10-6 皇太子とベルガ―とレヴィ。
その後、ルークは採寸のため、近衛師団の隊舎へ移動することになった。
採寸後、予備の近衛師団の制服が渡される。
「この制服は、公の場において、必ず着用してください。
これは規則ですので、破らないように。
この制服は身分を示すものです。
その内、ルーク様専用の制服が出来上がると思いますので、
それまでお待ちください。」
レヴィに説明を受け、ルークはうなずく。
「それから、細かい規定は、ルーク様への正式な称号授与が行われた時に、
お伝えします。
おそらく、私か、私の手の者が使者として、ルーク様の元へ向かいますので、
お待ちください。
王城に来る必要はないと思いますので、ご安心を。
それでは、城外門へ案内しますね。」
こうして、ルークはレヴィに案内されるがままに、王都を出ることになるのだった。
皇太子の執務室にて、クリシュナは頭を抱えていた。
今回は皇帝陛下に完全にしてやられたのだ。
かなり悔しかった。
「殿下、申し訳ありません。
私が至らぬばかりに、このような結果に。」
ベルガ―は反省の弁を述べるも、クリシュナはベルガ―を責めるつもりはなかった。
「ベルガ―、君のせいではない。
今回は、私が招いた結果なのだ。
もっと早く、彼を勧誘していればよかったと今更ながらに思うよ。」
クリシュナは、未だルークを諦めきれないでいたのだ。
あれほどの逸材は、なかなかいないのだ。
ベルガ―に続く最強騎士の誕生を夢見ていたのだが、あっさりと砕かれてしまったのだ。
「といっても、仕方がないのだがな。
レヴィ、君は陛下が動いていることを知っていたのか?」
「いえ、知りませんでしたわ。
まさか、一部始終を見ていたなんて。
皇帝陛下からルーク様に関して、あまり問われなかったので、
安心していたのですが・・・」
「陛下は恐ろしい方だからな。
いつも思うのだが、陛下の慧眼はすごいの一言だ。
まるで何もかも見抜いているようだ。」
ベルガーの感想に、クリシュナはうなずく。
「ベルガ―、レヴィよ、済まなかった。
ここまでお膳立てしてもらったのに、私は、陛下に負けた。
ルークという最強の剣士を逃したのは、本当に悔しい。
だが、彼が我らに力を貸してくれる可能性は、まだあると考えている。
いずれ私が皇帝になれば、彼の力を十二分に扱えるようになる。
それまでには、近衛師団を更に強化しておきたい。
その時こそ、最強の騎士団として、他国に威勢を誇ろうではないか。」
クリシュナは、近衛師団の強化によって、他国に舐められない国家体制を作るのが目的だった。
それは、現皇帝陛下のためでもあり、自分のためでもあった。
ルーニア皇国繁栄のため、国力増強は急がれる課題だった。
だからこそ、ベルガ―とレヴィという協力者を得て、裏側から支えていたのだ。
皇帝陛下はそのことを知っていた。
だが、陛下は彼とは真逆のことをしていた。
そこがクリシュナにとって、気に食わないのだ。
だからこれからも反抗し続けると誓っていた。
そのうち、ルークも巻き込んで、クリシュナは改革を行うつもりだったのだ。
いずれ、皇帝の代替わりが起これば、それが可能となる。
それまで、今はできることをひたすら進めるのだった。