15-7 フェイドの上級魔法の取得。(その一)
翌日より、フェイドと共に、上級魔法の魔術書を使った勉強が開始された。
フェイドは勉強は苦手だったが、ルークの説明をしっかり聞いていた。
ルークは的確、且つ正確に、魔法の内容を説明していった。
フェイドからの質問にも、しっかり回答していた。
その結果、フェイドはしっかりと魔法の内容を理解することができるのであった。
魔法の勉強が済めば、実践確認に移行する予定となるのであった。
6日後。
魔法の理論を熟知したフェイドは、実践することになったのだが、問題が一つあった。
広い場所がないのだ。
「庭の広さじゃ、ダメなのか?」
フェイドは、ルークに問う。
「どの魔法も、威力が大きい上、範囲が広いですからね。
できれば、ここの庭より広いところがいいんですが。
しょうがない、僕の修行場でやりましょうか。」
「ルークの修行場?」
ということで、2人は都市ラークネスを出て、ルークの家に“瞬間移動”で転移することにした。
フェイドは、ルークの家を見て、感想を呟く。
「あの家がルークの家なのか?
ボロじゃないか。」
「まぁ、否定できないけど。
あれが村では普通なんですよ。」
「なるほどな、そういうもんなんだな。」
フェイドは変なことに関心していた。
そして、ルークの家から離れた場所に到着する。
ルークは結界を張り、準備を整えるのだ。
結界のサイズは、いつも通り、一辺が100メートルの大きな正方形の結界だ。
「広すぎないか?」
フェイドの第一声がこれである。
「魔導士協会の実地試験場もこれぐらいあるんですよ。
だから、文句言わない。」
「わかったよ。
んじゃ、結界に入るぜ。」
ルークは、フェイドが結界内に入ったことを確認すると、かかしもどきを出現させる。
「じゃ、はじめるぜ!」
フェイドは魔法を唱え、解放する!
「“極大炎熱波動”!!!」
途端、小さな火球が出現し、ポトリと落ちる。
「魔力が安定してないです。
安定するまで、解放しちゃいけないって、前にも言ったじゃないですか!」
「うぐっ!?
わ、わかってるって!」
フェイドは、格好つけようとして、思いっきり失敗したようだ。
『彼は魔法のセンスがないのかもしれませんね。』
レーヴァテインがそんなことをぼやく。
ルークは苦笑しつつ、フェイドの練習に付き合うのだった。
その日の夜。
いつものように、リリアーナと会話していると、リリアーナに質問されたのだ。
「今日の午前と午後、どちらにいらっしゃったんですか?
中庭にもいなかったようですが?」
「あぁ、実はですね、上級魔法を使う広いスペースがなかったものですから、
僕の家まで行っていたんです。」
これを聞いた途端、リリアーナの目が光ったように見えた。
「私も行きたいです、ルーク様の家!」
「えっ、えーと、修行で行ってるんですよ?
遊びではないんですよ?」
「明日、同行してもいいでしょうか?
お茶、持っていきます。」
「は、はい、いいですよ。」
リリアーナに気圧され、ルークは了承するしかなかった。
翌日。
なぜか、リリアーナが付いてくることに、フェイドは疑問に思うのだった。
それでも、修行の邪魔はしないと約束してくれたので、連れていくことになった。
都市ラークネスを出ると、2人はルークに触れる。
「行きますよ、“瞬間移動”!!!」
瞬間、ルークの自宅前に到着する。
「す、すごい!」
リリアーナは驚いていた。
そして、ルークの家を見て、さらにびっくりする。
「ルーク様の家って、ボロボロだったんですね。」
「ほらみろ、同じ答えが返ってきたぞ。」
フェイドの言葉に、ルークは困る。
「あー・・・
まぁ、ボロボロに見えるだけで、これが普通なんですよ。」
ルークは返答に困るのだった。
ルークらは、自宅から離れた場所へと移動する。
当然だが、そこには何もない。
「よし、着いたな。」
「あの、ここで修行を?」
「あぁ、そうだ。
リリアーナは下がってろ。
危ないからな。」
フェイドの言葉に従い、リリアーナは数歩下がる。
ルークが結界を張ると、リリアーナは更に驚く。
四角い透明な箱が出来上がり、そこにフェイドが入っていく。
かかしもどきが出現すると、修行が開始される。
フェイドの修行は、簡単なものではなかった。
それは、リリアーナの目から見ても、明らかであった。
まずは、魔力の安定化から始める。
安定した時点で解き放つ。
魔力が足りなければ、ルークから注意され、再度同じことの繰り返し。
フェイドは汗をかきながら、集中していた。
そんな兄の姿をみて、リリアーナは少し感動していた。
いつも暴れん坊みたいな兄が、まじめに魔法の鍛錬をしていることに。
あとで、お父様に報告しようと、こっそりと思うのだった。
その後も、リリアーナは黙ってフェイドを見守っていた。
お茶を持ってきていたのに、出すのを忘れてしまったため、すっかり冷めてしまっていた。
夕方になる頃、フェイドはすっかり疲れ切っており、ルークに支えられながら結界から出て来た。
そして、ようやく、一つ目の魔法が完成したのだった。
その日の夜。
リリアーナの部屋に、ルークが訪れていた。
ドアをノックするも、返事がない。
「あれっ?」
もう一度ノックすると、慌ててドアが開く。
「申し訳ありません。
考え事をしておりました。」
リリアーナが慌てて謝る。
「大丈夫ですよ。」
ルークはそうフォローすると、中へ案内される。
ソファに座ると、リリアーナよりお茶を受け取る。
お茶を一口飲む。
おいしい。
「今日もお茶がおいしいですね。
ありがとうございます。」
「ありがとうございます、ルーク様。」
そう言って、リリアーナはルークの隣に座る。
「どうかしましたか?」
ルークはリリアーナの様子がおかしいことに気が付いていた。
いつもなら、すぐに会話の話題を提供してくるのに、今日は黙り勝ちなのだ。
「はい、その、お兄様の一生懸命な姿に、びっくりしたんです。
あの、いつも暴れん坊なお兄様が、頑張っている姿を初めて見たんです。」
「そうなんですか?
いつも、修行中はあんな感じなんですよ。」
ルークの言葉に、さらに驚く。
いつも気合を入れて、頑張っているのか。
とても想像がつかないが、ルークの言葉に嘘はないのだろう。
「あの、ルーク様。
たまにでいいので、私も修行についていってもいいでしょうか?
もちろん、邪魔はしませんから。」
ルークは驚くも、コクリとうなずく。
「行きたくなったら、声をかけてください。
3つ上級魔法を極めるまでの期間ですが、それでよければ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って、リリアーナは笑顔になるのだった。