10-3 完成された“魔法剣”
戦闘中、ルークは考える。
剣で不利ならば、どうすればいいかを。
答えは一つだ。
魔剣を作ることだ。
出来なくはない。
ルークは、「創造系魔法」を発動し、祈る。
魔剣を創る力を。
魔法剣を上回る剣を生成する力を。
ルークは突如、剣を纏っていた炎を消す。
「どういうことだ?
臆したか?」
ベルガ―は挑発する。
だが、ルークはベルガ―を無視し、右手で柄を、左手を剣の刃に触れていた。
そして、念じていた。
途端、ルークの剣が赤く輝きだす。
そして、真っ赤な剣が出来上がったのだ。
「いくぞ、“斬り裂くモノ”よ。」
ルークはそう呟くと、剣を構え直す。
そして、もう一つ、「創造系魔法」に願う。
全身に魔力を注入するという荒業だ。
今、剣の腕は互角でも、勝てなければ意味が無い。
ならば、全身の筋肉で足りなければ、魔力による補助も可能ではないかと考えたのだ。
結果、全身に自分の魔力を流す力も願ったのだ。
途端、ルークの全身に力がみなぎる。
それと同時に、体が負担により破壊されないよう、常時回復を付加したのだ。
これにより、ルークの体は人間を超えたのだ!
そして、ルークは動き出す!
「なにっ!!?」
その圧倒的な速さに、ベルガ―は思わず驚いていた。
突然、人が変わったように、動きがさらに加速されていたのだ!
再び、2人による剣戟が再開される。
だが、今度はベルガ―が防戦一方となったのだ!
しかも、ルークの剣を受けるたびに、ベルガ―の魔剣からミシミシと音が聞こえてきたのだ。
剣を交える度に、剣が悲鳴を上げていたのだ。
何が起きたのか、ベルガ―には理解できなかった。
突然、ルークが強くなったのだ。
しかも、ルークの剣は、先ほどの魔法剣とは明らかに異なるのだ。
そして、そこで気が付く。
ベルガ―の魔剣にヒビが入っていたのだ。
「なんだと!?
魔剣にヒビだと!!?」
ベルガ―は驚愕した。
とにかく、ここは防御しかなかった。
ベルガ―はルークの動きをさらに観察し、隙を伺う他、手段がなくなっていったのだった。
ベルガーが守勢に回ったことに、クリシュナは驚くほかなかった。
それよりも、驚いたのはルークの動きの変化と、剣だ。
赤く煌めく剣が急にできたと思った瞬間、さらに加速が増したのだ。
そして、ベルガ―を圧倒しているのだ。
突然の変化に、驚愕するしかない。
「レヴィ、これは、何なのだ?
私は知らないぞ、こんなことは!!」
思わず、クリシュナはレヴィに質問をしていた。
「・・・は、はい、私も初見です。
何故、このようなことになったのか、理解できません。」
レヴィもルークの突然の変化に、驚いているようだ。
彼女の知らない事は、クリシュナも知らないと同義なのだ。
「彼は、この場において、更に強くなるというのか!?
なんということだ。
なんという、素晴らしいことなんだ!」
クリシュナは歓喜していた。
ルークの進化を垣間見たような気がしたのだ。
レヴィはというと、ただただ驚くのみだった。
しかも、団長が敗れそうな勢いなのだ。
今は守勢を保っているが、いつ崩されるかわからない。
いや、それ以前に、魔剣が折れそうな状況だと気が付く。
魔剣にヒビが確認されたのだ。
このままでは、団長が負ける。
レヴィは、そう確信せざるを得なかった。
ベルガ―は守勢に回りつつも、隙を伺って剣を振るう。
だがしかし、ルークの動きが速く、あっさりと防がれてしまうのだ。
先ほどとはまるで別人だった。
これでは勝てぬ。
このようなことは、団長になって以来、初めてのことであった。
彼は、団長になるまで必死に修行を重ね、努力の結果、今の剣術を身につけた。
無論、魔法も使いこなせるのだが、剣術こそが重要であると考えていたのだ。
そして、皇帝陛下に認められ、近衛師団の団長を拝命することになった。
その時頂いたのが、魔剣スティールヴェインなのである。
以来、彼は負けなしだった。
戦争に出ても、一切負けることはなかった。
その彼が、今や負けを確信していたのだ。
もうそろそろ、剣が折れるだろう。
だが、陛下より頂いた剣を、折るわけにはいかなかった。
これは苦渋の判断であった。
ベルガ―は、ルークより離れると、剣を収めたのだ。
「私の負けだ、ルーク。」
ベルガ―は、あっさりと、負けを認めたのだった。