15-1 魔剣との会話。
翌日。
ルークは、レーヴァテインを引き抜くと、机の上に置く。
そして、自身は椅子に座り、レーヴァテインと対面状態となる。
「おはよう、レーヴァテイン。」
『おはようございます、マスター』
やはり喋った。
昨日のことは夢ではないのだ。
事実だった。
ルークはそのことを確認すると、話し始める。
「僕の名はルークです。
その、わかってるかもしれないけど、よろしくね。」
『はい、よろしくお願いします、マスター』
「聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
『何なりと。』
そこでルークは一呼吸してから、言葉を紡ぐ。
「君は、どのように誕生した魔剣なんだい?」
『私は、とある魔法騎士によって創られた魔剣になります。
鍛冶師や魔導士によって創られた魔剣とは異なります。
そうですね、マスターが持つもう一振りの魔剣と、
同様であると考えて頂ければわかりやすいかと。』
つまり、ルークが創り出したレッド・セイバーと同じ方法で創られた剣だったのだ。
ただ、意思を持っているのは何故なのだろうか?
レッド・セイバーには意思はないのだ。
「その、疑問なんだけど、どうして君には意思が宿っているんだい?」
『それは、理由まではわかりません。
ただ、私を創った男の気まぐれなのかもしれません。』
理由は不明だが、その魔法騎士は優秀だったのだろう。
剣に意思を与えるなど、普通できないだろうから。
「その、君を創った人物について、聞いていいかな?」
『私を創った男の名は、ミルドといいました。
剣の腕は一流であり、火系統の魔導士としては非常に優秀でした。
火系統の上級魔法を五つ使いこなす、魔導士だったのですから。
ですが、その性格は、非常に不愉快なものでした。
ただの乱暴者だったのです。
ですから、私への扱いも非常に乱暴なものでした。』
どうやら、魔導においては、ルーク並みに優秀ではあったが、性格がダメだったようだ。
レーヴァテインの口調には、何か凄い怒りが満ちていたからだ。
「その、どれくらい乱暴だったんだい?」
ルークは、とりあえず、聞いてみた。
『例えば、戦いの最中、私を平気で折ってみせたのです。
剣の扱いに長けている者とは思えない行為です。
私は、数回折られ、そのたびに魔力で修復していました。
私は、何度も彼に抗議したのですが、聞く耳を持たなかったのです。
結局、私の助言や抗議を聞くことは、一度もありませんでしたね。』
どうやら、レーヴァテインを魔剣として扱っていなかったようだ。
単なる道具とみなし、扱っていた可能性が髙いようだ。
非常に、性格が悪いようだ。
『だが、その男の最後は、あっけないものでした。
あっさりと敵に刺殺され、絶命したのです。
あの男にはふさわしい最後だったのかもしれません。』
「そうか。
その魔法騎士が死んだ後、君はどうしたんだい?」
ルークは、その後について気になっていたので、質問した。
『その後、私はいろいろな剣士と出会いました。
ですが、私と意思を通わせることのできる人間はいませんでした。
当時の私はなまくらな剣にすぎませんでした。
やがて私は、ルーニア皇国の王に買い取られ、家宝とされたのです。
ですが、その時の私は、既にボロボロの古い剣になり果てていたのです。
もはや、修繕不能だろうと思っておりました。
その矢先、あなたが現れたのです。』
ルーニア皇国に拾われ、そして、ルークの手元に来たのは、偶然なのだろうか。
ルークは、その偶然に驚くほかなかった。
「それで、僕が剣を引き抜いた時、炎で蘇生したと・・・」
『はい、あなたは、ミルド以上の使い手であると判断しました。
ミルドよりも高い魔力を持ち、火系統の上級魔法をマスターした存在。
それが、私が蘇生する条件だったのです。
条件を満たした人間のみ、私と意思疎通ができ、そして本来の私を扱える者。
それが、あなたになります、マスター。』
そうか、僕はこの魔剣に選ばれたのか。
ルークはなんともいえない気分になった。
まるで、出会うべく、この剣と出会ったのだ。
運命に近しいものがあった。
「じゃ、君は、これから僕と共に、戦ってくれるんだね?」
『無論です。
あなたは、前回のマスターと異なり、
私を正しく扱ってくれると信じております。
ですから、あなたに私の力を活用して頂きたいのです。
私は、あなたのみが扱える魔剣なのです。』
「うん、僕も、君を正しく扱ってみたい。
だから、力を貸してくれ、レーヴァテイン。」
『承知です、マスター』
「で、君の力ってどんなものなんだい?」
ルークは、レーヴァテインの使い方について質問することにした。
『私は基本、マスターの魔力を吸収して強化されています。
よって、通常の剣として扱うのが基本として、
剣に魔力を纏わせることも可能となります。
それから、剣に上級魔法を纏わせ、大威力の剣と化すことも可能です。
今のところ、火系統であれば、私はどんな魔法でも纏うことが可能です。
他系統については、試したことが無いので、わかりません。』
「なるほど。
実は、僕は他系統の魔法もマスターしているんだ。
だから、そこは要確認だね。」
『はい、実践にて確認しましょう、マスター。』
どうやら、ルークの魔法で強化可能のようだ。
上級魔法はかなり危険度の高いものが多いが、剣に纏わせて放つとどうなるのか?
その点も確認する必要がありそうだ。
おそらくだが、大威力になることだろう。
「ちなみに、折れても蘇生可能って言ってたけど、
僕の魔力を吸収できれば、可能なのかい?」
『はい、マスターの魔力があれば、折れてもすぐに修復可能です。』
なるほど、固い敵と戦っても、すぐに修復できるのであれば、不利になることはない。
「他にできることはあるのかい?」
『そうですね、マスターとつながっている間、
マスターの魔法を全て知ることが可能です。
その中で、私にも扱えるものがあれば、
私が魔法を唱え解放することも可能です。
例えば、敵に悟られずに魔法を唱えたい場合、代理で私が唱えるのです。
解放は、マスターが実行する。
そういったことも可能となります。』
これはかなり有意義な情報だ。
不意打ちを狙う際、自分で唱えず、剣に唱えさせることが可能となる。
しかも、解放も可能となると、ルークが一切唱える必要もなく、剣に集中できるのだ。
まさに、二人で戦っていることに等しい。
「それはすごいね。
じゃ、二人で同じ魔法を唱えれば、二倍の威力が得られるというわけか。
レーヴァテインは凄い力をもっているんだね。」
『お分かりいただけたようで、光栄です。
前の主は、このことを知りませんでした。
自分で創っておきながら、情けない話ですが。』
前の主に、ちょっと嫌味を言うことも忘れていないようだ。
「そういえば、他人との意思疎通はできないって言ってたけど、
“思考連結”を使えば、できるんじゃないか?」
『ふむ、確かに。
マスターの言う通りかもしれません。
今度、どなたかと試してみましょう。』
「そうだね。
誰がいいかは、今度考えてみよう。」
ルークは誰がいいか、考えてみた。
やはり、剣を頂いた皇帝陛下かなとも思ってみたりする。
『ふふっ、ここまで私の話を聞いてくれたのは、
あなたが初めてですよ、マスター。』
突然、レーヴァテインが声をかけて来て、ルークが驚く。
『私は、前の主に扱われている間、自分の存在意義を疑いましたよ。
剣として扱われるのは良いが、
私という存在を認めない主に仕えるべきなのかと。
だが、あなたは違った。
私を私として扱ってくれている。
だからこそ、マスターのために力を尽くしたくなりました。』
「僕は、レーヴァテインを、ただの魔剣として扱うつもりはないよ。
そうだな、変な言い方かもしれないけど、僕の相棒になってくれよ。
そして、僕と戦い抜いて欲しい。
これからずっとね。」
その言葉に、レーヴァテインは感激していた。
この少年は、私を相棒にしたいと言ってくれたのだ。
ならば、この少年のために、力を尽くすべきだろう、そう判断した。
「じゃ、今後とも、よろしくね、レーヴァテイン。」
『はい、私からもよろしくお願いします、マスター』
こうして二人の最強コンビが結成されたのであった。