13-9 ミレーナの覚悟。①
ミレーナは部屋で1人、考えていた。
レイヴンが結婚するまで、何も問われることなく生きて来た。
結婚や恋なんて意識したことすらない。
縁談の話すらなかったのだ。
ところが、ルークが現れてから、一変する。
ルークはあっという間に出世して、今や皇帝陛下直属の騎士である。
結婚相手には、持って来いなのだろう。
ここで無理やり、恋や結婚なんて意識しないといけないのだろうか?
しかも、ルークに対して。
ミレーナは困惑する。
ちなみに、サーシャの場合は、完全に政略結婚である。
お互いを意識する前に、結婚してしまったのだ。
つまり、レイヴンとサーシャは、恋愛することなく、結婚したのだ。
通常であれば、互いにぎこちない状態が続くはずだった。
ところが、レイヴンとサーシャは相性が良かった。
すぐに打ち解け、夫婦になった。
だけど、自分はどうだろうか?
サーシャのように、政略結婚して、幸せになれるのだろうか?
旦那と仲良く過ごせるだろうか?
うまく会話できるのだろうか?
ミレーナ自身は、幸せになれるような予感がしなかった。
そんなことを延々と考え続けた結果、いつの間にか夕方になっていた。
夕食の時間になる前に、食堂に行かないと・・・
ミレーナは立ち上がると、部屋を出るのだった。
食堂に行くと、誰もいなかった。
「あれ?
誰もいないの?」
そこに、メイドが現れる。
「お呼びでしょうか?」
「今日の夕食は?」
「はい、レイヴン様とサーシャ様は外食とお聞きしましたので、
ミレーナ様の分のみ用意してございます。」
あっ、そういえば、外食するって言ってたっけ。
午前中のことを思い出し、ミレーナは自分に呆れる。
今日は2人きりで、ディナーを楽しむと言っていたのだ。
ミレーナは連れて行ってはくれなかったのだ。
置いてけぼりを喰らったのである。
「うぅ、そうだった。
じゃ、私、夕食を頂きます。」
「はい、では、おかけになってお待ちください。」
結局、1人寂しく食事をするのだった。
食事を終えた後、部屋に戻ろうとした時、ポールが駆けつけてきたのだ。
「お嬢様、ルーク様がいらっしゃいました。
いかが致しましょうか。」
「どうせ兄さんに用事があったんでしょ?
不在ですって伝えればいいんじゃない?」
「あの、お嬢様が対応してもよろしいとは思いますが、いかがでしょうか?」
「えっ、なんで?」
ミレーナは、ちょっとドキっとする。
「ミレーナ様は、ルーク様の婚約者ではありませんか。
レイヴン様より、そのようにお聞きしておりますよ。」
「ちょっ!!?」
レイヴンは既に、執事やメイドに、ルークとミレーナが婚約したという情報を流していたのだ。
そして、ポールは、せっかく婚約者が来たのに、会わないのか?と疑問に思っているのだ。
完全に、レイヴンにしてやられたのだ。
「うぅぅぅ、兄さんの馬鹿!!」
ミレーナは思わず、そう叫ぶのであった。
結局、ミレーナが対応することになるのだった。
応接室にて、ミレーナは、ルークと対面することになった。
「遅くにすみません。
レイヴンとサーシャさんが不在と聞いていたんですが。」
ルークの言葉に、ミレーナはうなずく。
ちなみに、先ほどからミレーナは、ルークをまともに見れなかった。
なぜかわからないが、とにかく恥ずかしいのだ。
「そう、2人は不在だけど、夜には戻ると思うわ。
今日、泊まっていけば?」
「なんかお世話になりっぱなしで、悪いような気がします。」
ルークは困り顔だ。
「いいのよ、それくらい。
兄さんはルークに大きな借りがあるんだから。
一泊くらいなんてこともないわよ。」
「そうですかね。
それでは遠慮なく、一泊させてもらいますね。」
「あとで、ポールに手配しておくわ。
で、今日の用件ってなんだったの?」
ミレーナは相変わらず、ルークの顔が見れない。
手や足やソファなどに視線を移しながら、本題に入る。
「あ、はい。
実は、土系統の魔導士試験に合格しました。
四系統の魔法をマスターしたんですよ。」
これには、ミレーナが驚く。
「おめでとう。
すごいじゃない。」
ミレーナは、ルークの顔を見ながら言っていた。
「ありがとうございます。
・・・ようやく、顔を見て話してくれましたね?」
「へっ?」
途端、ミレーナの顔が真っ赤に染まる。
そして、ルークから視線を逸らす。
「あー、なんかまずかったですか?」
「何でもない。
何でもないわよ。」
なぜこうなったのか、ミレーナにもわからない。
何ともいえない気持ちが、心の中を支配していたのだ。
「あの、余計なことかもしれませんが、ミレーナ、大丈夫?」
「うぅぅぅ、大丈夫よ、大丈夫。」
なぜか同じ言葉を二回言ってしまう。
だが、相変わらず、視線は逸らしたままだ。
そこで、ルークは立ち上がり、ミレーナの顔を覗く。
そして、ミレーナとしっかりと目が合う。
途端、ミレーナの顔が更に赤くなる。
「もしや、熱でも?」
ルークは、ミレーナの顔が赤いのを確認して、ミレーナのおでこに手を当てる。
その間、ミレーナの心臓はバクンバクンの状態だった。
「うーん、少し熱があるようですね。
早めに休まれては、どうでしょう?」
ルークは心配そうに言う。
だが、ミレーナはそれどころではなかった。
自分でも、どうすればいいのかわからなかったのだ。
だから、逃げるしかなかった。
だが、そうは問屋が卸してくれなかった!
ミレーナは逃げるように立ち上がり、ドアを開けた瞬間、そこにはレイヴンとサーシャが立っていたのだ!
「えっ!?!?」
「惜しいな。
いい感じだと思っていたのだが、逃げ出すとはな。」
レイヴンの一言に、ミレーナは固まる。
サーシャは笑っている。
ミレーナは気付いたのだ、2人にこっそり見られていたことに。
「ど、ど、ど、どこから見ていたの!?」
「ほぼ最初からだな。
誰かさんが、ルークをまともに見れない状態だったところからだ。」
ミレーナは更に顔が赤くなる。
「ミレーナさん、恋する乙女でしたよ。」
サーシャの一言がトドメの一撃だった。
ついにミレーナは、自室に逃げたのだった。
「・・・脈ありだな。」
そう言って、レイヴンはにやりと笑みを浮かべる。
「そうですね、楽しみですね。」
サーシャも面白そうに、微笑む。
そして何もわからないルークは、茫然としていた。