17-4 待機。
ルークは屋敷を離れると、市に向かう。
その途中、レヴィより“思念連結”にて連絡が入ったのだ。
「ルーク様、今よろしいでしょうか?」
「レヴィさん、大丈夫ですよ。」
「内偵の全員と連絡がとれました。
現状、犯人の足取りはつかめていません。
犯人も、こちらが調査に赴いていることを察知している可能性があります。
安易に動かない可能性があります。
しばらく、時間がかかる可能性があります。」
「しばらく、この都市で滞在する必要がある、ということですね?」
「はい、そうなるかと。」
これは、長丁場になるかもしれない。
戦争のことも気になるが、こちらも解決させたいところだ。
「公爵の動きはどうでしょうか?」
「今のところ、不穏な動きはないということです。」
「そうですか。
じゃ、僕はしばらく都市内を歩き回りつつ、調査を続けますね。」
「お願いします。
では、また何かあれば、連絡しますね。」
レヴィとの“思念連結”が終了し、ルークは“思考読破”を使用する。
“思考読破”は、他者の考えや記憶を読み取ることができるものの、人が多い場所では、処理に時間がかかる。
これは、致し方ない事だ。
だが、「創造系魔法」で、情報収集能力の向上ができないか、試してみることにした。
祈る。
そして、何かが発動するのを感じた。
途端、人々の思考情報が整理されていたのだ。
見ただけで、この人は何を考えているのか、そして記憶情報が整理された状態で表示されたのだ。
いわば、概要と言うべき情報が、ポップアップして表示されていると思ってもらえるとわかりやすい。
それが、人々の頭の上に、表示されている。
しかも、すぐに表示されるのだ。
どうやら、思考の処理能力が向上したようだ。
それだけではなく、処理した情報を整理した状態で表示されるようになったのだ。
二つの能力を獲得したようだ。
ルークは整理された情報をすべてチェックしていく。
だが、怪しい人物は見当たらなかった。
どうやら、この周囲にはいないようだ。
影に潜んでいる可能性が高いようだ。
無駄かもしれないが、とりあえず、ルークはこの方法で犯人の手がかりを得るべく、街中を歩くことにした。
レイド=フェイブレイン公爵はイラついていた。
このところ、人を殺していないからだ。
彼の趣味は、人殺しだった。
「人さらい」と呼ばれる集団に人を誘拐させ、その人間を殺すのが趣味なのだ。
ただ、殺すだけだ。
そう、全くいたぶるつもりはなかった。
残虐に殺すのみだった。
命が奪われるのを、とくと眺めるのが好きなのだ。
動かなくなるまで見続けるのが好きなのだ。
ところが最近、誰かに見張られていることに感づいていた。
おそらく皇帝陛下の手によるものだろう。
そのため、最近は、人さらいは行っていなかったのだ。
だが、それも限界に近づいて来ていた。
安易に、メイドや執事を殺すわけにはいかない。
以前、メイドを斬ったことがあった。
重傷に陥ったが、死ななかった。
全く惜しいことしたものだ。
だが、その結果、公爵家の評判は悪くなった。
恐らく、他貴族にとっても、公爵家の評判は良くないだろう。
そんなことまで気にしなくてはならないのだ。
とても面倒だった。
下手に皇帝陛下の目につくようなことになれば、公爵家の取り潰しになりかねない。
だから、安易に動くことを控えたのだ。
だが、それも限界だった。
公爵は、誰かと“思念連結”を行うと、何か指令を行う。
そして、ニヤリと太い笑みを浮かべる。
どうやら、人さらいを命じたようだ。
我慢の限界を超えたようだ。
もはや我慢できなかったのだ。
彼は、また殺人ができる喜びをかみしめるのだった。
一週間が経過した。
ルークは、街中のあらゆる場所へ行き、人間観察を行っていた。
だが、残念ながら怪しい人物に出会うことはなかった。
夜は、宿屋の中から、“情報収集”で街中を観察していた。
だが、何も起きない。
どうやら、犯人も慎重になっているようだ。
犯人が手を出さない限り、こちらも動けないのだ。
本来なら、焦れてくるころなのだが、ルークは一切焦っていなかった。
長丁場になるのは承知の上だったからだ。
だが、その結果、ルークに転機が訪れる。
犯人が動き出したのだ。