10-5 “魔法騎士”の誕生。
皇帝陛下は、クリシュナを見やると、声をかける。
「さて、クリシュナよ。
貴殿はルークを勧誘していたようだが、今回は貴殿の負けだ。
諦めるといい。
そして、今後も諦めるのだな。」
その何かを含んだ言葉に、クリシュナが噛みつく。
「父上、それはどういう意味ですか!?
私はまだルークを諦めたわけではありませんぞ。
今回はルークとの約束がありますので諦めますが、
彼が四系統の魔法をマスターした際、再度勧誘する分には問題ないでしょう?」
クリシュナの言い分は最もだ。
だが、皇帝陛下は首を横に振りつつ、答える。
「そうではない。
余は既に決めたのだ。
ルークには、今この場において、しかるべき名誉を与えるとな。」
「はい?」
さすがのクリシュナも、言っている意味がわからなかった。
そのクリシュナを無視して、皇帝陛下はルークに向き直る。
「ルークよ、この戦い、余は“遠見”にて、全て見ていた。
見事であった。
「魔剣生成」もさることながら、全身に魔力を流して身体強化を行うなど、
大したものだ。
貴殿は、余の見込みを超えた存在となったのだ。
よって、貴殿に見合う地位と称号を与える。
ルークよ、貴殿に“魔法騎士”の称号を与える。
皇帝陛下直属の騎士となることを命じる。」
これには、ルークは固まるほかなかった。
まさか、皇帝陛下の騎士に任命されるとは思わなかったのだ。
しかも、伝説の“魔法騎士”に。
クリシュナは絶句していた。
まさか、先にルークに地位と称号を与えるとは思ってもみなかったのだ。
完全に、クリシュナの負けだった。
「ただしだ。」
皇帝陛下の言葉には、続きがあった。
「ルークよ、自由騎士として、自由行動を許す。
いちいち、王城に来る必要もない。
余が呼んだ時に来ればよい。
自由にしている間に、残り二系統をマスターするといい。
それから細かい規定は、レヴィを通じて知らせることにする。
レヴィよ、ルークに近衛師団の制服を渡してやれ。
魔法騎士用の制服がないのでな、そのうち作らせる。
ルーク、貴殿に断る権利はない。
よいな?」
「は、はい。」
これには、ルークも受けざるをえなかった。
断ることすら拒絶されたのだから。
「それから、ルークよ。
その魔剣の名を聞かせて欲しい。
今、名付けてもかまわん。」
その言葉に、ルークは考える。
戦闘中、“斬り裂くモノ”と名付けたが、それではなんか危なっかしい。
もっといい名前を付けることにした。
「レッド・セイバーと名付けます。」
「なるほどな、赤く煌めく剣にふさわしい名だ。
では、ルークよ。
また会おう。
さらばだ。」
皇帝陛下はそう告げると、一瞬にして姿が掻き消える。
“瞬間移動”で移動したようだった。
こうして、ルークの一件は解決したのだった。
ルークは“魔法騎士”に任命され、皇帝陛下直属の騎士となった。
しかも、回避不可だった。
ルークが正式に“魔法騎士”に叙勲されるのは、後日のことであった。