13-5 ミルドベルゼ子爵邸へ。②
「さて、ルーク、君には聞きたいことがある。
魔法騎士になった経緯を聞きたい。」
レイヴンが話題を変えてくれたので、ルークは話すことにした。
皇太子に誘われ、近衛師団団長ベルガ―と決闘することになったこと。
決闘に勝利したところ、皇帝陛下が現れたこと。
皇帝陛下より魔法騎士に任命されたこと。
そして、正式な使者をもって、叙勲したこと。
そこまで聞いて、レイヴンは感想を漏らす。
「ほう、あの最強の騎士と呼ばれるベルガー殿を倒したのか。
君はつくづく凄いな。
彼は、強かっただろ?
魔剣持ちの騎士なのだぞ。」
「はい、強かったです。
ですから奥の手といいますか、魔剣を生成し、
魔力を全身に流すことで身体強化を行ったのです。
それで、やっと勝てたんですから。」
「ほう、魔剣を生成できるのか!?
しかも、魔力で身体強化か。
それが本来の魔法騎士の力なのか・・・
恐ろしい力だな。」
レイヴンはあえて、「恐ろしい」という表現を使った。
それはルークとの認識は一致していた。
「そうですね、「恐ろしい」と表現しても仕方ありません。
この前、10人の手練れの騎士と模擬戦をしたのです。
僕は一度も攻撃を喰らうことなく、全員を斬り伏せました。
無論、木刀なんで、本当には斬っていませんが。
全員倒すのに、ものの数分しかかかりませんでした。」
「ほう、10人もか!?
しかもものの数分か。
君は更に進化したようだな。
魔法騎士の名に恥じぬ、最強の騎士となったわけだ。」
レイヴンは感心する。
「それで、お住まいは変えないのですか?
皇帝陛下の騎士ということであれば、王都にお住まいなのですか?」
サーシャの質問に、ルークは首を横に振る。
「いえ、ペゾスの村に住んでます。
陛下から、王都に引っ越せとは言われてませんので。」
「なるほどな。
ならば、陛下に進言するか。
ルークを、ミルドベルゼ子爵邸で預かるとでもな。」
レイヴンの言葉に、ルークは嫌な予感がした。
何かの陰謀に巻き込まれかねない。
「・・・冗談だよ。
陛下がそう簡単に、最強の騎士を貴族に預けたりしないだろ。
利用されてはたまらないからな。」
レイヴンは、わざとルークをからかっていた。
これには、ルークも敵わないのだ。
「それで、今は任務を預かっていないのか?」
「はい、特には。
最近は、クーラク騎士団とラークネス騎士団の演習に付き合ったり、
ミシェリ殿の家庭教師をしてました。
そう言われると、任務は来てないですね。」
「ほう、騎士団同士の演習か。
それに、婚約相手のミシェリ殿か。」
「ミシェリはどうでしたか?
あの子、明るい子だから迷惑をかけませんでしたか?」
サーシャが懐かしそうに、ミシェリのことを問う。
「はい、とても明るい子でしたよ。
迷惑なことなんて一切ありませんでしたよ。
彼女は、頑張って水系統の魔導士に合格しましたから。」
「まぁ、それはすごいわ。」
サーシャはとても嬉しそうだ。
「どうやら父上殿は、ミシェリ殿をうまく誘導して、
ルークに近づける策をとったようだな。
無理やり家に呼ぶ手段を講じなかったのは、警戒されるのを防ぐためだ。
やはり、恐ろしい方だな。」
レイヴンは冷静に分析していた。
「そうなんですかね・・・
いつもと態度が変わってませんでしたが?」
「いや、そういう方なんだよ。
うまく誘導するのが得意な方だ。
その結果、ルークとミシェリ殿は仲良しになった。
つまり、婚約に一歩近づけたというわけだ。
それは、ミシェリ殿自身も意識している可能性が高いぞ。」
「へっ?」
ルークは固まる。
「つまりだ、侯爵は、ミシェリ殿に、ルークに恋するよう仕向けたのさ。
その結果、うまくいったんだ。
今頃、喜んでいるだろうさ。」
可能性はないとはいえなかった。
「そうですね、お父様は誘導は得意でしたね。
私たちの結婚でも、動いていたようですし。」
「あぁ、しっかり動いていたよ。
この私が将来、出世することを見越しているような発言をしていたからね。」
レイヴンと、サーシャの会話は続く。
ちなみに、ミレーナは完全に黙っていた。
だが、ちらちらとルークを意識的に見ていたのだ。
ルークは気が付いていなかったが。
こうして、会話は脱線気味に進み、夜を迎えるのだった。
ルークは宿泊を許され、一泊していくのだった。