16-7 命の大切さ。
ルークが講堂に戻ってくると、皆、静かになった。
ニコラウスも慌てて、講堂に戻ってきていた。
ルークは全員を見返すと、言葉を紡ぐ。
「君たちは、恥ずかしくないのか?
人を救う力を持っていながら、何も行動しないとは、何事だ!!」
その言葉に、皆が無言となる。
というより、怒られていることに気が付いたのだ。
「今、傷ついた親子が運ばれてきた。
そして、受付の方が急いで知らせにきた。
だが、誰も動かなかった。
何故だ?」
皆、何も言えずにいた。
少しづつ、彼らの中に、罪悪感が影を差し始める。
「君たちはなぜ、司祭や司祭候補になったんだ?
ただ偉くなりたいためなのか?
どうなんだ、答えろ!!」
皆、萎縮してしまった。
ルークは怒っていた。
もし、ここで、ルークが剣を手に取れば、間違いなく制裁されることだろう。
ルークには、その権限があるのだ。
斬られても、文句が言えないのだ。
だが、ルークは剣を手にすることはなかった。
あくまで、言葉で訴えていた。
「君たちには、命を救う力がある。
その力をいつ使うつもりだ?
いつでも使えるからこそ、ここにいるのではないか?」
ルークの言葉は続く。
「君たちには、命の大切さがわからないのか?
例えば、自分の親や兄弟のことでもいい。
死にかけていたり、怪我をした者たちを、君たちは見捨てるのか?
誰かに助けを請うのか?
君たちは自ら立ち上がるつもりがないのか?」
言葉は更に続く。
「僕には、君たちのように、人を救う使命は一切無い。
そんな僕に、人の命を助けられて、恥ずかしいと思わないのか?
先に救われて、恥ずかしくないのか?」
ルークは一息つく。
「僕は、皇帝陛下直属の騎士だ。
いわば、命を奪う側だ。
君たちとは真逆の存在と言ってもいい。
君たちは命を救うことに誇りを持つべきだ。
そんな君たちが命を救わなくて、どうする?
君たち以外に、救える存在はいないんだぞ?」
そのルークの問いに、皆、黙って聞くしかなかった。
ニコラウスも、理解していた。
ルークは、命の大切さを説いているのだと。
「もし、他者の命を救う気がないなら、この教会から去れ!
今すぐにだ!
この教会に残るのならば、他者であれ命を助けるんだ。
それが君たちの役目だ、違うか?」
ルークは強く注意していた。
これでわからないようなら、見捨てるしかないのだ。
だが、誰も席を立たなかった。
ニコラウスは少しだけ、ほっとした。
誰も、ルークの言葉を理解していないわけではないのだ。
理解した上で、己の不甲斐なさを感じていると思ったのだ。
だからこそ、ニコラウスは発言するのだった。
「皆の者よ、ルーク様の言う言葉の意味が分かったかね?
我らは、人命を救うために存在しているのだ。
決して、権力や権勢のためではない。
私たちは、弱き者を救うために存在している。
その者たちを守ることも我らの仕事だ。
だから、皆の者よ、ルーク様の言葉をしかと心にとどめておきなさい。
ルーク様の言葉は、正しいのです。」
ニコラウスはそれだけ言うと、ルークを連れて、講堂を去るのだった。