11-2 皇帝陛下の使者。②
次に、規定についての説明が始まった。
「次に規定についてお話しします。
と言いましても、ルーク様は自由騎士です。
どこかに所属しているわけではありませんので、基本自由です。
ただし、権限は異なります。
ルーク様は、このルーニア皇国の騎士団を全て統括する権限を与えられました。
意味がわかりますか?」
「えっと、つまり、この国の騎士団を自由に動かせるってことですよね?」
ルークは自分で言いながら、なんか凄いことになってないか?と思ったのだ。
「はい、その通りです。
ルーク様は騎士団を好きなように動かすことができます。
ただし、戦争の承認は必要ですが。
ルーク様は自ら戦争はしないでしょう?」
「自分からはしませんよ!」
ルークは焦りながら答える。
「そうですよね。」
そう言って、レヴィはにっこり笑みを浮かべる。
「というわけで、ルーク様にはとても強い軍事権限が与えられることになります。
なお、騎士団のみではありません。
貴族に対しても、命令権が与えられます。
貴族は、どの爵位であれ、ルーク様の命令に従わなければならなくなります。」
「えぇぇっ!?」
怖い事を聞いてしまったかのように、ルークは驚愕していた。
権限がでかすぎるのだ。
「あと、ルーク様は逮捕権を所持することになります。
例えば、貴族や騎士団に犯罪者がいた場合、
逮捕・拘束する権限があるということです。
つまり、騎士団の持つ権限を与えられたと思って下さい。
また、犯罪者を殺しても、殺人罪に問われることはありません。」
レヴィは淡々と説明を続ける。
「そして、ルーク様は皇帝陛下へいつでも謁見可能となります。
それから、皇帝陛下の同意がなくとも、近衛師団を動かすことも可能です。
戦争の際ですが、皇帝陛下の許可を得た場合、
ルーク様が主導権を握ることが許されています。
つまり、許可さえあれば、軍を動かすことも可能となります。
その他に、魔導士協会、貴族院、教会への干渉行為も許されています。
以上が規定となります。
何か質問はありますか?」
とんでもない権限を与えられたものだと、ルークは悟った。
これは、覚えるのはいいとして、怖くて外に出られそうもなかった。
そんなことを考えていると、レヴィは、本を取り出した。
「これが規定書になります。
私が説明したものはごく一部なので、読んで覚えてくださいね。」
と言って、ルークに本を渡す。
ルークは茫然としていた。
それを見て、レヴィは笑う。
「ルーク様。
例え、近衛師団に入ったとしても、同じくらいの権限が与えられるんですよ。
この程度でびっくりしているようでは、ダメですよ。
ルーク様はこれから、この国の救世主になって頂くんですから。」
そう言って、レヴィはウインクをする。
救世主って一体なんだろ?と思いつつも、ルークはうなずくしかなかった。
「とりあえず、私からは以上になります。
ルーク様、魔法騎士として精進してくださいね。
あっ、それから、ルーク様。
一つお願いがあります。」
「なんでしょう?」
「私は主に国内の内偵調査に就いています。
もし犯罪やそういった組織を見つけた場合、手を貸して頂けますか?」
「その、僕で良ければ、力を貸しますよ。
ただ、あまりに面倒な事には、巻き込まないでもらえれば。」
「うふふ。
その辺はおまかせください。」
レヴィはにっこりと笑う。
その時、ルークは手紙のことを思い出し、本棚より手紙を取り出し、レヴィに差し出す。
「あ、そうだ。
これをクリシュナ殿下に渡してもらえますか?
実は、魔法で手紙を頂いたので、その返書です。」
レヴィは手紙を受け取る。
「あら、殿下ったら、まめなことを。
了解しましたわ。
必ずお渡しします。」
そう言って、レヴィはにこりと笑みを浮かべる。
「さて、そろそろお暇しますわね。
では、ルーク様、今後ともよろしくお願いしますね。」
レヴィは立ち上がると、頭を深く下げた。
その後、レヴィを村の中央広場まで見送る。
レヴィは、“瞬間移動”にて、帰還の途についた。
「さてと、村長に説明しないといけないな。」
ルークは、村長宅を訪れることにした。
「はあぁぁっ!!
皇帝陛下直属の騎士になっただとぉぉっ!?!?」
ルークの話を聞いたルドマンは、絶叫を上げていた。
ルドマンの奥さんが、その大声でびっくりしている。
ルークは冷静だったが、この絶叫には驚きを隠せなかった。
「はい、まぁ、一応そういうことになりましたので。」
「なんで、陛下直属の騎士になったんだ?」
ルドマンはまだ興奮しているようだ。
「えっとですね、皇帝陛下直々に命令されたんですよ。
僕には、拒否権がなかったんですよね。」
ルークは困ったように答える。
「となると、ルークは実家に戻るのか?」
「へっ?実家?」
突拍子もない発言に、ルークは驚く。
ルークは実家のことをほとんど覚えていない。
実家が貴族だったことは覚えているが、どこの貴族のことなのか全く知らないのだ。
「そうだ。
覚えてないのか?」
「はい、全く、全然。」
「そうか、で、どうなんだ?」
「いえ、実家には戻りませんよ。
今まで通り、ここで暮らすだけです。
皇帝陛下から、引っ越すよう命令を受けたわけではないので。」
それを聞いて、ルドマンは少し安心したのか、ため息をつく。
「・・・そうか、それならいい。
しかし、えらい出世したものだな、ルークよ。」
「それは、僕もそう思います。
まさか、皇帝陛下に直接指名されるとは思っていませんでしたから。」
ルドマンはそれを聞いて、ルークの人の良さに変わりがないことを確認する。
普通、人は出世すれば、人相が変わったり、性格が変わったりすることがある。
無論、表に出さない人間もいるが、それでも何かしら変化が発生する。
だが、ルークは全く変わっていなかった。
いつものルークであることに、ほっとしたのだ。
「ともかくだ。
ここで暮らす分には何も問題ない。
あとは、ルークが引っ越したくなった時は、引っ越すといいさ。
そのうち、貴族様からお誘いがあるんじゃないか?」
「えっと・・・、それは否定できないですね。
でも、一応、断るつもりですよ。」
「そうか、ならいいさ。
それよりもだ。
飯食ってけ。
鹿肉が残ってるはずだ。
食ってけ。」
話が終わるや、ルークは夕食をご馳走になるのだった。