2-7 騎士団の訓練場へ。
翌日。
ルークは、この街に騎士団があることを思い出していた。
騎士団の訓練場があり、誰でも覗くことができるのだ。
ただ、街外れにある。
ちょっと覗いてみてから、村に帰ってもいいかもしれないと思い始めていた。
宿屋を出た後、食事を済ませてから、訓練場に足を運んでみた。
訓練場はだだっ広い場所だった。
そこで、騎士候補生や騎士たちが訓練を行っていた。
クーラク騎士団はこの国では、そこそこ有名な騎士団だ。
皇帝の信任も厚く、色んな戦争で活躍している騎士団である。
だから、その訓練を覗いている人も、ちらほらといた。
ルークは、訓練を受けている騎士の動きに注目していた。
まだ、足下がおぼつかない騎士もいたり、剣術がおろそかな騎士もいた。
訓練生なのかもしれないが、皆同じ格好だったので、判別しずらい。
誰を見るべきかなと、品定めしていた時だった。
「おい、貴様!」
そこで、はっとして振り向く。
そこには、一人の騎士が立っていた。
まだ若い、明らかに強そうな騎士だ。
「は、はい?
僕ですか?」
ルークは念のため確認してみる。
「あぁ、貴様だ。
剣を佩いているようだが、剣士か冒険者なのか?」
突然の質問に、ルークは正確に回答する。
「いえ、剣士でも冒険者でもありません。
これは、自分を護衛するために持ってきただけです。」
「そうか・・・
にしても、動きに無駄が少ないな。
ちょっといいか?」
騎士はそういうと、唐突にルークの全身を触ってチェックし始めたのだ。
「な、何ですか!?」
ルークは驚きつつも、されるがままだった。
拒否しなかったのは、いやらしい手つきで触られたわけではなかったからだ。
腕、腹部、足を軽く触ってきただけなのだ。
そして、騎士は、ふむとうなずく。
「貴様、いい体をしているな。
いや、相当鍛えた体をしているな。
それで冒険者でもないというのか?
ちょっと来い!」
突然、手を引かれ、ルークは逆らうことなく、ついていくことになった。
「おい、新米。
コイツと勝負してみろ。」
唐突に声をかけられた騎士訓練生は、びっくりとした表情を浮かべた。
「カシス副隊長、自分でありますか?」
「あぁ、おまえだ。
それと木刀を一本貸してくれ。」
別の騎士訓練生は、木刀をカシスと呼ばれた騎士に渡す。
「コイツを使え。
あと、荷物と剣はそこに置いておけ。」
そう言って、木刀をルークに渡す。
「あの、勝負って・・・」
「コイツと勝負しろと言っている。」
「はぁ・・・」
ルークに断る権利はなさそうだ。
荷物と剣を置くと、木刀を構える。
訓練生のほうもやる気のようだ。
木刀を構えるのが確認できた。
「では、はじめ!」
唐突に始まった模擬試合に、ルークは当初困っていた。
しょうがない、きっちりやってみようか。
ルークは腹を決めると、相手を見やる。
相手の訓練生は、こちらに向かってくるや、上段に構え、木刀を振るってきたのだ!
ルークは、すぐさま動いた。
自身の木刀の腹で、相手の木刀を横に弾くと、そのまま相手の喉元に切っ先を突き付けたのだ!
「一本、そこまで!」
ルークの勝利だった。
ルークは最小限の動きで、相手を打ち負かしたのだ。
この行動が余計な事態を招く。
負けた訓練生は、ぽかんとしていた。
あまりにもあっさり負けたのだ。
こうなるのも仕方なかった。
その訓練生の木刀が、カシスによって奪われる。
カシスは、腰に佩いた剣を置くと、木刀を構える。
「よし、次は俺と勝負だ、少年!」
「えっ!?」
突然のことに、ルークは固まる。
終わりじゃないの!?という表情になっていた。
だが、終わってくれなかった。
カシスが、木刀を構え、かかってきたのだ!
ルークも慌てて木刀を構え直す。
そして、勝負が開始されるのだった。
勝負は白熱していた。
訓練を行っていた騎士や騎士候補生も訓練を中断し、見入っているくらいなのだ。
また、野次馬もいつの間にか増えていた。
今や、ルークとカシスの勝負にて、どちらかが勝つのか、それだけが注目されていたのだ。
ルークは最初、防戦一方だった。
カシスの動きがとにかく早いのだ。
それでもって、色んなところから木刀が飛んでくるのだ。
回避及び、弾くで防ぎ切りつつ、相手の動きを「学習」していく。
そして、対策を講じていったのである。
また、相手の動きは、「集中力の強化」にて、すぐさま理解していった。
ある程度打ち合いが続くと、動きが読めてきたのだ。
そして、ルークは反撃に移る!
カシスが使ってきた技を、逆に使って見せたのだ。
これには、カシスが焦ったのだ。
カシスもまた、ルーク同様に、回避や弾くを駆使し、負けないように頑張っていた。
互いに手の内が知れたところで、勝負がつきそうになかった。
それに、二人とも疲れ切っていた。
両者ともに、肩で息をしていたのだ。
もし、真剣同士の戦いであれば、双方が潰れていたかもしれない。
これが真剣同士の勝負でなくてよかったかもしれない。
やがて、この勝負を聞きつけたのであろう、一人の大男が姿を見せる。
「あいつら、すげーな。
だが、そろそろ、バテるだろう。」
大男は二人に向かって歩き出すのだった。