13-5 ミルドベルゼ子爵邸へ。①
ルークは、魔導士試験を終えて、魔導士協会から出ていた。
さて、これからどうしようか?
このまま帰ろうか?
と思って、一つ思い出した。
レイヴンらに挨拶していなかったのだ。
そういえば、しばらく会っていないし、皆元気だろうか?
ちょっと気になったので、ミルドベルゼ子爵の屋敷へと向かうことにした。
屋敷に到着すると、玄関ドアを叩く。
すると、顔見知りのメイドが出てきたのだ。
「あら、ルーク様、お久しぶりです。」
メイドが笑顔で対応してくれたのだ。
「はい、お久しぶりです。
レイヴン殿はご在宅でしょうか?」
「はい、子爵様は在宅中ですよ。
ご案内しますね。」
メイドに案内され、ルークは、レイヴンの執務室を訪れるのだった。
「お久しぶりです、ルーク閣下。」
第一声、レイヴンの言葉に、ルークは困った表情を浮かべる。
「あの、公の場以外は・・・」
と言いかけて、レイヴンが口を挟む。
「公の場以外は、ルークでいい、だろ?
君はわかりやすいな。」
そう言って、レイヴンは笑う。
「ついでだ、私のことは、呼び捨てでいい。
プライベートでは、君と私は友人なのだ。
問題あるまい?」
「わかりましたよ、レイヴン。」
ルークもレイヴンの考えに賛成だったのだ。
「さて、話をする前に、サーシャとミレーナを呼びたい。
構わないかい?」
「はい、問題ありませんよ。」
「じゃ、済まないが、2人を呼んでくれ。」
レイヴンは近くのメイドにそう声をかける。
メイドは、2人を呼ぶべく、ドアの向こうに消えた。
数分後、サーシャとミレーナがやってきた。
ミレーナは、照れたような顔をしていた。
ルークには理由はわからないが、そういう風に見えたのだ。
「さて、ルーク、魔法騎士就任、おめでとう。」
「おめでとうございます。」
「・・・おめでとう。」
3人からお祝いの言葉を受ける。
「ありがとうございます。
皆さんもお元気そうで何よりです。」
ルークは嬉しそうに語る。
「さて、ルーク、プレゼントがある。
そこのミレーナをくれてやる。
持っていくといい。」
この乱暴な物言いに、ミレーナが声を上げる。
「ちょっと、レイヴン兄さん!!」
レイヴンとサーシャは笑い出す。
ルークは、完全な不意打ちに固まっていた。
そして、レイヴンは言葉を続ける。
「実は、冗談ではない。
ミレーナをもらってやってくれ。
いい加減、好きな男にくっつけてやらないと、覚悟が決まらないからな。」
この言葉は、ミレーナの心にグサリと刺さった。
事実、その通りなのだから。
ミレーナは何も言えなくなってしまった。
「あの、それについては、考えさせてもらえないでしょうか?」
ルークの言葉に、ミレーナがルークを見る。
「ほう、それはどういう意味だ?」
レイヴンの問いに、ルークは答える。
「正直に話しますと、今、ウォーザード伯爵、クロムワルツ侯爵、
そしてミルドベルゼ子爵、この三方から婚約の話が来ているわけです。
僕は、まだ結婚する覚悟というか、そういった感情といったものがないんです。
だから、しっかり考えたいと思っています。
ですから、それまで待って頂きたいのです。」
それを聞いて、全員、驚く。
「あら、お父様まで参加しているなんて。」
サーシャは、驚きの声を上げる。
「なるほど、私を除いて2人の貴族が既に動いているとは。」
レイヴンも予想はしていたのであろう、その数に驚く。
ミレーナは、その競争に巻き込まれていたのだ。
それを知った上で複雑な気分になったのだ。
「で、他の2人はどうなのだ?
花嫁候補の状況は?」
レイヴンの質問に、ルークは困る。
「とりあえず、好かれているようです。
伯爵の娘であるリリアーナ殿には告白を受けましたし。
侯爵の娘であるミシェリ殿にも好かれているようです。」
「まぁ、ミシェリが?
お父様ったら、早速教育しているようですね。」
サーシャが感想を漏らす。
「肝心のミレーナだが、どうなんだ?」
レイヴンが、ミレーナに問う。
「私は、私は・・・」
ミレーナは何も言えなくなった。
実のところ、自分の気持ちが良く分かっていなかった。
ルークのために花嫁修業はしている。
だが、それは好きと直結しているわけではない。
まだ、自分の心がわからないのだ。
「これは、どうやら、一歩リードされているようだな。
だから、ルークにくれてやると言ったのだが。」
レイヴンはミレーナの心情も想定していたようだ。
無理やりくっつけて、離れられないようにしようと画策したのだ。
そうすれば、ミレーナも自然とルークに恋するだろうと思ったのだ。
「ふむ、致し方ない。
確かに、今の状態で嫁にくれてやっても、いい嫁にはならんな。
お茶の入れ方もまだまだだしな。
もう少し当家で預かるとしよう。
とりあえず、先約ありということで、頼むぞ、ルーク。」
どうあっても、ルークに押し付ける発言である。
これには、ルークは困るしかなかった。