15-6 フェイドの中級魔法制覇!
それから一週間経った。
フェイドは相変わらず、自身の部屋で、魔力の安定化の修行を続けていた。
フェイド自身は、イラついていたのだが、自分でも気が付いていた。
魔力が少しずつだが、安定していることに。
以前は、ムラがあったのだ。
そのため、魔法の威力が安定しなかったのだ。
理由は気にしなかったが、それが原因と知り、納得した。
そうして、ようやく、魔力が安定し出したのだ。
一週間もかかったのだ。
これで成果がでなければ、自分は無能であると認めることになる。
だが、ルークは根気よく付き合ってくれた。
そのルークのアドバイスがあればこそ、今の自分があるのだ。
魔力の安定が確認されると、ルークから言葉がかかる。
「フェイド殿、OKです。
魔法を解放してください。」
「おう。」
フェイドは魔法を解放すると、一息つく。
「どうだ?」
「だいぶ安定しました。
もう、問題ないでしょう。
では、次は、中級魔法の勉強と実践です。」
「おう、やってやるぜ!」
だが、修行はまだ始まったばかりだ。
これから、一歩ずつ進めていくのであった。
リリアーナの修行も順調であった。
毎晩、ルークのお世話に徹していた。
ただ、リリアーナにとって、ルークと過ごす時間は、非常に大切なものになっていた。
ルークと会話するだけで、嬉しくなるのだ。
嬉しくて、笑みがこぼれるのだ。
そんなリリアーナを、ルークは優しく見つめるのであった。
とある日、リリアーナはルークに質問していた。
「ルーク様は神聖魔法をご存知ですか?」
「えぇ、知ってますよ。
僕も扱えますよ。」
リリアーナはそれに驚き、質問を続ける。
「どの程度扱えるのでしょうか?」
「そうですね、司祭級でしょうか。」
明らかに、リリアーナより上である。
リリアーナも神聖魔法を扱えるのだが、初級どまりだった。
彼女は神聖魔法を学ぼうと、教会に入ろうと思ったのだが、伯爵に止められた。
教会に入ること、つまり、貴族の身分を捨てることを意味する。
そのようなことは当然、伯爵が許すわけがないのだ。
そのため、初級の魔法を教本で覚えたのだ。
逆に、魔法使いの魔法は全く使えない。
リリアーナが攻撃系の魔法を嫌ったためである。
「司祭級ということは、回復魔法の“回復”も扱えるのでしょうか?」
リリアーナはその魔法を知っていたが、使えなかった。
だから、使えるようになりたかったのだ。
「はい、使えますよ。
それがどうかしたんですか?」
リリアーナは、ルークにずいっと近づく。
「是非、私に教えてください、ルーク様!」
「は、はい、いいですよ。」
ルークは、リリアーナに気圧されてうなずくのであった。
それから、2日かけて、“回復”を教えることになった。
無論、リリアーナのお世話の時間を使って、勉強を行ったのだ。
そして、2日目にして、勉強が済んだので、早速試してみることになったのだ。
ルークが指をナイフで切り、リリアーナに見せる。
血が溢れているのが確認できた。
「リリアーナ殿、さぁ、試してみて。」
「はい!」
リリアーナは呪文を唱え、解放する!
「“回復”!!!」
すると、ルークの指の血の動きが止まる。
ルークが布で血を拭き取ると、傷が消えていたのだ。
「おめでとう、“回復”が使えるようになりました。」
「ルーク様、ありがとうございます。」
これには、リリアーナはとても嬉しそうだった。
「しかし、他の魔法はいいんですか?」
ルークの質問に、リリアーナは答える。
「はい、この魔法が使えるようになりたかったんです。
この魔法があれば、お父様も、お兄様も怪我をした時、回復できますから。」
「いい心がけですね。」
ルークは自然に、リリアーナの頭を撫でていた。
どうやら、ミシェリの時の癖がそのまま出たようだ。
リリアーナは突然のことにびっくりしたものの、されるがままだった。
なぜか、とても嬉しかったのだ。
その日のリリアーナは、とても幸せだったのだ。
更に一週間が経った。
フェイドは城の中庭の何もない場所で、修行を行っていた。
火系統の中級魔法を極めていたのだ。
そして、ようやく終わりを迎えたのだった。
「おっしゃぁ!
中級魔法、全クリアだ!
やってやったぞ!」
思わず嬉しくて叫んでいた。
その時、ルークが声をかける。
「おめでとうございます、フェイド殿。」
「あぁ、ありがとよ、ルーク。
そうだ、ルーク、俺のことも呼び捨てで呼べ。
殿なんて、いらん。」
突然のことに、ルークは驚くも笑みを浮かべる。
「わかりました、フェイド。
では明日から、火系統の上級魔法に進みますよ?」
「おう、望むところだ!」
フェイドは気合を入れて、答えるのであった。
その日の夜。
リリアーナの修行という名のお茶会が済んだ後、ルークは伯爵に呼び出された。
伯爵の執務室へ向かうと、伯爵はのんびりと紅茶を飲んでいた。
「おぉ、来たか、ルーク。
ささ、かけるがよい。」
伯爵に勧められ、ソファに腰かける。
「2人の様子はどうだ?
聞かせてくれんか?」
伯爵は2人の状況が知りたかったようだ。
ルークは答えることにした。
「フェイドについては、火系統の中級魔法を全て扱えるようになりました。
魔力の使い方もわかってきたようです。
魔力が安定してきましたので、明日から火系統の上級魔法に取り掛かります。」
伯爵は満足そうにうなずく。
「リリアーナ殿は、給仕が非常に上手ですね。
毎日、紅茶を頂いてますが、おいしいです。
紅茶をいれるのが上手なのでしょうね。
それから、よく会話するようになりましたね。
あと、神聖魔法の呪文を一つ教えました。」
「呪文?」
「はい、“回復”の魔法です。
なんでも、伯爵とフェイドが怪我した際に、使うと言ってましたよ。」
「そうか。
あの子は争い事は嫌いだからな。
魔法使いにならなかったのも、その理由があるのだが。
あの子は優しいのだ。
だから、我々も怪我をせぬよう、気を付けねばな。
ありがとう、ルーク。」
伯爵はルークに感謝する。
「いえ、たいしたことはしていませんよ。
リリアーナ殿も十分成長されていると思いますよ。
そう、今度は料理を作ってくれると言ってましたので、
楽しみにしております。」
「そうか、そうか。」
伯爵は、リリアーナとの仲が深まっていることにも満足していた。
これで、うまく結ばれてくれれば、御の字なのだ。
少しでも、他貴族より有利な位置に立つためには、リリアーナのことも好きになってもらわなければならない。
だが、今はゆっくりでいいのだ。
急ぐ必要はない。
この調子でいいのだ。
今の伯爵の狙いは、急がず慌てず、ゆっくりと進めることだった。