11-7 ウォーザード伯爵との会談。②
夕食後、場所を応接室へ移して、いよいよ会談となるはずであった。
ルークが応接室へ移動すると、見知った顔が2人いた。
「フェイド殿に、リリア―ナ殿、お久しぶりです。」
「よう、ルーク・・・様でいいのか?
なんか慣れなくてな。」
フェイドは照れているようだ。
それに対して、リリアーナは普通に挨拶する。
「ルーク様、お久しぶりです。」
そして、すぐに伯爵が現れたのだ。
「すまん、待たせたか、2人とも?」
「いや、待ってないぜ、父上。」
「はい、待ってませんよ、お父様。」
兄妹揃って、同じ返答を返す。
伯爵が座ると、ルークも座る。
そして、早速、ルークは話し始める。
「あの、会談前にいいでしょうか。
僕のことは、様付けや閣下は不要で願います。
公の場では、どちらかを付けていただければ。」
それを聞いて、伯爵は笑みを浮かべる。
「感謝するよ、ルーク。
どうやら、まだ慣れていないようだな?」
伯爵の言葉に、ルークは首肯する。
「こればっかりは、まだ慣れないですね。
ですが、魔法騎士になった以上、慣れるよう努力するつもりです。」
「そうか、では頑張って励まれるがよい。」
そう言って、伯爵は笑みを浮かべる。
伯爵はルークを気に入っていた。
上官になったにも関わらず、いつも通り接してくれようとしてくれるのだ。
人がいいと言えばそれまでだが、それでも好印象なのだ。
「さて、会談の前にだ。
フェイド、リリアーナ、お前たちにも聞かせておきたいことがある。」
伯爵は、夕食会でルークが話していた内容を簡潔に、2人に聞かせた。
フェイドは驚愕のあまり、顔が固まっていた。
リリアーナは驚いていたものの、ルークの活躍に目を輝かせていた。
「さて、フェイド、お前はどう思う?
このルークという少年の実力を?」
「あっ・・・いや、凄すぎて言葉に出ないや。
まさか、本当の意味で魔法騎士になるなんて・・・」
どうやら、驚愕状態から脱却できていないようだ。
伯爵はルークを見ると、一つ依頼するのだ。
「ルークよ、証拠を見せてくれないか?
その魔法剣を。」
ルークは立ち上がって、剣を抜く。
赤く煌めく剣が、3人の目に入る。
その美しさに、皆、魅了されていた。
「これが、魔力の煌めきだというのか!?
素晴らしい・・・」
「これが、真の魔剣!?
凄い・・・」
「とっても美しい剣です・・・」
皆、感動に浸っていた。
ルークはそろそろいいかなと思いつつ、剣をしまい、ソファに座る。
伯爵はかなり感動したようで、上機嫌となっていた。
「ルークよ、いい物を見せてもらった。
このような剣、二度と見ることはできぬかもしれぬ。」
「この剣は、僕にしか扱えないという欠点があるんですよ。
僕の魔力を使って作った物なので、
主以外に扱えないようになってしまっていて。
魔剣の複製とかできないんですよね。」
「なるほど。
だから魔法騎士は、自分のみ専用の魔剣を
持っていたということにつながるな。
もし、魔剣が大量生産されていれば、
今頃この国も存在しなかっただろうからな。」
伯爵は何かに納得したのか、魔剣について語り出す。
「魔剣には二種類ある。
一つは、人工的に造られたものだ。
これは、鍛冶師と魔導士が連携して作った剣を指す。
こちらは、大量生産とはいかないが、ある程度の生産は可能となる。
もう一つは、ルークが創った魔剣だ。
こちらは魔法の力で創られたものだ。
大量生産されたと書かれた文献は存在しない。
そう考えると、複製も含め、余分に創ることができなかったということになる。
つまり、ルークの言う通り、
創った人間にしか扱えない代物だったからという理由が成り立つわけだ。」
「なるほどな。
となると、ルークはルークにしか使えない魔剣を創ったということか。
なんか、勿体ないな。」
確かに勿体ない話だ。
だが、事実である以上、ルークにもどうすることもできないのだ。
今度試してみようかとも思ったが、ただのナマクラになりかねないかもしれない。
「さて、剣の話もここまでにしよう。
そろそろ本題に入らなくてはな。」
伯爵は話を切ると、本題に入るのだった。
「さて、本題だが、ルークよ。
この城に住むつもりはないか?」
「はい・・・?」
ルークは、嫌な予感をひしひしと感じ取っていた。
これは、いつもの展開のような予感しかしないのだ。
「ルークよ、考えてもみよ。
魔法騎士となったお主が、未だ小さな村で暮らしている。
本来なら、貴族のように、大きな屋敷に住むのが普通なのだ。
皇帝陛下は家の提供をなさらなかった。
これはもはや、ルークに対する貴族教育を
放棄していると判断できるではないか。
ならば、我が家にて、貴族教育を施す責任があるというものだ。
どうだ、我が家ならば、十分な教育を受けられる環境が整っておる。」
それは間違いなく、いい条件というべき内容であった。
伯爵はまだ続ける。
「それにルークに頼みたいことがある。
フェイドを鍛えてやってくれぬか?
今のお主は、この国最強の騎士だ。
近衛師団団長を破った腕前だ。
間違いなく最強と断言できよう。
そして、二系統の魔法を極めた実績がある点だ。
残り二系統も極めるのであろう?
その辺も、我が家でサポートするぞ。
その代わり、フェイドにも上級魔法を教えて欲しいのだ。」
フェイドは、伯爵の言葉に何も言えなくなっていた。
確かに、ルークに学んだほうが手っ取り早いのだ。
今や、ルークに敵う存在はいないに等しいからだ。
そして、ルークはというと、完全に頭が痛い状態だった。
会談という名の勧誘だったのである。
貴族というのは、かくも策を講じるのだろうか。
頭の痛い状態にあったが、ルークは言葉を紡ぎ出す。
「伯爵、その色々とありがたいのですが、住処を変えるつもりはありません。
陛下の指示があれば引っ越す予定でしたが、僕は自由を許されています。
ですから、今は住処を変えません。
フェイド殿が修行したいのであれば、お手伝いはしますよ。
ですので、このお城で暮らす件は、丁重にお断りします。」
ルークは、フェイドの修行に関しては了承していた。
これには、フェイドは驚いていた。
伯爵は、ふむとうなずくと、考え込む。
そして、言葉を口にする。
「なるほどな。
これだけ好条件でも、折れてはくれぬか。
では、これだけは約束してもらいたい。
ルークが18歳になった時、リリアーナを嫁にもらってくれぬか?
なに、他に嫁がいてもかまわん。」
これには、ルークは閉口する。
リリアーナはじっと、ルークを見つめ、口を開く。
「ルーク様、私をお嫁にもらってもらえませんか?
私は、現在花嫁修業中です。
私は、ルーク様に仕えるために勉強をしております。
ですから、それをお見せする機会を頂けないでしょうか?」
伯爵は、「いいぞ、リリアーナ!」と言っているかのように、小さくガッツポーズしてみせる。
フェイドは複雑な表情だったが、妹が本音で語ったことに驚いていた。
いつも、リリアーナは人形のようにおとなしいのだ。
だから、感情をあまり見せない。
いや、フェイドは見たことが無いだけかもしれない。
そのリリアーナが真剣に、ルークに訴えている姿に驚いていたのだ。
「えっと、リリアーナ殿、それについても考えさせてください。
僕は、まだ結婚できる年齢ではありません。
それにすぐに約束できるほど、僕にはまだ覚悟がありません。
このことは真剣に考えますから、少々、時間を頂けないでしょうか。」
これはルークの偽らざる言葉だった。
これを聞き、リリアーナはコクリとうなずく。
「はい、お待ちしております。
リリアーナは、ルーク様をお待ちしております。」
その表情は、とても嬉しそうでもあり、頬が少し赤く染まっているのであった。
会談は夜遅くなったこともあり、お開きとなった。
その後、ルークは城に泊めてもらうことになった。
翌朝、馬車にて隊舎へと戻るのであった。