16-4 大司教の依頼。②
ルークとレヴィはまっすぐに大教会を目指す。
大教会は、この王都でもかなり大きい建物だ。
基本、目立つため、待ち合わせ場所には最適だった。
やがて、大教会の前に到着した。
「到着しました、では、中に入ります。」
レヴィがそう告げると、大教会の中へ入る。
一度入ったことがあるが、相変わらず広い場所だ。
その時、受付の女性がやって来たのだ。
無論、緊張しているのだろう、一礼してきたのだ。
「あ、あの、教会にどのような用件なのでしょうか?」
どうやら、近衛師団の制服は、彼らにとって畏怖の対象のようだ。
「私は、近衛師団のレヴィと申します。
本日は、大司教ニコラウス様にお会いすべく、
魔法騎士ルーク様をお連れしました。
お手数ですが、大司教様に手続き願いたいのですが。」
「はい、伺っております。
では、案内役を呼んでまいります。」
そう言って、受付担当者は、慌てて姿を消した。
「・・・なんだか、怖がられているんですかね?」
ルークがそれとなく、レヴィに質問する。
「そうですね、私たち近衛騎士が滅多に訪れる場所ではありませんからね。
怖がられても仕方ありませんね。」
レヴィは苦笑していた。
待つことしばし。
受付担当者が、案内役の担当者を連れて戻ってきた。
「では、ルーク様、ご案内致します。」
案内役も慌てているようだ。
「レヴィさん、ありがとうございます。」
「いえ、この程度のこと。
では、ルーク様、ごきげんよう。」
レヴィはルークを見送るのだった。
ルークは案内役に従い、三階まで階段で昇る。
三階もかなり広い面積があった。
一応、三階が最上階のようだ。
案内役は、両開きの大きな扉の前で止まる。
そして、ノックし、片側の扉を開き、中に入る。
「大司教様、魔法騎士ルーク様をお連れしました。」
「ご苦労様です。
さ、ルーク様、おかけください。」
ルークが執務室に入った際、執務中の大司教ニコラウスが立ち上がり、挨拶してきたのだ。
人のよさそうな印象のある方である。
「では、失礼します。」
ルークは勧められたソファに座る。
その対面に、ニコラウスが座る。
案内役は、ドアを閉めて退出していた。
「初めまして、魔法騎士ルーク様。
私は大司教ニコラウスと申します。
よろしくお願い致します。」
「はい、ルークと申します。
こちらこそよろしくお願いします。」
こうして、2人は対談することになるのだった。
「さて、ルーク様、あなたにお聞きしたことがあり、今回お呼びしました。」
ニコラウスはそう告げると、ルークをまっすぐに見る。
「何でしょうか?」
「陛下暗殺事件の件です。」
なるほど。
やはり蘇生魔法の件のようだ。
「あの時、ルーク様は皇帝陛下を復活させるために、
蘇生魔法を使ったと伺っております。
事実でしょうか?」
ニコラウスの視線が厳しくなったように見えた。
「事実です。
陛下はあの時、暗殺者の剣で心臓を貫かれ、即死状態でした。
残念ながら、回復魔法での復帰は困難と判断しました。
よって、蘇生魔法により、復活させたのです。」
「なるほど、やはり事実だったのですか・・・」
ニコラウスは情報を吟味しているのか、考え込む。
そして、再び質問を行う。
「では、蘇生魔法について質問です。
ルーク様は、どのような形で、蘇生魔法を覚えたのでしょうか?」
「はい、実は王都の本屋に、神聖魔法の司祭が学ぶ教本がありまして、
それを買い取りました。
そして、自宅で勉強しただけです。
回復魔法と攻撃魔法の一部しか実践確認できませんでしたが、
その時、蘇生魔法も学んでおります。」
「なるほど、司祭級の教本のみで、蘇生魔法を覚えたのですな。
普通、教本のみで理解することは難しいのですが。
ルーク様はそれを難なくやってみせたわけですな。」
ニコラウスは関心しているようだ。
「魔法の理論の理解は問題ないという認識でした。
ですが、蘇生魔法はまず使う機会がありませんでした。
ですから、試すことなく本番だったものですから、少々心配だったのですが。
とりあえず、うまくいったので、安心しました。」
「そうですか。
皇帝陛下を看た司教に話を伺いましたが、
陛下は記憶の齟齬もなく正常だったと伺っております。
ルーク様の術式が完璧であったという証拠でしょう。」
ルークはそれを聞き、安心した。
あの時は、術式が完璧だという自信があった。
しかし、皇帝陛下復活後の状態確認はしていなかった。
すぐに王城へ連れられたからだ。
だから、問題なく復帰されたのか、心配だったのだ。
だが、翌日、元気な皇帝陛下の姿が見れたので、そこで問題なかったと判断したのだ。
それに、ニコラウスの言う司教の話を聞いて、問題なかったと確信に至ったのだ。
「では、更にお聞きしたいのですが、
上級に当たる例の蘇生魔法も扱えるのですか?」
例の蘇生魔法と聞いて、ルークは考える。
恐らく、“復活”よりも難しい、あの魔法しか該当が無い。
「“再誕”のことですか?
術式は完璧に覚えています。
ただ、使う機会がないので、試していませんが。」
「なるほど、やはり理解されていたのですね。
では、“至天消失波動”も、やはり?」
「“至天消失波動”は、発動を確認しております。
よって、使うことができます。」
ニコラウスはため息をつく。
「そうですか、神聖魔法、最大の攻撃魔法も会得されていたのですね。」
「・・・使いどころが難しい魔法なので、封印していますが。」
それを聞いて、ニコラウスは笑う。
「そうでしょうな。
発動までに時間がかかる魔法ですからな。
魔導士にとっては、致命的な欠陥のように映るのでしょう。
しかし、あれは光属性に近い魔法ゆえ、致し方ないのですよ。」
「なるほど。
まぁ、威力が大きい分、致し方ないかもしれませんね。」
そこで、一旦、言葉が止まる。
ニコラウスは一息つくと、言葉を紡ぐ。
「ルーク様は神聖魔法をマスターされていると判断致しました。
司祭以上、司教クラスの能力を持っていると判断されます。
本来であれば、教会に迎えたいくらいの逸材なのです。
ここまで、上位魔法を極めた者は、ごくわずかなのですから。」
どうやら勧誘したかったようだが、皇帝陛下の騎士だから諦めたようだ。
そこで、ルークは質問してみることにした。
「蘇生魔法を扱える司祭は少ないのですか?」
「えぇ、少ないです。
司祭は多くいますが、ほとんどの者が、中級魔法どまりなのです。
つまり、“回復”は扱えるが、蘇生魔法は扱えない者ばかりなのです。
我らも手を尽くしているのですが、やはり術式が難しいのか、
なかなかうまくいかないのです。
そこで、ルーク様にお願いがあります。」
「はい?」
何となく、嫌な予感がした。
「司祭候補及び、司祭に蘇生魔法について、
講座を開いてもらえないでしょうか?
我らの教え方に問題がある可能性があるかもしれません。
ですから、外部の方で、蘇生魔法を良く理解された方の助力を願いたいのです。
そこで、白羽の矢が立ったのが、ルーク様という訳です。」
最近、教官役が多くないか?
ミシェリにフェイドに、騎士団にと。
教えることが多くなってきたのは、いいことなのだろうか?
魔法騎士の役割ではないよな?
などなど、疑問が頭の中を埋めていく。
とりあえず、頭の中を整理し、検討してみる。
魔法の理論を教えるのは、別に構わない。
だが、理解してくれるかどうかは別問題だ。
どこまでうまくいくのか、それが心配だった。
「ちなみに、実践することはたぶんできないと思いますが、
魔法理論を語って聞かせるのみでいいのでしょうか?」
「はい、その程度で構いません。
我らも、実践は難しいと考えております。」
ニコラウスも、わかっているようだ。
「わかりました。
引き受けましょう。
それで、いつ行いましょうか?」
その言葉に、ニコラウスは感激していた。
「ありがとうございます。
では、本日午後に講座を開催致しましょう。
すぐに手配しますので、お待ちください。」
そう言って、ニコラウスは立ち上がり、どこかへ行ってしまった。
「大丈夫かな・・・
ちょっと心配になってきた。」
ルークはそんなことをひとりごちるのだった。