11-3 通達。②
ミルドベルゼ子爵であるレイヴンは、この一報を聞き、一瞬固まった。
まさかのまさかである。
あのルークが、皇帝陛下直属の騎士になったのである。
驚かないわけがない。
それと同時に、期待通りだったことに喜びを得たのだ。
すぐさま、サーシャとミレーナを呼んだ。
「聞け。
ルークが皇帝陛下直属の騎士になった。
しかもだ。
この国唯一の魔法騎士となったのだ。」
「まぁ、素晴らしいことですわ。」
最初に喜んだのはサーシャだ。
サーシャはルークがお気に入りだったのだ。
だから、自分のことのように喜んでいた。
それに対して、ミレーナは喜んでいいのかどうか、複雑な反応だった。
理由は次のレイヴンの言葉で判明する。
「ということで、ミレーナ、わかっているだろうな?
ルークに嫁いでもらうぞ。
今から花嫁修業を開始しろ!」
ビシッと突き付けられ、ミレーナは困るよりほかなかった。
事実、ミレーナは結婚適齢期の18歳だった。
そろそろ相手を探し、お付き合いしてもいいお年頃だったのだ。
だが、ミレーナは花嫁修業もせず、お付き合いも避けていたのだ。
実は、結婚に自信がなかったのだ。
そう、臆病になっていたのだ。
悪いことではないが、いつまでもこのままというわけにもいかない。
そこで、レイヴンが最後通牒を言い渡したのだ。
これで、逃げ道を失うことになるのだ。
レイヴンは一度言いだすと、色々な手段を用いて、必ず実行する癖がある。
だから今回の花嫁計画も、絶対に遂行するだろう。
そして、ミレーナは逆らうことができないのだ。
逃げ道を失ったミレーナは、兄に従う他ないのだ。
「・・・わかったわよ。
花嫁修業はします。
ポール、手配よろしくね。
でも、ルークの気持ちはどうするのよ?」
ミレーナはぶうたれつつも、ルークのことを質問をする。
「ふむ、それも考えてある。
私が説得すれば、ルークも納得するさ。」
説得というより、恐喝じゃ・・・とミレーナは思うのだった。
「・・・ルークに逃げられるかもよ?」
「それは大丈夫よ。
私も説得に回るから。」
サーシャが追撃してきた。
完全に不意打ちだった。
まさか、サーシャも加わるとは思ってもみなかったのだ。
サーシャも、ルークとミレーナがくっつくことに大賛成だったのだ。
だから、積極的になっていたのだ。
「というわけだ。
おまえは花嫁修業をして、恥ずかしくない嫁になることだ。
いいな?」
「はぁーい。」
レイヴンの言葉に逆らえない、ミレーナであった。
クロムワルツ侯爵は、この一報を聞き、歓喜した。
まさか、ルークが皇帝陛下直属の騎士になるとは!
これは急がなくてはなるまい。
侯爵はすぐさま、ウェイツと、四女のミシェリを呼んだ。
「聞け!!
ルークが、皇帝陛下直属の騎士となった!」
「父上、それは事実なのですか?
ルーク様が、皇帝陛下直属の騎士に・・・」
ウェイツは感激しているようだ。
「あぁ、事実だとも。
こうなったからには、いかなる手段を用いても、
ルークを我が家に迎えるのだ。」
「そうですね。
早速、動きますか?」
「うむ、早いに越したことはない。
さて、ミシェリよ。」
侯爵は、娘のミシェリに向き直る。
「はい、お父様、なんでしょうか?」
「おまえは、ルークを一目見た時、どう思った?」
「はい、とてもお優しい方だと思いました。
正直者で、優しくて、そしてカッコいい方だと。」
その言葉を聞き、侯爵は大きくうなずく。
「ミシェリよ、ルークをお前の婿に迎えたいと考えている。
どうだ、彼ならば、良き夫となると思わぬか?」
「はい、思います。
ルーク様となら、穏やかな日々が過ごせると思います。」
侯爵は満足そうに笑みを浮かべる。
「そうか、そうか。
では、ミシェリよ。
ルークのために、花嫁修業を開始しなさい。
サーシャもきっと喜ぶだろうとも。」
サーシャの名を聞き、ミシェリの顔がぱあっと明るくなる。
「姉様も喜んでくださいますか?
では、頑張りたいと思います!」
ミシェリは気合が入ったようだ。
父親の言葉を信じ切っているようだ。
「さて、あとは、ルークを説得するのみだな。
負けぬぞ、レイヴン殿。」
侯爵は不敵な笑みを浮かべるのであった。
ある貴族の屋敷にて。
1人の女性が、この通達を見て、手を震るわせていた。
それは怒りか、それとも悲しみが理由なのか?
それとも、別の何かか?
「誰かいますか?」
女性がそう話すと、ドアが開き、1人のメイドが入ってくる。
「お願いがあります。
このルークという名の人物について、調査をお願いします。
出来るだけ早くお願いします。」
女性はそれだけ言うと、メイドは了承したのか、引き下がる。
「・・・まさか生きていたのね、ルーク」
その一言は、悲しみと喜びが入り混じったものだった。




