12-12 家庭教師終了と帰還。
翌日、夜。
約5週間の家庭教師が終了となった。
侯爵は喜色満面であった。
それは、ミシェリの態度でわかったのだ。
ミシェリは明らかに、ルークを慕っている。
どうやら、ルークに一歩以上、近づけたと思われるのだ。
「ルーク、ミシェリが大変世話になった。
これは、家庭教師の代金だ。
受け取ってくれ。」
「ありがとうございます。」
ルークは金貨の入った袋を受け取る。
「娘を魔導士にまで育ててもらったのだ。
感謝しかない。
ありがとう。」
クロムワルツ侯爵はルークに感謝していた。
今回は策謀無しだ。
ミシェリがいる手前、そのようなことはしない。
ここは、正直に感謝するのだった。
だが、ルークの反応も確認しておきたい。
「ルークよ、ミシェリはどうだ?
君の嫁にふさわしいと思わないか?」
侯爵の突然の言葉に、ルークは固まる。
「お父様!?」
ミシェリは、顔を赤くし、困惑する。
「どうだ、ルークよ。
君が望むならば、ここでミシェリと過ごしてもかまわんのだぞ。
私は2人の邪魔はしないからね。
なんなら、特別に屋敷でも用意して・・・」
「ちょ、お父様!!!」
この後、ひと悶着あり、侯爵はミシェリに止められるのだった。
侯爵は居住まいを正すと、言葉を紡ぐ。
「また、何かあればルークを頼るかもしれない。
かまわないかな?」
「はい、自分にできることでしたら。
そういえば、ミシェリ殿に“思念連結”を教えてあります。
何かあれば、ミシェリ殿に相談してください。」
侯爵は、ポンと手を打つ。
「なるほど、それで連絡が可能となるわけだな。
了解した、ルーク。」
そして、ルークは応接室を去るのだった。
ルークが去った後、侯爵はミシェリに質問をする。
「ミシェリ、ルークはどうだった?」
ミシェリは少し考えた後、答える。
「はい、とてもお優しい方でした。
私が最初考えていたよりも、ずっと、優しい方でした。
あの方は、私の頭を撫でてくれたんです。
とてもやさしく。」
「そうか、それはよかったな。」
侯爵は優しい笑みを浮かべていた。
ミシェリは明らかに、ルークに恋をしていた。
その証拠に、ルークのことを語っている間、とても幸せそうな顔をしていたのだ。
「だけど、しばらく寂しくなりますね。
ずっと、ルーク様と勉強していましたから。
明日から、憂鬱になりそうです。」
ミシェリは悲しそうな表情を浮かべた。
「なぁに、大丈夫だとも。
何かあれば、ルークに相談するといい。
いつでも、相談できるではないか。」
「はい、そうですね。」
ミシェリは微笑む。
「そういえば、ルーク様の生い立ちを聞きました。」
その言葉に、侯爵は興味を抱く。
「ほう、どのような生い立ちなんだい?」
「はい、何でも、4歳の時、捨てられたと。
10歳まで乳母と過ごしていたと。
乳母が亡くなってから、お一人で過ごされていたとおっしゃってました。」
「4歳の時、捨てられた・・・!?
乳母・・・」
侯爵は、頭の中に何か思い当たることがあった。
「まさか・・・」
「お父様?」
「いや、ありうる。
彼は、元貴族かもしれん・・・」
「えっ?」
侯爵は、悟っていた。
4歳で捨てられた、すなわち、魔力適性が判別される年齢。
そして、乳母という言葉。
乳母を雇うのは、基本金持ちの商人か、貴族、要職を務める者のみ。
捨てられる可能性が高いのは、貴族だった。
「まさか、いや、ありうるぞ。
彼は、貴族の子だったのだ。
となると、どこの貴族だ?
調査をする必要があるな、これは。
もし、大物であれば、大変なことになるぞ!」
「お父様・・・?」
侯爵は、周りが見えないほど、熟考していた。
そして、つい口に出していたのだ。
ミシェリには、その意味を理解できなかったのだった。
ルークは夜半過ぎに帰宅した。
流石に村のみんなは眠っているだろうということで、村長宅には寄らなかった。
まっすぐ家に帰ることにしたのだ。
村長への報告は明日朝に行うことにしよう。
家に帰ると、ランプに火を灯す。
そして、本棚より、日誌を取り出す。
約5週間の内容を、思い出しながら記すのだ。
しかし、ミシェリはいい子だった。
今回、侯爵による婚姻の押しつけがなかっただけ、助かったかもしれない。
いや、もしかしたら、ミシェリとくっつけるために、今回の家庭教師を頼んだのだろうか?
だが、ミシェリはきちんと勉強をしていたし、そうとも思えない。
では、侯爵がミシェリの要望を聞いた上で、ルークを巻き込んだのであろうか?
考えてみたものの、回答は出ず。
深く考えてもわからない。
あまり深く考えても意味はないかもしれない。
とりあえず、侯爵の策謀にも注意しなくては。
日誌をつけ終わると、ルークは床に就くのであった。