16-3 ベルガーの魔剣。
ルークが近衛師団の訓練場に到着すると、近衛騎士と騎士候補生は訓練中だった。
ベルガ―の姿はない。
ルークは訓練場に入ると、隊長らしき騎士に気付かれた。
そして、隊長らしき騎士が近づいて来て、敬礼をする。
「何か御用でしょうか、ルーク様?」
「あの、ベルガー団長はいらっしゃいますか?」
「団長でしたら、隊舎の執務室にいると思います。
ご案内致します。」
こうして、案内されることになった。
団長の執務室に到着すると、ベルガーが仕事をしていた。
「ルークではないか。
どうされた?」
今は、二人きりなので、敬称は不要だった。
「いえ、実は聞きたいことがありまして。」
「聞きたいこと?」
ルークはベルガーと対面のソファに座ると、声のトーンを下げつつ話す。
「ベルガ―さんって、魔剣と会話できますか?
というか、魔剣が言葉を発しますか?」
「はい?」
ベルガ―は困惑した表情になった。
言っている意味がわからないのだ。
「実は、僕が陛下より頂いた剣が、意思を持つ剣だったんですよ。
ということで、“思念連結”で繋ぎますんで、ちょっと待ってくださいね。」
「意思を持つ剣?
一体、どういうことですか?」
ベルガ―には、ちんぷんかんぷんであった。
ルークは説明が面倒なので、ベルガーとレーヴァテインを“思念連結”でつないだ。
『はじめまして、ベルガー殿。
私は、レーヴァテインと言います。
以後、お見知りおきを。』
「えっ!?
この声は、ルークではない!?
まさか、その剣が!?」
ベルガ―は驚きのあまり、固まりつつあった。
「はい、僕ではなく、レーヴァテインの声です。
実は、レーヴァテインと意思のやり取りができるんですよ。
そこで、他の魔剣はどうなのかと思いまして、
ベルガーさんに聞きに来たんです。」
ベルガ―は納得すると、平静を装いつつ、答える。
「な、なるほど。
いや、我が魔剣は全く意思を持っていない。
声を聴いたこともない。
何か、違いがあるのだろうか?」
ルークはここで考えてみた。
まず、魔剣そのものに、命が存在するとする。
命があるということは、もちろん、意思も存在するはずだ。
意思というものがあるのであれば、それを声に変換できるのかもしれないと。
となると、例えばベルガーの魔剣が進化でも遂げれば、会話や意思疎通ぐらいならできるようになるのではないか?
ルークはそんなことを考え始めていた。
そして、「創造系魔法」に願ってみる。
「魔剣の進化」の力を。
ルークは早速試してみようと、ベルガ―に声をかける。
「ベルガ―さん、剣を借りてもいいですか?」
「あ、ああ。」
ルークはベルガーより、魔剣スティールヴェインを借り受ける。
両掌に乗せて、祈る。
魔剣が進化すれば、意思疎通は可能になることを信じて。
すると、片言だが、何か聞こえ始めてきたのだ。
『ワタシ・・・ハ・・・スティールヴェイン・・・アナタハ?』
「僕は、あなたの主より剣を借りている者です。
今、あなたの主にお返ししますね。」
そうルークが答えると、ルークは剣をベルガーに返す。
ベルガ―が受け取った途端、ベルガ―の耳に声が聞こえ始めたのだ!
『アナタガ・・・ワタシノ・・・マスター・・・デスカ?』
「あ、あぁ、私がお前の主人だ。
名をベルガー・ウォーザードと言う。」
どうやら、ベルガーにもはっきり聞こえたようだ。
ベルガ―は驚きつつも、スティールヴェインの言葉にちゃんと答えたのだ。
ルークは、スティールヴェインに“思念連結”を繋ぎ、レーヴァテインとも会話できるようにした。
『お初にお目にかかります、スティールヴェイン殿。
私の名は、レーヴァテインと言います。
同じ魔剣同士、仲良くしたいのですが、可能でしょうか?』
『レーヴァテイン?
魔剣?
仲良く?』
まだ、混乱しているようだ。
だが、少し時間が経つと、片言も消えていき、普通に会話できるようになっていった。
「しかし、まさか、魔剣と会話できるようになるとは・・・
これは一体どんな魔法なのだ?」
ベルガ―は不思議な出来事に、まだ戸惑っているようだ。
「魔剣を進化してみたんです。
命がある以上、意思を持っているはずだと信じてみたんです。
存外、うまくいきましたね。
これで、ベルガーさんも更に強くなれますね。」
「強くなれる?」
ベルガ―は疑問符を浮かべる。
「実は、僕はレーヴァテインと会話することにより、
魔剣の力を引き出せるようになったんです。
つまり魔剣は、魔力を使った戦い方を熟知していると考えられるんですよ。
そう考えると、ベルガーさんの知らない戦い方を、
魔剣が提案してくれると思います。
例えば、風系統の魔法を乗せて、剣の威力を強化するとか、ね。」
ベルガ―はルークの言葉に驚きつつも、スティールヴェインに話しかける。
「なるほど、そんなことが可能なのか、スティールヴェイン?」
『はい、可能です、マスター。
私がお教えしますので、明日から訓練しましょう。』
スティールヴェインの言葉に、ベルガーはうなずく。
「うむ、わかった。
明日はちょうど訓練に出向くつもりだったからな。
しかし、魔法を活用した戦いができるようになるのか。
まさか、スティールヴェインに魔力を流すだけでも、
戦いに変化が生じるのか?」
「はい、生じると思いますよ。
僕もレーヴァテインで訓練したのですが、威力が大幅に上がりました。
ただ、結果として使いどころが難しくなりましたけどね。」
ルークは苦笑する。
ルークの場合、膂力が優れているのと、魔力が大きいのが原因のため、破壊の威力が大きくなりすぎて、使いどころが難しくなったのだ。
ベルガ―はうなずいていた。
「なるほどな。
今まで魔剣は、間接的な補助程度のことしかできないと思っていたのだが。
意思を持つと大きく変わるものなのだな。
明日からの訓練が楽しみになってきた。
私はまだ強くなれるのだな、スティールヴェイン。」
『はい、マスターはまだまだ強くなれます。』
「そうか、感謝する。」
どうやら、ベルガーとスティールヴェインの間に固い絆が出来上がったようだ。
「ルーク、感謝する。
私は、魔剣の力に気付いていなければ、ここまでだったかもしれん。
だが、強くなれる可能性を得た今、やる気がみなぎっている。
明日から訓練をして、魔剣の力を十二分に引き出すつもりだ。」
「はい、頑張ってください。
ただ、威力が以前より大きくなる可能性が高くなりますから、ほどほどに。」
「むっ、それほどなのか?
うむ、気をつけよう。」
こうして、ルークのレーヴァテインのみならず、ベルガーのスティールヴェインも意思を持つことになるのだった。




