14-7 皇帝暗殺。
皇帝陛下は上機嫌だった。
これほど素晴らしい騎士たちの戦いは、なかなか見ることができないからだ。
無論、以前見たルークとベルガ―の戦いほどではないのだが。
だが、魔力が無くとも、素晴らしい試合を見せてくれる。
これが、人間の力なのだと、思い知る勢いであった。
クリシュナやベルガ―は惜しいと思っているだろうと思った。
皇帝陛下は、二人と考えが異なるのだ。
魔力が無くても、騎士団の力が増すのであれば、それでよいのだ。
近衛師団に力を集中させるつもりは一切ないのだ。
近衛師団は貴族ばかりの部隊だ。
結局のところ、一番活躍するのは、今目の前で戦っている騎士たちなのだ。
だから、近衛師団を強化する必要はないという考えだったのだ。
近衛師団は、貴族に睨みを利かせられれば良いのだ。
それ以上の役割は求めていなかった。
だが、それをあえて言わなかった。
いずれ、クリシュナもその事に気付くと思っていたからだ。
だから、今は黙っているのだ。
皇帝陛下は、一試合が終わるたびに、必ず拍手していた。
そして、今、一つの試合が終わり、拍手をした。
次の試合が始まる前に、右手を伸ばし、テーブルの上にある水を飲もうとした。
その時だった!
皇帝陛下の左側から剣の刃先が見えたのだ!
その刃先が、まっすぐに自分の心臓に向かって突進してきたのだ!
瞬間!!
「ぐはぁっ!?」
皇帝陛下の心臓に、ロングソードが突き刺さったのだ!
「陛下!!?」
最初に気が付いたのは、ルークだった。
ルークの言葉に、皆、陛下を見る。
陛下は即死だった。
心臓を貫かれたのだ。
だが、ルークは冷静だった。
ロングソードは、“隠蔽”の対象外となっていたのだ。
剣を素早く引き抜き、貫いたのだ。
今、空中に剣が浮いている状態だったのだ。
ルークはすぐに理解する。
そして、魔法を唱えていたのだ!
「“解呪”!!!」
途端、2人の黒づくめの人間が姿を現したのだ!!
「「「!?!?」」」
黒づくめと、その場にいた騎士たちが同時に驚く!
瞬間、ルークは動いていた。
剣を引き抜き、2人を斬り捨てていたのだ!
「がっ!?」
2人は、言葉を発することなく、倒れた。
更に、ルークは魔力を感知する。
上空だ!
素早く呪文を唱え、上空に向かって解放する!
「“解呪”!!!」
上空に2人の黒づくめが出現したのだ。
しかも、黒づくめたちは“飛翔”の呪文も解除されたため、落下中だった。
「ベルガ―、上空だ、叩き斬れ!!」
ルークはベルガ―に叫んでいた。
ベルガ―はすぐさま、“飛翔”を使い、素早い速度で、飛翔する!
ルークは、それを確認するや、結界を張る!
「結界!!」
途端、広い範囲に結界が張られる!
ベルガ―が飛翔中に、黒づくめの1人が呪文を完成させる!
「“極大炎熱波動”!!!」
巨大な火球が放たれ、ベルガ―に向かって飛んでいくのだ!!
だが、ベルガ―は速度を落とさずに、巨大な火球に向かって飛翔する!
「風よ、逆巻け!!!」
ベルガ―が叫んだ瞬間、魔剣が風を纏い、逆巻く!!
そして、巨大な火球を斬り裂く!
そのままベルガ―は突っ込み、上空の2人を真っ二つに斬り裂いたのだ!
火球の破片は、地上に落下するも、ルークの結界により霧散する。
そして、黒づくめ2人の遺体は、地上へと真っ逆さまに落ちていくのであった。
ルークは次に、訓練場の外にいた男が動き出したのを確認した。
こいつも間違いなく、黒づくめの仲間と判断する。
「レヴィ、座標を送る!
そいつを捕らえろ!!」
途端、“思念連結”を繋ぎ、レヴィに情報を送る。
レヴィは、すぐに“瞬間移動”にて、移動する!
移動先に、逃げようとする男がいたのだ。
レヴィは素早く動き、腹部に思いっきり膝蹴りを喰らわせたのだ!
「ぐはっ!!?」
男は腹部を抱え、倒れ伏す。
「ルーク様、捕らえました。」
「了解だ、そいつを連れて来い。
こいつらの仲間だ。」
レヴィはうなずくと、倒れた男を抱えて、訓練場へと移動を開始するのであった。
ルークは、敵がいなくなったことを確認すると、皇帝陛下のほうを見る。
そこでは、クリシュナと近衛騎士たちが、呆然としていたのだ。
ルークは、陛下の死骸に向かう。
そこでは、クリシュナが陛下の状態を確認し、悲しみに暮れていた。
「殿下、お退きください。
僕に任せてください。」
「ルーク?
何をするつもりだ。」
ルークは、クリシュナに答えることなく横にどけると、地上で横たわる陛下の真横に立つ。
そして、魔法を唱え始める。
その時、ベルガ―が上空から降りて来て、クリシュナの元に来る。
ルークが魔法を唱えている間に、陛下を中心に魔法陣が現れたのだ!
「まさか、この魔法は!?」
クリシュナとベルガ―が驚く。
周辺の近衛騎士たちには、何が起きているのかわからなかった。
ルークが唱えているのは、神聖魔法の上位魔法だった。
しかも、司祭以上の者にしか行使できない魔法だったのだ。
ルークは魔法を唱え終わると、解き放つ!
「“復活”!!!」
途端、陛下の胸の傷が塞がり、顔色が良くなったのだ。
そして、陛下の目が開いたのだ。
「余は・・・死んだのか?」
クリシュナは目を見開き、驚くとともに、冷静になる。
「父上!
近衛騎士よ、父上を連れ、城に戻るのだ!」
クリシュナが素早く命令を下す。
近衛騎士たちは、皇帝陛下を担架のようなもので運び、王城へと急ぎ戻るのであった。
クリシュナも近衛騎士に続いて、王城へと戻るのだった。
ルーク、ベルガ―、レヴィはその場に残ることになるのだった。
「ルーク様、神聖魔法の蘇生魔法まで使えるのですか!?」
ベルガ―の問いに、ルークはうなずく。
これには、ベルガ―とレヴィは驚いていた。
「・・・まさに、魔導を極めし者だな。
貴君には感謝せねばならないな。」
「いえ、そんなことはないですよ。
それよりも、僕が斬った黒づくめたちはまだ生きてます。
彼らはこの国の人間ではありません。
明らかに他国の者です。
彼らは暗殺者でした。
投獄し、問い詰める必要があるでしょう。」
「そうですね。
私が捕らえた男からも情報が得られるでしょう。」
レヴィの足下には、気絶した男が転がっていた。
ルークは、“思考読破”を使い、男を見る。
「なるほど、この男のほうが、色々情報を持っていましたね。
彼らの狙いは、皇帝陛下及び皇太子と近衛騎士の暗殺だったようです。
そして、彼らは、ミーディアス王国から来た刺客のようですね。」
「ミーディアス王国、隣国ですな。
なるほど、ありえなくもない。」
そして、黒づくめたちは、近衛師団の騎士たちによって運ばれていくのだった。
この後、御前試合は中止となった。
ベルガ―が指揮し、全員の帰還を命じたのだった。
騎士たちの中に怪しい者はいなかったので、帰還が許されたのであった。
ただ、皇帝陛下の身に起きたことの詳細は、秘匿することを条件に解散されることになったのだ。
こうして、皇帝陛下暗殺事件は、ルークの介入により失敗に終わるのだった。