスティア殿、メリッサ殿の三人が使者として向かいます。
エリーシャ様、いかがでしょうか?」
「・・・よいのか?」
エリーシャには迷いがあった。
もし、罠であれば、この三人が殺される可能性があるからだ。
「ま、俺は行きますぜ。
罠でもなんでも、ルーク殿がいれば、なんとかなりそうだし。」
オスティアはそんなこと言って笑って見せる。
「私もついていきます。
ルーク様ならば、罠すらも逆転劇に変えてしまいそうですから。」
メリッサも同様のようだ。
「ということで、二人は賛成のようです。
僕も罠であったとしても、何とかして見せますので、安心してください。」
ルークはそう言って、にこりと笑みを浮かべる。
「わかった。
そなたたちに任せる。
使者の件、頼んだぞ。」
「「「はっ!!」」」
三人は揃って敬礼するのだった。




